文字サイズ
    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    改正派遣法成立 派遣労働者にとって有利?不利?

    相談者 AHさん(56)

    • イラストレーション・橋本真貴子
      イラストレーション・橋本真貴子

     私は、現在、派遣社員として働いている主婦です。派遣先はメーカーの経理部門で、給与計算の補助をパソコンでやっています。パソコン操作はなかなか慣れませんが、職場の雰囲気は気に入っています。

     ところで、今国会において、労働者派遣法改正案が成立したんですね。この法律は自分に直接関わることでもあり、興味をもって新聞記事などに目を通しています。

     ただ、そこで不思議に思ったのは、法律の内容についての評価が、立場によって全く違っていることです。本当に、同じ法律の話をしているの?と感じてしまいます。

     今回、実際に法律が成立したわけですが、果たして改正が私たち派遣社員にとって、良いものなのか悪いものなのか正直言ってよく分かりません。

     安倍首相は今回の改正について、「派遣の道を選んでいる方々には待遇を改善し、正社員の道を希望する方々にはその道を開くための法案だ」と説明しています。もし、その通りであれば私にも正社員への道が開けてきそうなので期待できます。

     他方、今度の法改正には大きな問題があるとして、野党の民主党などは反対し、労働組合からも反対の声が上がっているようです。連合の会長などは、「世紀の大悪法だ」とまで言っていると、新聞に書いてありました。

     世間では今回の改正について、業務を派遣社員に任せられる期間がこれまでの「最長3年」から見直され、受け入れ期間の上限を全業務についてなくし、企業が3年ごとに人を入れ替えて同じ業務をずっと派遣労働者に任せられるようになることに注目が集まっているようです。

     ただ、それだけだと、私のように専門業務についている訳ではない普通の派遣労働者にとっては、そんなに大きな変化があるようにも思えません。そこで、その他の部分も含めて、今回の法改正の内容と問題点を教えてくれますか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)。

    (回答)

    派遣法改正案が成立

     安倍首相が進める労働法改革の柱の一つとなる「労働者派遣法」の改正案が11日、国会で成立しました。今月30日から施行されます。労働者派遣法の改正案は、これまで2度国会に提出されながらいずれも廃案となり、今国会でようやく成立したわけです。

     今回の改正法のポイントは、立場の違いによってメディアごとに取りあげ方が異なっていますが、大きく次の4点にまとめられると思われます。

     (1)企業は原則最長3年だった派遣社員の受け入れ期間を延長できる(人が代われば同じ仕事をずっと派遣社員に任せることができる)。

     (2)派遣期間の制限がなかったソフトウェア開発、事務用機器操作、通訳、秘書などの26業務の制度は廃止する(仕事の内容に関わりなく、個人の期間制限を同じにする)。

     (3)派遣社員が同じ事業所で働き続けるためには3年ごとに課を変える必要がある(一人の派遣社員が同じ課で働くことができるのは原則3年まで)。ただし、派遣会社に無期雇用されればずっと同じ課で働くことができる。

     (4)派遣会社は全て許可制にして悪質な派遣会社を排除するとともに、派遣会社に、派遣終了後も雇用の継続に努めるなど、雇用安定のための措置を義務づける。

    労使間で評価に大きな乖離

     厚生労働省の資料によれば、今回の派遣法改正は、2012年における改正の付帯決議を踏まえて、派遣労働者の一層の雇用の安定、保護等を図るために、全ての労働者派遣事業を許可制にしました。それとともに、派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップ、雇用継続を推進し、派遣先の事業所等ごとの派遣期間制限を設ける措置を講ずるものとされています。

     今回の改正を受けて、塩崎厚生労働相は11日の閣議後の記者会見の場で、「正社員になりたい方にはその可能性を高め、派遣であえて働こうとする方々には処遇を改善しやすいようにするための法律だ」と発言しています。経済界も今回の法改正を歓迎しており、経団連の榊原会長は、「経済界にも派遣業界にも、派遣労働者にもプラスの多い改正だ」と述べました。

     日本商工会議所の三村会頭は、「派遣労働者のキャリアアップも強化されており使用者側、労働者側の双方にメリットがある」とコメントしています。

     他方、過去、野党の抵抗で2度廃案となったことからもお分かりのように、労働界などからは根強い反対もあります。

     連合の古賀会長は「低賃金で働く者を増やす。世紀の大悪法だ」と批判しています。

     民主党も、HPに「労働法改悪STOP!」という記事を掲載。労働者法改悪のポイントとして、派遣社員の受け入れ期間の制限を事実上撤廃、派遣社員の待遇改善措置は実効性なしの2点を挙げ、「派遣社員の受け入れ期間制限を事実上撤廃して、『“生涯”派遣』の若者を増やすことにつながります」などと指摘しています。

     このように、今回成立した改正労働者派遣法に対する評価は大きく分かれており、相談者が戸惑うのも理解できます。そこでまずは、成立した改正法の具体的内容から説明し、その後、どうしてこのような評価の乖離(かいり)が生まれたのか説明していきたいと思います。

    改正内容1-より分かりやすい派遣期間規制への見直し

     改正におけるこの部分が、「『最長3年』見直し」「受け入れ期間実質撤廃」などとしてメディアで大きく取りあげられているものです。

     現行法では、ソフトウェア開発、事務用機器操作、秘書、通訳など、業務を迅速かつ的確に行うために専門的知識や技術を必要とする業務、または特別の雇用管理を必要とする業務として、派遣法施行令で「専門26業務」が定められています。指定された業務については、派遣期間の制限はありませんでした。

     他方、「専門26業務」以外の業務は、派遣期間の上限が定められていました。この期間は原則として上限1年で、過半数組合等への意見聴取により上限3年まで延長可能となっていたのです。

     このように派遣期間が制限されていた理由は、労働者派遣事業は常用雇用の代替のおそれが少ないと考えられる「臨時的・一時的な労働力の需給調整のためのシステム」として位置づけられていたからです。

     つまり、派遣事業は、利用の仕方如何(いかん)によっては、正社員としての雇い入れが減少し、安定した雇用機会の確保が難しくなり、長期雇用慣行を前提とした企業への帰属意識の減退、技術革新への柔軟な対応ができないなど、我が国の雇用慣行に悪影響を及ぼすと考えられたわけです。

     そのため、派遣先の正社員の代替防止のために、派遣期間が制限されていました。それに対して、「専門26業務」であれば、その専門性などから独自の外部労働市場が形成されており、派遣先の正社員の代替を促進する要素に乏しいという考えから、期間制限は設けられていなかったわけです。

     しかし、実際の派遣現場では、「専門26業務」か、それ以外の業務かは曖昧なケースが少なくありません。専門性の内容は、時代とともに変化するため、何が正社員の代替の恐れのない専門的な業務であるかという判断基準を明確に定めることが難しいとの指摘がなされ、制度的にも分かりにくいものとなっていました。

     例えば、「専門26業務」の中の一つである「事務用機器操作」に従事する者は、「オフィス用コンピュータの操作に適した専門的な技能・技術を十分に持つ者」です。同様に「ファイリング」は、「高度の専門的な知識、技術又は経験を利用して分類基準を作成した上で、当該分類基準に沿って整理保管を行う者」に限られています。しかし、これらの業務は一般事務と混同されやすい問題点がありました。

     派遣可能期間の制限を免れることを目的として、契約上は「専門26業務」と称しつつ、実態はその解釈を歪曲(わいきょく)、拡大して運営されている事案が散見されました。その対策として、厚生労働省は2010年に、「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門26業務派遣適正化プラン)」を発表しています。

     従来から、もはや実態に合わないとの指摘があり、「専門26業務」を廃止して、全ての業務に共通のルールを適用する制度が設けられることとなったのです。

    2015年09月23日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    PR情報
    大手町モール
    ブランディア
    アーカイブ