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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    養子あっせん、 特別養子縁組って何?

    相談者 K.Hさん

    • イラストレーション・荒木田美咲
      イラストレーション・荒木田美咲

     結婚8年目、42歳の主婦です。不妊治療を長年続けてきましたが、子どもを授かるには至っていません。子どもがほしいという気持ちに変わりはなく、養子についても関心を持って調べています。

     ところが最近、養子あっせんにおいて、養父母があっせん団体から寄付金の名目で多額の支払いを求められ、実際に支払っていたことを新聞報道で知りました。専門的なことは分かりませんが、法律が人身売買防止の観点から養子あっせんで利益を得ることを禁止しているにもかかわらず、一部の民間団体が、実費以外に、寄付金名目で多額の金銭を受領していたことが問題になっているようです。

     アメリカではアンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットという人気俳優同士のカップルが、養子3人と実子3人、合わせて6人の子どもを育てていて、来日のたびに多くの子供を連れてくるので何かと話題になっています。自分の子供も養子も分け隔てなく育てているのを見ると、日本との文化の違いを感じてしまうのと同時に、うらやましくも思ったりしています。

     日本では子どもを望んでいるのに子宝に恵まれない夫婦が増えている中、これまで養子についてはあまり語られてきませんでした。今回の新聞報道で養子制度に、特別養子というものがあることを初めて知りました。特別養子に焦点をあてて、日本における養子の制度について詳しく教えてもらえないでしょうか。(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

    回答



    ベビービジネス?

     子どもの養子縁組をあっせんする民間団体が、養子先の親から多額の“寄付金”などを受け取っている実態があることが問題となっています。報道によれば、ある団体は、あっせんの際に、実母の出産費用などの実費に加えて「エンジェル・フィー」などと称して、一律180万円を請求していたとのことです。こうしたケースは児童福祉法が禁止している営利目的のあっせんにあたる恐れがあり、7月11日、東京都が立ち入り調査に入りました。

     児童福祉法34条1項は、「何人も、次に掲げる行為をしてはならない」と規定し、「成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として、児童の養育をあっせんする行為」(第8号)を掲げています。

     そして、厚生労働省は、「養子縁組あっせん事業の指導について」という通達の中で、「養子縁組あっせん事業を行う者に対する指導上の留意事項」として、「営利を目的として養子縁組のあっせんを行う行為は、児童福祉法第34条第1項第8号の規定により禁止されるものであること。ただし、交通、通信等に要する実費又はそれ以下の額を徴収することは差し支えない」と明記しています。さらに、「養子縁組あっせん事業を行う者が養子の養育を希望する者から受け取る金品に係る指導等について」という通達の中でも、「養子縁組あっせん事業を行う者が養子希望者等から受け取ることができるのは『交通、通信等に要する実費またはそれ以下の額』に限られ、それ以外の金品はいかなる名称であっても受け取ることができないものであること」「『交通、通信等に要する実費』の範囲はそれぞれの事案ごとに個別的に判断されるものであるが、例えば、交通及び通信に要した費用、養親の研修、面接、家庭訪問、カウンセリング等に要した費用等、養子縁組あっせんに着手してから縁組み成立までの活動に要した費用、実母が出産するのに要した費用、子どもの引き取りまでの養育費等や、また国際養子縁組あっせんの場合はあっせんに必要な文書の翻訳料及びビザ申請書類作成費等が考えられること」「養子縁組あっせん事業を行う者が養子希望者等から寄附金(支援金、謝礼金等他の名目のものを含む)を受け取る場合は、任意のものに限ることとし、寄附金の支払いや支払いの約束を養子縁組あっせんの条件としたり、これによりその優先順位をつけたりすることのないよう指導すること」と詳細に記載しているのです。

     以上のように、法令及び通達によって、養子縁組あっせん事業を行う者が営利目的で事業を行うことは、具体的、明確に禁止されているにもかかわらず、一部の団体が、実質的にあっせんの対価とも受け取られる金銭を受領し問題となっているわけです。今後、これらの問題がどのように決着するのか分かりませんが、児童福祉法違反の場合、「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定されているのであり、うやむやにせずきちんと処理をしてもらいたいものです。

    特別養子縁組とは

     さて、上記報道でたびたび出てきたのが「特別養子縁組」という言葉です。特別養子とは、原則として6歳未満の未成年者の福祉のため特に必要があるときに、未成年者とその実親側との法律上の親族関係を消滅させ、実親子関係に準じる安定した養親子関係を家庭裁判所が成立させる縁組制度に基づく養子を言います。

     通常の養子が、実の親との法的な親子関係を維持したままであるのに対し(2組の親を持つことになるわけです)、特別養子の場合、養子と実の親(及びその血族)との親族関係を終了させてしまうことに大きな特徴があります。そして、このような制度設計は、特別養子縁組が導入された経緯から出てきたものです。

    導入の経緯

     実は、特別養子縁組制度は、1987年の民法改正により導入され、翌88年から施行された比較的新しい制度です。何故、このような制度が新たに導入されたのでしょうか。

     日本では、昔から養子が比較的普通に行われてきました。江戸時代の「家」の継承のための養子が典型です。NHK大河ドラマ「八重の桜」で有名になった会津藩第九代藩主の松平容保も、会津藩主松平容敬の養子となり家督を継いでいます。このような養子に関する歴史を背景にして、明治時代の民法においても、養子縁組制度が規定されており、養子をとる要件が緩やかで、離縁も容易、養子縁組の効果としても嫡出子としての身分を取得するにとどまるといった特徴がありました。

     この明治民法下での養子縁組制度は、戦後の民法改正によって、未成年者を養子にする場合には家庭裁判所の許可を要するなど、子の福祉に一定の配慮が示された養子縁組制度に生まれ変わりました。しかし、この従来の養子制度では、戸籍上に、「養父母」といった用語が用いられ、子供が何かのきっかけで自分の戸籍を見て、実は自分が本当の子供ではないことを知ってしまうという事態が生じることがありました。昔のテレビ番組などで、子供がたまたま自分の戸籍謄本を見て衝撃を受けて……というようなドラマがあったのはそのためです。

     言うまでもなく、子をもらい受けて育てたいという親としては、養子であっても、実の子として育てたいという強い希望があり、誰からも養子と分からないようにしてほしいと願っているのであり、この思いが考慮され(他にも理由はありますが割愛します)、現在の特別養子縁組制度の導入へと至ったと言われています。

    菊田医師事件

     特別養子縁組制度導入の契機の一つとして、1973年に起きた、いわゆる菊田医師事件が知られています。菊田医師事件とは、宮城県石巻市の産婦人科医師である菊田昇氏が中絶手術をする中で、様々な事情から人工妊娠中絶を求める女性を説得して出産させる一方で、地元紙に「赤ちゃん斡旋あっせん」の広告を掲載し、生まれた赤ちゃんを子宝に恵まれない夫婦に無報酬であっせんしたというものです。その際、実子として育てたいと言う養親の強い要請に応えて、偽の出生証明書を作成して引き取り手の実子としましたが、それは産むわけにはいかない実親の戸籍に出生の記載が残らず、また養子であるとの記載を戸籍に残さないよう配慮したためと言われています。

     菊田医師は、事件が報道された当初、時の法務大臣の「子供が幸福になるのだとしたら、事荒立てて取り締まるべきではない」との発言などによって、いったんは不問とされましたが、紆余うよ曲折を経て、最終的には、愛知県産婦人科医会が告発に踏み切り、これを受けた仙台地検が、医師法違反、公正証書原本不実記載、同行使の罪で菊田医師を略式起訴しました。結局、仙台簡易裁判所は、罰金20万円を科しましたが、この事件により、実子として育てたい養親の要望に応える制度の必要性が広く社会に認識されるに至りました。このような背景の下、87年、育ててくれる親のない子の福祉という理念や、実子として育てたいという養親の心情を満たすという目的を図るための特別養子縁組制度が導入されることとなったのです。

     ちなみに、特別養子縁組の家庭裁判所認容件数は、88年が758件、89年が1223件と特別養子制度が導入・施行された直後は増加しましたが、その後、減少し、2007年には289件と300件を切りました。近年は、350件強で推移しており、11年は374件となっています(最高裁判所事務局「司法統計年報」家事事件編より)。

    普通養子との違いは?

     特別養子縁組制度の導入により、それまでの養子縁組制度は、普通養子縁組として区別されるようになりました。

     両者の具体的な違いは、まず、普通養子縁組の場合は、基本的に契約によって親子関係が発生するのに対し、特別養子縁組の場合は、養親となる者の請求により家庭裁判所の審判によって成立する点にあります。これは、子の福祉を優先する縁組を成立させるため、国家の後見的見地からの判断を成立要件としたことによります。

     また、縁組の成立に関する具体的な要件の点では、以下のような点が異なります。

    (1)夫婦共同縁組

     特別養子縁組の場合は、養親は配偶者のある者で、夫婦がともに養親になることが基本的に必要となります。普通養子縁組の場合は、養親が配偶者のある者である必要は特にありません。

    (2)養親の年齢

     特別養子縁組の場合は、養親は25歳以上である必要があります。ただし、養親となる夫婦の一方が25歳以上であれば、他方は25歳未満でも20歳以上であれば良いとされています。これに対し、普通養子縁組の場合は、養親の年齢は20歳以上とされています。

    (3)養子の年齢

     特別養子縁組の場合は、養子は、家庭裁判所に対する縁組の請求の時に6歳未満である必要があります。ただし、6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されてきた場合は、8歳未満であれば縁組が認められます。

     これに対し、普通養子縁組の場合は、養子が養親の尊属または年長者であってはならない等の制限はありますが、未成年者等に限られるわけでもありません。したがって、養子が養親より1日でも年下であれば養子縁組をすることができるということになります。

     なお、特別養子縁組の場合に6歳という年齢が基準とされるのは、子が幼少であることが望ましいという点と、就学年齢を考慮した趣旨と解されています。

    (4)父母の同意

     特別養子縁組の場合は、縁組によって実方の父母との法的親子関係が断絶することになりますので、実方の父母の同意が必要となります。ただし、実の親が子を棄児にして、誰が親であるか分からない場合や、親が子を虐待しているなど子どもの利益を害するような場合は、父母の同意は不要となります。これに対し、普通養子縁組の場合は、父母の同意の要件はありません(ただし、15歳未満の子の場合には法定代理人の代諾が必要です)。

    (5)必要性

     特別養子縁組の場合は、実方の父母との親子関係の終了が子の福祉の観点から必要であることが要件とされますが(817条の7)、普通養子縁組の場合は、このような要件は特にありません。

    (6)試験養育期間

     特別養子縁組の場合は、家庭裁判所が、養親が特別養子の親となるのに必要な監護能力その他の適格性を備えているかを判断し、養親となる者と養子となる者との和合可能性を見る必要性があるため、6か月間の試験養育期間が設けられています。普通養子縁組の場合は、このような期間は特に設けられていません。

     以上が縁組の成立に関する具体的な違いですが、特別養子縁組の場合は、成立した場合の効果も普通養子縁組とは異なっています。

    (7)実方の親子関係等は

     特別養子縁組の場合は、原則として、養子と実方の父母(及びその血族)との親族関係は終了することになります。これに対し、普通養子縁組の場合は、縁組が成立しても、実方の父母との親子関係、親族関係は終了しません。

    (8)戸籍の記載が異なる

     次に戸籍の記載が異なります。特別養子縁組の場合は、戸籍上に、「養子」「養父母」といった用語は用いず、子の続柄も長男などと記載されます。これに対し、普通養子縁組の場合は、養父母の欄があります。

     戸籍の記載の違いは、既にご説明したように、特別養子縁組制度が導入された趣旨に密接に関連するものであり、戸籍上、養子であることが分からないようにするということは当然とも言えます。なお、特別養子自身が、実方の父母の戸籍を辿たどること自体は妨げられておらず、除籍簿に綴られた単独戸籍を確認することはできるようになっています。

    (9)離縁が制限される

     婚姻の場合の離婚と同様、養子縁組の解消を離縁と言いますが、特別養子縁組の場合は、養親からの離縁はできず、養子からの離縁も養子が成長して監護の必要性がなくなった時点では認められません。特別養子縁組の場合で離縁が認められるのは、 (1)養親による虐待など、子の利益を著しく害する事由があり、 (2)実父母が相当の監護をすることができる場合に限定されています。これに対し、普通養親縁組の場合は、原則として離縁をすることができます。

    新たな取り組みも

     以上のように、養子制度の中でも、特別養子縁組は、自分の子ではないとしても、実子として育てたいと願う、養親の強い要請からできた制度です。そのような親の切実な思いを裏切るような今回の出来事はとても残念でなりませんが、今後も、この制度が誕生した趣旨をいかす方向で、積極的に活用されていって貰もらいたいと思います。

     なお、近時の報道では、特別養子縁組のあっせんについて、日本医師会が動き出し、熊本の病院が、病院として初めて事業に乗り出すことになったとのことです。産婦人科医の間では、養子あっせんに多額の金銭が絡むことへの危機意識が高まっており、今後、他の医療機関も追随していくようです。

     本問題の最前線にある産婦人科病院が、金銭の介在しない透明性の高い養子あっせんを進めてくれることによって、40年前の菊田医師の思いがきちんと実現することを期待したいものです。

    2013年08月28日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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