<速報> 空自浜松基地所属のヘリ、通信途絶える
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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    インターネットの検索結果は削除できる?

    相談者 K.Eさん

    • イラストレーション・荒木田美咲
      イラストレーション・荒木田美咲

     私は、現在、30歳。都内の電気機械メーカーの営業マンとして働いています。5年前に結婚して、昨年の4月に幼稚園に入園した長女と6月に生まれた長男と4人で平凡ですが幸せな生活を送っていました。ところが、つい先日のこと、私が帰宅すると、妻が神妙な顔をして聞いてきました。「あなた、昔、暴力事件を起こして逮捕されたって本当?」。突然だったので動揺してしまい、買ってきたケーキの箱を落としてしまいました。ダイニングに妻を連れていき、私は洗いざらい“過去”を話すことにしました。

     今から10年前、私はある地方の大学に通っていました。20歳の誕生日にサークルの先輩が「今日から酒が飲めるぞ」と、居酒屋に連れていってくれました。初めて座るカウンター席で私は舞い上がってしまい、先輩が止めるのも聞かず、ビール、日本酒、焼酎をどんどん飲んでしまいました。隣に座ったサラリーマンが偶然、同じ大学の出身で意気投合したところまではよかったのですが、ささいなことから口論になり、その人の顔面を殴ってしまいました。

     私が暴れるとすぐに店員が警察に通報。私は暴行の現行犯で逮捕されてしまいました。幸い、相手方にけがはなく示談が成立。起訴猶予処分で済んだため、前科はつきませんでした。

     ただ、近くに居合わせた地方紙の記者が騒ぎを聞きつけて現場にやってきました。私の通っていた大学がその地方では有名な大学であったこともあり、翌日の朝刊の社会面に「●●大生 20歳の誕生日に大暴れ 暴行で逮捕」という記事が実名入りで掲載されてしまったのです。

     妻に隠すつもりはなかったのですが、前科でもないので、あえて伝えていませんでした。また、就職する際には、正直に逮捕歴を申告しましたが、問題ないということで採用されましたし、その後もあえて人に言うことでもないので黙っていました。私の逮捕歴を知っているのは、大学時代の友人くらいだと思っていました。

     最初は驚いていた妻も、最後まで話をすると納得してくれました。

     でも、不思議だったのは、なぜ妻が私の逮捕歴を知ったのかということです。聞くと、近所のママ友がネットで私の名前を検索した時に、私の逮捕を報じる地方紙の記事が検索結果として表示され、「これ、お宅のご主人?」と聞かれたからだそうです。

     試しに私も検索エンジンに自分の名前を入力してみました。サジェスト機能というものがあるらしく、私の名前を入力するだけで、続いて検索が予想される言葉として「逮捕」、「暴行」等が自動的に別枠で表示され、検索結果にも地方新聞の記事が表示されていました。

     私に逮捕歴があることは事実ですが、もう10年も前のことですし、できれば知られたくない過去です。また、子供がいじめを受ける原因にならないかとも心配しています。

     ネット検索において、私の逮捕歴がでてくる記事が表示されないようにするとともに、私の名前で「逮捕」や「暴行」といった言葉が表示されるのをやめてもらうようにすることはできませんか(最近の事例をもとに創作したフィクションです)。

    グーグルに初の検索結果削除命令

     2014年10月9日、東京地方裁判所が、インターネット検索最大手であるグーグルに対し、検索結果の一部を削除するよう命じる仮処分決定を下したことが「国内初の司法判断」として、メディアで大きく報じられたことを覚えている方も多いと思います。

     事案内容については非公表となっていますが、翌10日付の読売新聞によれば、グーグルで自分の名前を検索すると、犯罪行為にかかわっているかのような検索結果が表示されるのは人格権の侵害だとして、日本人の男性が、グーグルの米国本社に対して検索結果の削除を求めていた仮処分申請が認められたというものです。

     男性は、「過去の情報が表示され、生活を脅かされた」などと主張。グーグル側は「各ウェブサイトの管理者に削除を求めるべきで、検索サイト側に削除義務はない」と反論していました。これに対して、裁判所は、グーグルのサイトに表示される記述が「素行が著しく不適切な人物との印象を与える」と指摘した上で、「表題と記述の一部自体が、男性の人格権を侵害している」とし、検索エンジンを管理するグーグルに削除義務があると認定、男性側の請求を認め、237件のうち、122件を削除するよう命じる決定を行いました。

     過去、コンテンツ・プロバイダ(掲示板管理者、SNS事業者など)に対し削除命令が出た例は多くありますが、検索エンジンの運営企業そのものに対しての削除命令は出ていませんでした。これは、検索サービスがネット上に散在する数多(あまた)の情報を「機械的に」仕分けて、各サイトへ行きつくのを手伝うだけで、自ら主体的な「意思」をもって表示しているわけではないという考え方があったからだと思われます。

    近時相次ぐ削除を命じる決定

     14年10月の東京地方裁判所の判断を契機とし、それ以降、検索エンジンに対して検索結果の削除を求めた仮処分申請で、裁判所が削除を命じる仮処分決定を出す例が相次いでいます。仮処分決定の内容は、判決などと異なり非開示のことが多く、判例データベースへの収録や、判例誌への掲載が通常は行われないことから、その内容については、報道に頼らざるを得ないのですが、新聞各社の報道によれば、次のような判断がなされています。

     (1)15年5月、グーグルの検索によって、不正な診療行為での逮捕歴が分かるとして、現役歯科医師が検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、東京地方裁判所は、表示を削除するようにグーグルに求める決定を出しました。

     その歯科医師は、5年以上前、資格のない者に一部の診療行為をさせた疑いで逮捕され罰金を命じられたのですが、その後、グーグルで名前を打ち込むと、逮捕を報じるニュース記事を転載したサイトが検索結果に現れたとのことです。

     (2)15年6月、グーグルの検索によって、児童ポルノ禁止法違反での逮捕歴が分かるとして、検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、さいたま地方裁判所は、表示を削除するようにグーグルに求める決定を出しました。

     この男性は、11年に、18歳未満の女子高校生に金を払ってわいせつな行為をしたとして児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けたのですが、その後、グーグルで自分の名前などを検索すると、逮捕時の記事が表示されるため「事件を反省して新生活を送っているのに、人格権(更生を妨げられない権利)が侵害されている」と主張していました。  

     グーグル側は、「表現の自由や利用者の知る権利を侵害する危険性がある。表示を削除してもリンク先のページはネット上に残ったままで、閲覧を完全に防ぐことはできない」と主張しましたが、裁判所は、「比較的軽微な犯罪で、歴史的・社会的意義もなく、ネットに表示し続ける公共性は低い」「逮捕歴を公表されないことが、社会の一員として復帰して平穏な生活を送り続けるために重要」「平穏な社会生活が阻害される恐れがある」などとして、検索結果に表示された49件を削除するように命じました。

     (3)15年11月、グーグルの検索によって、振り込め詐欺による逮捕歴が分かるとして、検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、東京地方裁判所は、表示を削除するようにグーグルに求める決定を出しました。

     男性は、振り込め詐欺に関わった疑いがあるとして逮捕され、その後、執行猶予付きの有罪判決を受けたのですが、その後10年前後が過ぎても、消費者問題をまとめたサイトなどに実名が載っており、グーグルで名前などを検索すると、逮捕歴が分かる表示が検索結果に表れたため、「犯罪歴の表示は更生を妨げ、人格権を侵害する」と主張していました。本件も上記2例と同様に逮捕歴の削除ですが、上記2例が罰金刑であるのに対して、こちらは執行猶予付きの懲役刑と重い内容であることから話題になりました。

     (4)15年12月、ヤフーの検索によって、犯罪に関わっているかのような結果が表示されるとして、検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、東京地方裁判所は、表示を削除するようにヤフーに求める決定を出しました。

     裁判所は、「過去についての記載は現在の地位を著しくゆがめている。公共性が高いとも言えない」と指摘し、削除を求めた47件のうち11件の削除を命じました。これは、国内でヤフーに削除を命じた初の決定とのことです。

     (5)15年12月、グーグルの検索によって、12年以上前の逮捕報道が表示されるとして、札幌在住の50代の男性が検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、札幌地方裁判所は、表示を削除するようにヤフーに求める決定を出しました。

     裁判所は、「逮捕されてから12年以上経過し、男性の犯罪歴をネット上で明らかにすることが公共の利益にかなうとは言えない」などと判断しています。

    2016年01月13日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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