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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    1票の格差を巡る最近の裁判とは?

    • 2012年の衆院選における「一票の格差」を巡る訴訟で、東京高裁に入る原告側の弁護士ら(今年3月6日撮影)
      2012年の衆院選における「一票の格差」を巡る訴訟で、東京高裁に入る原告側の弁護士ら(今年3月6日撮影)

    相談者 E.Tさん

     私は、都会から遠く離れたいわゆる過疎地に住んでいます。一時期、都会に出て働いていたこともありますが、住環境などを考え、Uターンして、役場に勤めながら農業をしてのんびり暮らす毎日です。

     空気や水はきれいですし、騒音もありません。慌ただしく過ごしていた都会の暮らしに戻ることはできないなと実感しています。ただ、道路はでこぼこ、学校は遠い、病院の診療科目が減った、バスの路線が廃止された、古くなった公民館の修理もままならないなど、住んでみると、いろいろ不便を感じます。インフラを都会並みにとは言いませんが、もう少し何とかしてほしいというのが正直な気持ちです。

     最近の新聞で、私が住んでいる地域を含む選挙区の1票の価値が、都会に比べて重すぎるということで、全国の弁護士さんが中心となってその是正を求める裁判を起こし、先日、裁判所が選挙の無効を宣言したという記事を読みました。新聞によると、私の1票は、都会の人の2票以上に相当し、平等ではないということのようです。

     確かに、都会の人からすれば、自分の1票が軽く扱われることに納得できないかもしれません。でも、放っておいても民間のお金がどんどん入って発展していく都会と違って、地方は国や自治体が面倒を見てくれないと取り残されてしまいます。私たちの1票が国政に及ぼす影響力が少しくらい強くても、都会と地方の差を考えれば、そんなに目くじらを立てる必要はない気もします。

     今話題になっている、1票の格差を巡る裁判について、難しそうな話題ではありますが、なるべくわかりやすく教えてもらえませんか(最近の事例を参考に創作したフィクションです)。

    回答


    広島高裁が出した画期的な判決

     2012年12月に実施された第46回衆議院選挙について、選挙区ごとの1票の格差が最大で2.43倍となっていたことは憲法違反だとして、全国14の高等裁判所・支部で、合わせて16件の訴訟が提起されました。そして、今年3月6日に、東京高裁で最初の判決が言い渡されて以降、次々と判決が言い渡されました。ただ、東京高裁をはじめとして、札幌、仙台、名古屋(金沢支部)、高松高裁などが、1票の格差を「違憲」と判断したほか、名古屋、福岡高裁なども「違憲状態」との判断を示しましたが、選挙を無効とした場合の政治的な混乱に配慮して、いずれも選挙自体は無効とはしませんでした。

     後述のように、これらの裁判所の姿勢は長年続いてきたものであり、おそらく、多くの政治家も、法曹関係者も、「さすがに選挙が無効とされることはないだろう」という気持ちを、内心では持っていたと思います。

     ところが今年3月25日、広島高裁が、広島1区と広島2区の選挙を「違憲、無効」との画期的な判断を示したのです。翌日の読売新聞には「1票格差『許されぬ』事態」「『国会の怠慢』指弾」といった見出しが躍り、判決のインパクトの大きさを物語っています。

     現在、この秋にも言い渡される見通しの最高裁判所の判決に注目が集まっていますが、反面、この画期的な広島高裁判決を契機に「仮に、最高裁判所が広島高裁と同様に無効判決を下したら政治はどうなるのか」ということが現実的な問題として議論されています。同時に、そもそも、「人口比例を絶対視して良いのか」という観点から、政治と司法との関係に関する根本的な問題までもが、ここに来て活発に議論されるようになりました。

     5月13日付の読売新聞朝刊の記事によれば、厚生労働省の推計に基づく2040年の人口を前提にすると、選挙区選出議員は、東京が現在の25から34に増え、神奈川、埼玉、千葉を加えた1都3県は71から90に増加するのに対し、高知、島根、鳥取の3県は定数1となるという試算が示され、「国会から地方に地盤を置く議員が姿を消す」「地方の声を国政に反映する機能を損ねてよいはずがなかろう」との指摘もなされています。

     相談者が言われるように、「都会の人からすれば、自分の1票が軽く扱われることに納得できないかもしれません。でも、放っておいても民間のお金がどんどん入って発展していく都会と違って、地方は国や自治体が面倒を見てくれないと取り残されてしまいます。私たちの1票が国政に及ぼす影響力が少しくらい強くても、都会と地方の差を考えれば、そんなに目くじらを立てる必要はない気もします」という地方の声が、最高裁判決にどこまで反映されるのかが、今、まさに世間の注目を集めているわけです。

    1票の格差とは

     まず、この問題の出発点となる「1票の格差」とは、一般的には、有権者の1票の価値を各選挙区で比べた差のことを言います。具体的に言えば、一つの選挙区の有権者数をその選挙区の議員定数で割った、議員1人あたりの有権者数が最も少ない選挙区を「1倍」として、他の選挙区との差を倍率で示すことになります。例えば、有権者10万人で議員1人という選挙区の住民が投じた1票に対して、有権者20万人で議員1人という選挙区の住民が投じた票の価値は0.5倍しかないことになり、「1票の格差」という問題が生じてくるわけです。ちなみに、昨年12月の衆議院選挙で、議員1人あたりの選挙人数の格差は、最大で2.425倍になっていたということです。

     この1票の格差がなぜ裁判で問題になるのかというと、憲法で保障されている「法の下の平等」に違反するのではないかという問題が生じるからです。つまり、日本国憲法は、国会を構成する衆議院、参議院の議員を選挙する国民の権利(選挙権)について、選挙人資格における差別を禁止する(憲法44条但書)とともに、選挙権の内容(投票価値)の平等をも要求している(法の下の平等、憲法14条1項)と解されているのです。

     従って、投票価値に不平等があるという1票の格差の問題は、憲法上の重大な問題となるわけです

    1票の格差を巡る裁判の歴史

     1票の格差をめぐる最初の訴訟は、1962年、その年の参議院選挙における1票の格差が最大で4.09倍であったことが、法の下の平等に反するとして提起されました。この訴訟で、最高裁は「もとより議員数を選挙人の人口数に比例して、各選挙区に配分することは、法の下に平等の憲法の原則からいって望ましいところであるが、議員数を選挙区に配分する要素の主要なものは、選挙人の人口比率であることは否定できないところであるとしても、他の幾多の要素を加えることを禁ずるものではない。例えば、憲法46条の参議院議員の3年ごとの半数改選の制度からいっても、各選挙区の議員数を人口数に拘らず現行の最低2人を更に低減することは困難であるし、その他選挙区の大小、歴史的沿革、行政区画別議員数の振合等の諸要素も考慮に値することであって、これを考慮に入れて議員数の配分を決定することも不合理とはいえない」「現行の公職選挙法別表二が選挙人の人口数に比例して改訂されないため、不均衡が生ずるに至ったとしても、所論のような程度ではなお立法政策の当否の問題に止り、違憲問題を生ずるとは認められない」と判示し、合憲であると判断しました(昭和39年2月5日判決)。

    初の「違憲」判断

     しかし、その後、最大格差が4.99倍となった72年12月の衆議院選挙について、最高裁は「当事者間に争いのない事実によれば、本件衆議院選挙当時においては、各選挙区の議員1人あたりの選挙人数と全国平均のそれとの偏差は、下限において47.30パーセント、上限において162.87パーセントとなり、その開きは、約5対1の割合に達していた、というのである。このような事態を生じたのは、人口の異動に基づくものと推定されるが、この開きが示す選挙人の投票価値の不平等は、諸般の要素、特に急激な社会的変化に対応するについてのある程度の政策的裁量を考慮に入れてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているばかりでなく、これを更に超えるに至っているものというほかはなく、これを正当化すべき特段の理由をどこにも見出すことができない以上、本件議員定数配分規定の下における各選挙区の議員定数と人口数との比率の偏差は、選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になっていたものといわなければならない」(昭和51年4月14日判決)として、初めて「違憲」と判断しました。

    1人別枠方式が焦点に

     その後も、1票の格差を巡る訴訟は、選挙のたびに繰り返し提起され、司法の判断が示されています。2011年にも、09年8月に実施された衆議院選挙の最大2.30倍の格差について、最高裁は「違憲状態」と判断しました(平成23年3月23日判決)。その時の判断の要旨は、次の通りです。

     まず、選挙の区割りに関する各都道府県にあらかじめ1議席を配する1人別枠方式は人口の少ない県に居住する国民の意思を十分に国政に反映させることを目的としているとしたうえで、衆議院議員は、どこの地域の選出かを問わず、全国民を代表して国政に関与することが要請されているとして、人口の少ない地域に対する配慮は全国的な視野から法律の制定などで考慮されるべきで、地域性のために投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいいがたいとしました。

     そして、09年の選挙時に同方式が格差を生じさせる主要な要因となっていたのは明らかであるとしました。さらに、1人別枠方式は、新しい選挙制度を導入するにあたり、人口比のみに基づいて定数配分を行った場合、人口の少ない県の定数が急激、大幅に削減されることになり、選挙制度改革の実現自体が困難だった状況下で採られた方策で、合理性に時間的な限界があるとして、09年の選挙時には現行制度(小選挙区比例代表並立制)導入後の最初の総選挙からすでに10年以上が経過するなど制度は定着し、安定した運用がなされており、もはや同方式の合理性は失われていたと述べました。

     その上で、09年の選挙時は選挙区間の格差が最大2.30倍に達した上、2倍以上の選挙区も増加していたことを指摘し、遅くともその時点では、憲法が求める投票価値の平等に反する状態に至っていたというべきであるとして、「違憲状態」であると判断しました。

    もっとも、違憲状態で実施された選挙の効力自体は、憲法上要求される合理的期間内に是正されなかったということはできないとして、衆議院は常に的確に国民の意思を反映することが求められ、できるだけ速やかに1人別枠方式を廃止し、区割り規定を改正するなど投票価値平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある旨を判示し、選挙自体の無効は認めませんでした。

    「違憲」「違憲状態」でも「無効」とせず

     1票の格差を巡る訴訟で、最高裁はこれまで、「違憲」または「違憲状態」にあることは示しつつも、選挙自体を無効とする判断は示してきませんでした。

     これは、選挙を本当に無効にしてしまうと、当選無効になる議員が審議に関与した法律や予算にまで効力が及び、取り消される可能性が生じますし、選挙制度の見直しも当選無効になった議員の選挙区の民意が反映されないなど、選挙を無効とすることで生じる政治的な混乱を考慮したことによります。つまり、判決では、公益を著しく害する場合、違法な行政処分を取り消さない旨を定める行政事件訴訟法の規定(31条1項)に基づいて、違憲または違憲状態という判断までは行っても、選挙そのものは有効という結論を示し続けてきたわけです。

    「選挙無効」に踏み込む

     前述のように、12年の衆議院選挙を巡る訴訟についても、最初に出た東京高裁判決などは、従前通り、選挙自体を無効とする判決ではありませんでした。ところが、広島高裁判決は、初めて選挙を無効とすることを示し、各界に大きな衝撃を与えたわけです。

     同判決では、憲法は、三権分立制度を採用し、違憲審査権を与えている最高裁判所が、違憲状態を認め、速やかな是正措置を立法府である国会に求めた以上、民主的政治過程のゆがみを是正する必要性は高く、国会の広範な裁量権は制約を受けるべきであるとし、国会は区割り規定の改正などを優先的に実行する憲法上の義務を国民に対して負ったと解釈するのが相当であると述べ、選挙区間の人口格差の「緊急是正法」の施行で審議を再開した衆議院選挙区画定審議会は6か月以内に勧告を行うとされており、国会が東日本大震災の対応に追われていたことを最大限考慮しても、11年3月の判決言い渡しから1年半の昨年9月23日までに区割り規定の是正がされなければ、憲法上要求される合理的期間内に投票価値の平等の要求に反する状態が是正されなかったと言わざるを得ないのであって、区割り規定は本件選挙当時、憲法に違反すると言わざるをえないとしました。

     そして、選挙の効力につき、選挙を無効とする判決でもたらされる不都合などを勘案し、(選挙無効を回避する)事情判決をすることもあり得るとしつつ、選挙区間の議員1人あたりの選挙人数の最大格差が、前回選挙時の1対2.304から本件選挙で1対2.425に拡大し、選挙人数の格差が2倍以上になっている選挙区も前回選挙の45選挙区から本件選挙で72選挙区に激増していることを指摘し、11年の判決以降、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態が悪化の一途をたどっていると評価せざるを得ない状況で本件選挙が行われたと認定しました。

     その結果、選挙権の制約や民主的政治過程のゆがみの程度は重大で、最高裁の違憲審査権も軽視され、もはや憲法上許されるべきではない事態に至っているとして、選挙を無効とした場合の不都合などを勘案しても、事情判決をするのは相当でなく、本件選挙を無効とせざるをえないと判示したのです。

     もっとも、選挙をただちに無効とすると、区割りの是正が当該選挙区から選出された議員のいない状態で行われることになり、相当でないとして、一定期間経過後に効果が発生する将来効判決をすべきであると判示しました。

     具体的には、区画審が緊急是正法に基づき、昨年11月26日以降、区割りの改定作業を開始していること、国会での区割り規定の改正作業自体に長期間を要するとは考えがたいこと、改正によって投票価値の平等の要請にかなう区割りとなることが期待できないわけではないこと、無効を1年以上の長期にわたり放置することは政治的混乱を招き適切ではないことなどから、無効の効果は今年11月26日を経過した後に発生するのが相当であるとしたのです。

    重みを持つ最高裁判決

     さて、広島高等裁判所の判決は、これまでの1票の格差を巡る訴訟において、格差が違憲または違憲状態であることを認めつつも、選挙自体については無効にしなかった裁判所の判断から、大きく踏み込んだ画期的な判決と評価できます。しかも、違憲を宣言するだけでは、立法府たる国会の自主的是正は期待できないことを前提として、期限を区切って1票の格差の是正をするように勧告したわけです。

     司法が選挙無効の判断にまで踏み込んだ、今回の判決を受けて、立法である国会には、司法に対する不信感も芽生えていると言われています。そして、憲法の求める法の下の平等の重要性については言うまでもないことですが、相談者も指摘している地方の現状をどう見るかという問題や、国会の裁量権をどうとらえるかといった点も決して蔑ないがしろにできません。

     広島高裁判決も含めた、11年12月衆議院選挙の1票の格差を巡る一連の裁判に決着をつける、最高裁判所判決の行方は、従来以上に重みを持つものとして注目されます。みんなが納得できる判断を最高裁が示すことを期待したいと思います。

    (追記)

     本稿の執筆中の6月24日午後、衆院の小選挙区を「0増5減」し、1票の格差を是正する公職選挙法改正案が、衆院本会議で、出席議員の3分の2以上の賛成で再可決され成立しました。改正公選法は、山梨、福井、徳島、高知、佐賀各県で選挙区を3から2に減らす内容であり、1選挙区当たりの最大格差は1.998倍となりました。

     これによって、一般的には、最高裁が無効判決を下す可能性は遠のいたと言われています。ただ、「0増5減」を抜本的な改正にならないと断じて無効判決を下す可能性も残されていますし、1票の格差は、都市への人口流入が続く限り問題となり得るのであり、最高裁判決に対する注目度が減ることは決してないと言えます。

    2013年06月26日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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