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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    横行するブラックバイト、自分の身を守る方法は?

    相談者 Y.Yさん

    • イラストレーション・荒木田美咲
      イラストレーション・荒木田美咲

     私は都内の私立大学に通う学生です。今年4月に入学した1年生ですが、親に無理を言って私大に入れてもらったので、生活費は自分で稼がなければなりません。好きなアイドルグループのライブにもよく行くので、結構お金がかかります。アルバイト先はいろいろ考えたのですが、家の近くのケーキ屋さんを見つけました。

     当初は、新商品ができると試食をさせてもらうなど、アットホームな雰囲気でいいアルバイトを見つけたと喜んでいました。ところが、店長が交代して、職場の雰囲気が一変しました。

     新しい店長は本社から厳しいノルマを言われているらしく、私たちは目標達成のために働くロボットでしかないようです。店長の口癖は「今は繁忙期だから」。人が減ってやりくりが苦しくなったので、私の了解もなく、勝手にシフトを入れてしまうし、立ち仕事なのに、休憩なしで、8時間ぶっ通しでお店に出されることもあります。

     さらに、クリスマスケーキとかの期間限定商品の場合には、売り上げに「店員一人につき20個以上」というノルマが課されるようになりました。家族とか友達にもセールスするよう命じられただけでなく、ノルマを達成しないと、自腹で買い取らされます。このほか、お店を閉めて、レジに入っている現金をチェックする時に500円以上の誤差があると、そのとき出勤していたアルバイト全員で割って払うように言われます。ミスがあると、「お前はバカか、親の顔が見たい」などの罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられます。

     親にはこれ以上負担をかけたくないので、アルバイトを続けてきましたが、授業にも支障が出てきたうえ、リポートを書く時間もありません。このままだと、アイドルグループの年末ライブの日もシフトに入れられるかもしれません。最近は家に帰ると疲れ切ってただ寝るだけです。思い切って店長に「辞めたい」と伝えたところ、「今辞められたら困る。新しいアルバイトが確保できるまでは辞められない。無理に辞めるというなら、その損害分をアルバイト代から差し引く」などと言われました。

     夜中にLINEで友人に相談したら、「それってブラックバイトじゃないの?」と言われました。ブラックバイトがどういうものを指すのか、また、私がこれからとるべき対応を教えてください。(最近の事例をもとに作成したフィクションです)

    (回答)

    ブラック企業大賞2015発表

     11月29日、「ブラック企業大賞2015」が発表されました。この賞については賛否両論あるようですが、年末の恒例行事としてすっかり定着した感があります。

     今年、大賞を受賞したのは、コンビニ大手のセブン―イレブン・ジャパンでした。企業イメージとのギャップに違和感がある人も多いかもしれませんが、大賞にノミネートされた際の説明の中には、下記のように、今話題のブラックバイトについて、言及されています。

     「……昨今、学生アルバイトを正社員並みに、しかも学生生活に支障きたすほどの低待遇で使役する『ブラックバイト』が社会問題化しており、コンビニバイトはその代表的な業種である。コンビニ本部各社はこうした問題の責任は個々の加盟店店主らにあるとして自らの責任を否定してきたが、業界にブラックバイトが蔓延(はびこ)るのは、本部が加盟店主らから過酷な搾取を行い、そのしわ寄せが学生アルバイトに及んだ結果であるとも言える。こうした構造はコンビニ各社で共通するものだが、セブンイレブンは業界の圧倒的強者であるほか、日本にコンビニフランチャイズを定着させた先駆者でもあり、業界内における責任も役割も大きく、そして、前記事件(注:販売期限が近い弁当などを値下げして売る「見切り販売」を同社が妨害したとする事件などを指します)がコンビニ業界の構造を示す象徴的な事件であるといえることからノミネートした」

     つまり、ブラック企業大賞企画委員会では、セブン―イレブン・ジャパンが、フランチャイズ加盟店主の見切り販売を妨害するなど、過酷な搾取をおこない、そのしわ寄せが学生アルバイトに及び、ブラックバイトが問題化していると判断したわけです。なお、今年のブラック企業大賞では、個別指導塾において、アルバイトの講師に対し、授業以外の業務(授業の準備、生徒の見送り、報告書の記入、片付けなど)に賃金が違法に払われない「コマ給」問題が取りあげられ、個別指導塾「明光義塾」を運営する明光ネットワークジャパンに対しても、「ブラックバイト賞」が贈られています。

     このように、今回のブラック企業大賞は、社会的に注目を集めているブラックバイトに絡んだ案件が目立ち、世相を反映したものとなりました。

     ちなみに、他には、「WEB投票賞」を引越社関東(アリさんマークの引越社)が、「特別賞」を暁産業が受賞しています。特別賞を受賞した暁産業は、同社の男性社員(当時19歳)が自殺したのは、上司のパワハラや長時間労働が原因として、男性の父親が会社と当時の上司2人に対し、計約1億1000万円の損害賠償を求めた訴訟であり、裁判所が、パワハラと未成年者の被害者の自殺との因果関係を認めた初の事例として話題になった会社です。

    「ブラックバイト」とは

     最近、新聞等で「ブラックバイト」という言葉をよく聞くようになりました。

     このブラックバイトという言葉は、中京大学の大内裕和教授が、2013年に「ブラック企業」から連想して作った言葉であると、「ブラック企業―日本を食いつぶす妖怪」(文春新書)の著者でブラック企業対策プロジェクト共同代表並びにNPO法人POSSEの代表者である今野晴貴氏との共著「ブラックバイト」(堀之内出版)の中で書かれています。なお、ブラック企業については、本コーナーの「話題のブラック企業、どんな会社?見分け方は?」(14年4月23日)、「ブラック企業 社名公表の影響」(15年7月8日)を参照して下さい。

     ブラック企業対策プロジェクトによる「ブラックバイトへの対処法―大変すぎるバイトと学生生活の両立に困っていませんか?―」という冊子の中では、ブラックバイトを、アルバイトが忙しすぎて授業やゼミどころか試験にも出られず単位を落としてしまう、授業中でもお店と連絡を取らなければならない、ノルマを達成できないと罰金があるといった「学生であることを尊重しないアルバイトのこと」であると定義しています。その上で、ブラックバイトについて、「フリーターの増加や非正規雇用労働者の基幹化が進む中で登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い」と説明しています。 

     前述の大内教授は、講義やゼミをアルバイトで休む学生が増え、アルバイトのために試験を欠席して単位を落とす学生も出てきたことから、13年の春学期に学生アルバイトの実態を調査したことが、ブラックバイト発見の契機になった旨を著書の中で述べています。また、ブラックバイトは、急速に進んでいる若年層の貧困化と、労働市場における非正規雇用の「補助」労働から「基幹」労働への移動という、近年の社会構造の変化から生じたものであって一過性のものではなく、構造的で根深い問題であるとも指摘しています。

    2015年12月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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