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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    伊勢エビ偽装の宴席で大恥、料理店の法的責任は?

    相談者 K.Cさん

    • イラストレーション・荒木田美咲
      イラストレーション・荒木田美咲

     「鳥羽産の新鮮な伊勢エビを使った会席料理です。磁器婚式にふさわしいお料理でございます」

     ふすまを開け、座敷に入ってきた仲居さんは正座をして頭を下げ、もったいぶった口調で料理の説明をし始めました。

     「節目の時に、きちんとごあいさつしないと気が済まないのよ」と結婚20年目の宴席を提案したのは妻でした。

     「こんな嫁では家柄が釣り合わない」という私の両親、親戚の猛反対を押し切り、駆け落ち同然で結婚した私たち夫婦は、披露宴を挙げられませんでした。二人の生活は4畳半一間のアパート暮らしからスタートしました。ガスコンロで沸かしたやかんの蒸気が暖房代わりでした。貧乏だった新婚時代も今は懐かしい思い出です。

     宴席には素晴らしい料理が出てきました。サラダ、生け作り、揚げ物、みそ焼き、あんかけ、吸い物……。一流料亭の板前の手になる伊勢エビづくしの逸品です。

     「おいしい、おいしいね」。私の両親、親戚ともども大喜びしてくれました。

     宴席から数日後、新聞を読んでいてある記事が目にとまりました。有名な日本料理店がメニューには伊勢エビと書いておきながら、実際は北米産のロブスターを使っていたというのです。20年目の披露宴を挙げたあの料亭でした。一人2万円以上もする料理が、生け作り以外は偽物の食材だったのです。

     「偽装食材を食べさせられた」

     口の肥えた口さがない親戚が私たち夫婦の悪口を言っていることも耳に入ってきました。料理はおいしかったので、冗談めかした軽口だったのかもしれません。それでもショックでした。

     「許せない」

     人生で2度とない大事なセレモニーを汚されたのです。料亭に対する怒りがこみ上げてきました。妻に対しても申し訳ないという気持ちでいっぱいになりました。あの料亭を選んで予約したのは私だったのです。

     料亭は食材偽装で信用を失いました。社会的な制裁を受けたのは当然のむくいです。ただ、私としては、事実上の制裁だけではなく、法的にも何らかの制裁を受けるべきと思っています。

     今回のようなレストランメニューの偽装問題が、どのような法律で規制されているのか教えていただけますか。(最近の事例をもとに作成したフィクションです)

    回答



    食材偽装で措置命令

     2013年12月19日、食材の偽装表示問題において、消費者庁は、阪急阪神ホテルズ、阪神ホテルシステムズ、近畿日本鉄道に対して、景品表示法に基づき措置命令を行いました。例えば、阪神ホテルシステムズの措置命令では、世界的に有名なホテルである「リッツ・カールトン大阪」の「イン・ルーム・ダイニング」と称するルームサービスにおいて提供する「車エビのチリソース煮」について、車海老よりも安価に取引されているブラックタイガーが使用されていたことなどが認定されています。

     公表された資料は、個別の表示概要を明記した添付別紙も入れると50ページ超に及ぶ大部の内容となっており、これら企業において、いかに多くの不当な表示がなされていたかを如実に表しています。

     この措置命令において、上記3社に対し、「対象料理等の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すもの」であり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すると同時に、再発防止策を講じてこれを役員及び従業員等に周知徹底すること、今後、同様の表示を行わないことなどが命じられました。

     ちなみに、いずれの企業も自主申告し既に表示を改善しているにもかかわらず、行政指導にとどまらず、景品表示法違反における最も重い対応が取られたことについては、再発防止の徹底という意味ばかりでなく世論の沸騰に対する配慮も伺えるところです。

     なお、消費者庁は、措置命令を出したその日に、メニュー・料理等の食品表示にかかわる景品表示法上の考え方を整理し、事業者の予見可能性を高めること等を目的として、「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(案)」というガイドラインを公表し、パブリックコメントの手続きを開始しています(意見提出締切日は2014年1月27日)。

     そこでは、メニュー対象の食材を肉類、魚介類、農産物、小麦製品、乳製品、飲料に分類したうえで、景品表事法違反の恐れがあるメニュー表示に関して35の詳細なQ&Aが掲載されています。

     消費者庁は、3社以外にも引き続き調査するとのことですが、今回の措置命令によって、2013年10月から始まった、全国のホテルや百貨店で相次ぎ発覚した食材偽装表示に、一応のけじめがつけられたことになります。

    相次ぎ露見した偽装表示

     今回の騒動の発端は、2013年10月22日に、阪急阪神ホテルズが運営する8ホテル及び1事業部の23店舗、47商品で、メニュー表示とは異なった食材を使用して料理を提供していたことが発表されたことにあります。それ以降、毎日のように有名ホテル、百貨店等で、偽装表示の問題が報道されました。ホテル系では、前述のザ・リッツ・カールトン大阪、帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューグランドなど、誰もが知っている著名な名門ホテルが多数含まれていました。百貨店系でも、大丸松坂屋、日本橋三越本店、日本橋高島屋、三越伊勢丹、そごう・西武、小田急百貨店等、同様に有名百貨店が軒並み名を連ねています。

     そして、偽装表示の具体例としては、以下のようなものがありました。

     「鮮魚のムニエル」に冷凍の魚、「九条ねぎ」に一般的な白ネギ、「車エビ」にブラックタイガー、を「フレッシュジュース」に既製品のオレンジジュース、「(ビーフ)ステーキ」に牛脂注入肉、「伊勢エビ」にロブスター、「地鶏」に地鶏と表示できない国産鶏肉、「芝エビ」にバナメイエビ、「駿河湾産鮮魚マリネ」に駿河湾産以外の魚が混在、「日高産キングサーモン」の代わりにニュージーランド産、「カラスミ」にサメやタラの卵、「房総アワビ」に蝦夷アワビ等です。

     とてもここにご紹介しきれないほどの、様々な偽装の具体例が報道されました。

    政府の対応

     わずかの期間に、次々と偽装表示の存在が報道されたことは、私たちの社会において、食材の偽装表示が蔓延まんえんしていたことを如実に物語っています。政府は、ホテルや百貨店、レストラン等で表面化した一連の問題が、国内外の消費者の「日本の食」に対する信頼を失墜させるおそれがあると危機感を抱きました。

     こうした状況が続けば、国内の個人消費、ひいては日本経済に悪影響が生じかねないばかりか、国外の「日本の食」に対する信頼が揺らぎかねないと、この事態を重大に受け止め、必要な対策を速やかに講じ、「日本の食」に対する国内外の消費者の信頼回復に全力を尽くす考えを表明しています。その一環として、食品表示等の適正化に向けて、景品表示法の不当表示事案に対する課徴金制度の導入といった抜本的な対策についても協議を進めているとのことです。

    食品の表示を規制する法令

     食品の表示を規制する法令としては、食品衛生法、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)、健康増進法、米トレーサビリティ法(米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律)、食品表示法、景品表示法等、様々な法律が関わっています。今回は、景品表示法が適用されましたが、なぜ他の法律が適用されなかったのかの理由を簡単に見ていきたいと思います。

    <1>食品衛生法

     食品衛生法は、飲食に起因する衛生上の危害発生を防止することを目的として、販売の用に供する食品・添加物に関する表示の基準を定めています。表示の対象品目としては、牛乳、バター、チーズ等の乳、乳製品及びこれらを主原料とする食品、マーガリン、清涼飲料、容器包装詰加圧加熱殺菌食品、食肉、切り身又はむき身にした鮮魚介類であって生食用のもの、容器包装に入れられた加工食品等。多数の品目が挙げられています。

     ただし、食品衛生法が対象とするのは、容器包装された販売の用に供する食品又は添加物等であり、容器包装されていないレストラン等で供する料理、いわゆる外食に関するメニュー表示には規制が及びません。

    <2>JAS(日本農林規格)法

     JAS法は、原材料や原産地など品質に関する適正な表示により一般消費者の選択に資し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的として、すべての飲食料品の品質に関する表示について、製造業者等が守るべき基準を定めています。

     具体的な対象には、野菜や果物などの農産物、肉や卵などの畜産物、魚や貝などの水産物で加工していない生鮮食品、生鮮の農産物などの原料を加工して製造された飲食料品(野菜冷凍食品、農産物漬物等)である加工食品、大豆、とうもろこし等のうち遺伝子組換え食品、等が挙げられています。

     これらの飲食料品について、表示が義務づけられた品質表示基準としては、名称、消費期限又は品質保持期限、原材料(原材料としての添加物を含む)、保存の方法、原産地等が挙げられています。ちなみに、2007年10月に発覚した、船場吉兆による、消費期限や賞味期限を経過した商品について、その表示ラベルを張り替えるなどして販売した事件においては、このJAS法が適用されています。

     ただ、JAS法は、すべての飲食料品を対象としていますが、今回、問題となっている飲食店のメニュー表示、いわゆる外食の表示は規制対象とされていません。対面販売である外食の場合、その場で原産地等について店員に尋ねれば分かるということで、JAS法の規制対象から外れていたのです。

    <3>健康増進法

     健康増進法は、栄養の改善その他の国民の健康の増進を図ることを目的とし、国民の健康増進を総合的に推進するため、特別用途の表示、栄養成分に関する表示の基準を定めています。

     いわゆる特保(特定保健用食品)や特別用途食品を対象とし、特保については、特定の保健の用途(血糖値、血圧、コレステロール等)を表示することや、栄養成分量、1日の摂取目安量等を表示すること、後者では、病院用食品、妊産婦用等の特別の用途の表示(低たんぱく質食品、アレルゲン除去食品、無乳糖食品等)をすべきものとして規制しています。

     しかし、やはり、いわゆる外食の表示に関して規制しているというものではありません。

    <4>米トレーサビリティ法

     米トレーサビリティ法は、米穀などの適正かつ円滑な流通を確保するとともに産地情報を伝達することを目的とし、米穀事業者等が、対象となる米穀等を一般消費者に販売又は提供するときは、米穀の産地情報の伝達をしなければならないとするものです。

     取引等の記録の作成・保存に関する規定は2010年10月1日に施行され、産地情報の伝達に関する規定は2011年7月1日に施行されています。対象となる品目は、米穀、米粉調製品、米こうじ、米飯類(各種弁当、各種おにぎり、赤飯、おこわ、包装米飯、発芽玄米、寿司、チャーハン、オムライス、ドリア等)、もち、だんご、清酒、みりん等、米穀及び米穀を原材料とする飲食料品となっています。

     今回の偽装表示問題では、米トレーサビリティ法の規制対象である米穀等に関するものは見当たらないようですが、仮に対象品目に関する産地の偽装表示があれば、同法違反で、勧告、命令処分が出される可能性もあったと思われます。

    <5>食品表示法(未施行)

     食品を摂取する際の安全性及び一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会を確保するため、前述の「JAS法」「食品衛生法」「健康増進法」の3法の食品表示に関する規定を整理、統合したものですが、公布の日(2013年6月28日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されるとされており、まだ未施行の法律です。ただ、いずれにしても現状では、本件のような事件を対象とするものではありません。

    今回適用された景品表示法

     このように、食品表示に関しては、多数の法令が規制をしていますが、消費者庁長官は、2013年11月13日の記者会見で、次のように述べて、本件食品表示について、景品表示法によるのが適切との判断を示していました。

     この外食、中食のメニュー表示等については、食品表示法ではなくて、景品表示法を使っていくべきであると考えています。それはなぜかというと、景品表示法というのは、商品やサービスについて実際のものよりも著しく優良であると誤認されるおそれのある不当な表示を禁止するものであり、一方、JAS法ですとか食品表示法は、原材料や賞味期限等の特定の事項を表示しなさいというものだからです。

     これは、景品表示法では、事業者が自ら商品やサービスの宣伝のために行う表示で虚偽、誇大な表現で消費者の優良誤認等を生じないようにするという目的を持っています。それに対して、JAS法や食品表示法は、その事業者の自主性に任せていたら、必ずしも情報提供がなされないという事項について、消費者の選択に資するために、義務的にこれを表示しなさいといった趣旨になっています。

     今回問題となった外食に関して言いますと、スーパー等での容器包装入りの食品の表示とは違っていて、料理人が食材を調理した料理としてその場で消費者に提供するというサービスの提供という側面があると思います。ですから、こうした外食におけるメニュー表示については、消費者に選択してもらうために非常に多種多様です。

     例えば、特定の産地や銘柄の材料を使用したということを強調する表示、メニューがありますが、例えば何とかステーキですとか、どこどこ産とかということが表示されていますよね。また、キャビアとかフォアグラみたいに、「高価な材料を使用しています」と言って顧客を誘引するものですとか、日替わり定食ですとか、本日の魚料理ですとか、シェフのおまかせランチですとかといった食材の詳細を必ずしも明らかにしないというのがあります。

     更にまた、漁師風のサラダとか、至高の一口とか、ごちゃ焼きといった、趣向を凝らした料理名や書き方で消費者の目を引くというものもあります。このように、外食のメニューというのは様々な創意工夫によって消費者に訴求するという、宣伝的、広告的な面を有していると言えると思います。ですから、特定の事項を定めて表示をさせるという義務を課すにはなじまない面があり、これは景品表示法で取り締まることが適切であると考えています。

    景品表示法の内容

     本連載でも何度も取りあげられてきた景品表示法とは、消費者の自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保するため、一般消費者に誤認される表示や過大な景品類の提供を制限及び禁止する法令です。

     今回の偽装表示で問題となった規定は、景品表示法4条1項1号の優良誤認となります。優良誤認の規制は、商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のもの(又は競争事業者に係るもの)よりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示をしてはならないというものです。

     今回、実際の食材等より一般的に品質が良いとされる食材等を使用していると思わせる表示をメニュー等で行っているものであることから、この禁止される優良誤認表示に該当するとされたわけです。

     なお、景品表示法では、表示が故意や過失でなされたか否かは問題としませんので、阪急阪神ホテルズ社長が記者会見で繰り返した「偽装ではなく、誤表示である」という主張は景品表示法の適用上問題にはなりません。

     消費者庁は、「著しく優良であると示す」表示に該当するか否かは、業界の慣行や表示を行う事業者の認識により判断するのではなく、表示の受け手である一般消費者に「著しく優良」と認識されるか否かという観点から判断する、また「著しく」とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて一般消費者による商品・サービスの選択に影響を与える場合をいうと説明しています。このような基準に照らして、今後、今回措置命令を受けた3社以外についても消費者庁は調査を行い、措置命令等の処分を行うか否かを検討することになると思われます。

    過去にも偽装が景品表示法違反に

     実は、これまでも食品に関わる偽装に関して、景品表示法違反とされた事例は結構ありますが、今回のような社会問題にまでは発展しませんでした。ここでは、過去になされたメニュー表示等に関する措置命令等の概要を参考までにいくつかご紹介したいと思います。

     ちなみに、消費者庁は、下記<5>の事件を受け、ホームページで公表している「よくある質問コーナー(表示関係)」に以下のような質問を追加し成形肉や牛脂注入加工肉を「ステーキ」と表示するのは問題があると明確に公示しているのです。

     ・「牛の成形肉を焼いた料理のことを『ビーフステーキ』『ステーキ』と表示しても良いのでしょうか」(Q53)

     ・「牛の成形肉を焼いた料理のことを『ステーキ』とは表示せず、『ビーフ』、『健康ビーフ』、『やわらかビーフ』、『ビーフ(やわらか加工)』と表示してもよいでしょうか。」(Q54)

     ・「牛脂等注入加工肉を焼いた料理のことを『霜降りビーフステーキ』、『さし入りビーフステーキ』と表示してもよいでしょうか」(Q55)」

     つまり、今回の食材の偽装表示の問題は必ずしも新しい問題ではなく、過去にも同様の問題は発生していたわけです。問題が明らかになる都度、公正取引委員会や消費者庁は処分を出し注意喚起してきていたのですが、今回の一連の問題を見る限り、行政による個別の処分は、業界全体に対するインパクトを持たなかったということです。

     なお、消費者庁が発足された2009年9月1日以前は、景品表示法違反に関する処分は、公正取引委員会によってなされており、以下の事例では、公正取引委員会による処分も含まれています。

    <1>2005年11月15日、公正取引委員会による排除命令

     F社は、自社が経営する飲食店において、一般消費者に提供した「ビーフステーキ焼肉ソースランチ」、「ひとくちビースステーキ焼肉ソースランチ」等と称する5種類の料理について、あたかも、当該料理に使用している肉は、牛の生肉の切り身であるかのように表示していたが、実際には、牛の成型肉(牛の生肉、脂身等を人工的に結着し、形状を整えたもの)であったとして、同表示は、一般消費者に対し、「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」であると判断しました。

    <2>2008年12月16日、公正取引委員会による排除命令

     H社が運営する「H東京」と称するホテル内で、同社が経営する飲食店において、料理を一般消費者に提供するにあたり、例えば、「特選前沢牛サーロインステーキのグリエ ポテトニョッキとミロトン」等とメニューに記載することによって、あたかも、牛肉を用いる料理に前沢牛の肉を用いているかのように表示していたが、実際は、当該料理に用いられた牛肉の大部分が前沢牛の肉ではなかった、また、「北海道産ボタン海老のマリネ 紫蘇とジンジャーの香り」と記載することにより、あたかも、当該料理に用いられているボタンエビは北海道産のものであるかのように表示していたが、実際はすべてカナダ産のものであった等として(他にも認定事実がありますが割愛します)、一般消費者に対し、「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」であると判断しました。

    <3>2009年6月22日、公正取引委員会による排除命令

     S社は、九州地区に出店しているファミリーレストランにおいて、例えば「T農園の皆さんと安全・安心の野菜たち。(長崎県島原市)」と記載して、野菜の生産者の写真を掲載するとともに、「島原のエコファーム認定農場から直送の安心野菜。 ◎ほうれん草やみず菜などの葉野菜は、長崎県エコファーム認定農場、島原「T農園」から直送する新鮮野菜。有機肥料を使った低農薬の安全、安心な野菜です。」と記載することにより、あたかも、葉野菜を用いる料理に、長崎県に所在する同県からエコファームに認定された農場で有機肥料を使用して低農薬で栽培したものを用いているかのように表示したが、実際は、葉野菜を用いる料理に、長崎県に所在する生産者が有機肥料を使用して低農薬で栽培したものを用いていたのは、ほうれん草及び水菜だけであった等として(他にも認定事実がありますが割愛します)、同表示は、一般消費者に対し「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」であると判断しました。

    <4>2010年12月9日、消費者庁による措置命令

     J社が運営する「ホテルG」内で、同社が運営する料理店において提供した「春の行楽いろどり弁当」と称する料理について、「よく味の染みた京地鶏と京豆腐に、とろとろ半熟卵を乗せた鶏すき焼き」等、対象商品に京地鶏の肉及び半熟卵を用いている旨の表示がなされていた。しかし、調査の結果、実際に用いられていたのは、京地鶏の肉ではなくブロイラーの肉であり、また、平成22年4月1日から同月12日までの間、半熟卵は用いられていなかったことが判明した。消費者庁は、一般消費者は、当該料理の鶏すき焼きには京地鶏の肉及び半熟卵が用いられていると誤認するものであり、これらの表示は、一般消費者に対し、「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」であると判断しました。

    <5>2011年3月4日、消費者庁による措置命令

     B社が運営する料理店において提供する料理に関する表示について、「霜降サーロインステーキ」等と表示していたが、実際は、牛脂を注入する加工を行ったものであり、また「健康ステーキ」等と表示していたが、実際は、牛の横隔膜の部分の肉を食用のりで貼り合わせる加工を行ったものであった。このような表示につき、一般消費者は、霜降ステーキ肉には「霜降り」といわれる一定の飼育方法により脂肪が細かく交雑した状態になった牛肉が用いられていると、また、健康ステーキ料理には、牛の生肉の切り身が用いられていると、それぞれ誤認するものであり、これらの表示は、一般消費者に対し、「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」であると判断しました。   

    「ロブスター」を「伊勢エビ」…明確な景品表示法違反

     冒頭でご紹介した「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について(案)」に掲載されているQ&Aの10には、「飲食店のメニューに「ロブスター」を「伊勢エビ」と表示しても景品表示法上問題ありませんか。」という質問に対して、明確に「問題となります。」と回答されています。

     そして、その説明として、「例えば、一般的名称が『アメリカンロブスター』であるものは、標準和名が『イセエビ』とは異なる魚介類とされていますので、そもそもイセエビではないアメリカンロブスターを『伊勢エビ』と表示することは、実際のものと異なるものを表示していることになります。また、現状においては、一般消費者の商品選択等を反映して、イセエビよりもアメリカンロブスターが安価で取引される実態にあると認識されています。したがって、イセエビではないアメリカンロブスターを『伊勢エビ』と表示すると、景品表示法上問題(優良誤認表示)となります。」と明記されています。

     つまり、ご相談の事例のように、「鳥羽産の新鮮な伊勢エビを使った会席料理」などと称して、実際には北米産のロブスターを使った料理を提供したお店は、明確に、景品表示法違反に該当することになるわけです。

     ちなみに、私も今回の騒動で、「ミナミイセエビ」という“イセエビ”の存在を初めて知りました。南半球に生息するこの“イセエビ”は、ホテルや通販のおせち料理などで「伊勢エビ」として利用されてきたようです。報道によると、今回の騒動を受けて、おせち料理向けの伊勢エビの値段が高騰しているということですが、「ミナミイセエビ」を「伊勢エビ」と表記して、おせち料理のチラシやパンフレットを発行していた業者が、今回の食材偽装事件を受け、急きょ、争奪戦を繰り広げているからとのことです。日本の伝統文化とも言うべきおせち料理にまで、過去に偽装があったということを聞いて、情けない思いをしたのは、私ばかりではないと思います。

     国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)は、折しも12月4日、日本政府が推薦した「和食 日本人の伝統的な食文化」を無形文化遺産に登録することを決めました。食関連の無形文化遺産では、「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」「トルコのケシケキの伝統」に次いで5件目となります。世界中で和食がブームとなり、文化遺産として認定される状況の中で起きた、この騒動を私たちは教訓として、当たり前の事ですが、メニューで表示されたとおりの食材を使った美味おいしい料理を安心して食べられるような社会にして行きたいものです。

    不祥事対応の教訓にも

     余談になりますが、冒頭で説明した阪急阪神ホテルズ社長の記者会見は、不祥事対応の典型的な失敗例となりました。最初の記者会見で、社長は、「偽装ではなく誤表示」と繰り返して、必ずしも世間に対し謝罪という印象を与えず、火に油を注ぐ結果となってしまいました。

     過ちを犯したのが事実であった以上、「偽装」か「誤表示」かなど消費者には関係ないことなのですから、事実だけをきちんと説明して真摯しんしに謝罪すべきでした。他にもやっているところはあるという類いの言い訳や不遜な態度を取ることは、この手の対応においては命取りになります。

     雪印の社長が集団食中毒事件の際に述べた「私は寝てないんだよ」という発言は今でも語りぐさとなっており(興味のある方は、「雪印」「寝てないんだよ」で検索すれば、You Tubeなどで当時の画像を実際に見ることが出来ますので参照してみて下さい)、やはり企業のトップは、常に、いざという時における対応について心がけておく必要があるということです。そういう意味で、今回の騒動は、企業のリスク管理体制にも課題を残したと言えそうです。

    2013年12月25日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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