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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    終活ブーム、尊厳死や安楽死、日本ではどうなっているの?

    相談者 S.Kさん

    • イラストレーション・荒木田美咲
      イラストレーション・荒木田美咲

     長年勤めた電機メーカーを5年前に退職、現在は妻と2人で悠々自適の生活をしています。最近、仲の良かった友人を相次いで亡くし、自分の死について深く考えるようになりました。「終活」を特集した雑誌をいくつか取り寄せ、自分なりの準備をしています。

     自分の葬儀のスタイルを考えてみたり、お墓の手配をしたり、さらには弁護士に依頼して公正証書遺言を作成するといったことをやってみたのですが、終末期医療をどうするかで悩んでいます。自分が不治の病にかかり、医師から余命を宣告されたらどうするのか。家族に迷惑をかけたくないと思う一方で、自分がどんな最期を迎えるのか、なかなか考えがまとまりません。

     以前、新聞で、脳腫瘍を患い余命わずかと宣告されたアメリカの29歳の女性が、オレゴン州で、医師による処方薬を服用して死亡した旨の記事を読んだことがあります。アメリカの一部の州では、このような死に方が認められているとのことでした。もうずっと昔のことですが、私の父は末期がんで苦しみながら亡くなっています。子どものころに読んだ手塚治虫の漫画『ブラックジャック』では、ドクター・キリコがそうした患者の安楽死を手助けしていましたが、今の日本では、安楽死は基本的に認められておらず、仮に医師が手助けをした場合には、医師が殺人や自殺幇助(ほうじょ)などの犯罪に問われる可能性があると聞きました。

     家族にあてたエンディングノートには、妻や子どもたちへの感謝の気持ちとともに、「無用な延命治療はしないでください」という私の希望を書きたいのですが、家族や治療にあたる医師に罪を負わせることはできません。延命治療のあり方についての関心は高まっているようですが、尊厳死、安楽死を巡る議論はどこまで進んでいるのでしょうか。法律的な面もあわせて教えてください。

     (最近の事例をもとに創作したフィクションです)

    (回答)

    終活ブーム

     最近、「終活」がブームになっているそうです。確かに、雑誌などでも、この言葉をよく見るようになった気がします。ネットで調べてみると、2012年のユーキャン新語・流行語大賞では、大賞こそ逃したものの、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、LCC(格安航空会社)などという言葉と並んで、トップテンに選ばれています。

     ウィキペディアでは、「終活」とは「人生の終わりのための活動」の略であり、人間が人生の最期を迎えるにあたって行うべきことを総括したことを意味する言葉と説明されています。具体的には、自分のお葬式の内容やお墓のことについてあらかじめ決めておいたり、財産や相続についての計画を立てて身辺整理をしておいたりする、といったような内容を指すようで、これらの活動を行うことにより、残された家族に迷惑をかけることもなくなり、安心して余生を過ごすことができるなどと言われています。こうしたブームの背後には、葬儀ビジネスによる商業的動機があるなどと批判的な意見もネットには出てきますが、仮にそうであるとしても、自分自身の人生の終わり方について、元気なうちから考えておくことは十分意義があると思います。

     本コーナーの前回「斜線引いた遺言書が無効って本当? 有効な遺言書の作り方教えて」で説明した、遺言書の作成などが、終活のひとつであることは言うまでもありません。弁護士という職業柄、相続などでのもめ事をたくさん見てきているだけに、終活というものの大事さは身にしみて感じています。

     さて、今回取りあげるのは、通常、終活という話題の時にはあまり取りあげられませんが、ある意味で、究極の終活とも言える、自分の死に方をどのように決めるかという問題です。

    ブリタニー・メイナードさんの事例

     14年1月、米国人女性ブリタニー・メイナードさんは、神経膠芽(こうが)腫という悪性の脳腫瘍であるとの診断を受け、開頭手術を受けましたが、病状は悪化し、4月には、余命は6か月程度と医師から宣告されることになりました。

     ブリタニーさんは、医師から、治療による副作用など、病気の末期に体がどのような影響を受けるかを知らされ、衰弱が激しくなる前に自らの命を終えることに決めたということです。そして、ブリタニーさんは、居住していたカリフォルニア州サンフランシスコから、全米で初めて尊厳死を合法化する法律が施行されたオレゴン州に移住し、同年11月1日、医師から処方された鎮痛剤を、致死量を超えて服用して亡くなりました。死の直前には、家族や友人に対して、SNSで「さようなら、世界」などと書き込んだということです。

     ブリタニーさんは、事前に、自ら「尊厳死」を選ぶ決意を表明して「11月1日に服薬で死ぬ」と予告する動画をユーチューブで公開していたため、世界中で賛否両論が巻き起こり話題となっていました。その動画の閲覧件数は1千万回を超えたということです。日本でも話題となり、同年11月4日付の読売新聞でも、「『尊厳死』宣言 薬飲み実行」という見出しで大きく取り扱われました。ブリタニーさんがこのような選択をするに至るまでの葛藤については、ネットでも様々な情報が提供されていますので、関心のある方はぜひ一読してもらいたいと思います。

    「尊厳死」と「安楽死」の違い

     ブリタニーさんのニュースを契機として、日本でも「尊厳死」について議論となりました。ただし、ここで注意すべきなのは、ブリタニーさんの事例は、いわば「医師による自殺幇助」を意味するものであり、厳密に言えば、日本では「尊厳死」ではなく、「安楽死」として議論されている事例に該当することです。

     安楽死と尊厳死の違いについては、インターネット上でも様々な説明がなされています。ちなみに、その一例として、一般財団法人日本尊厳死協会のHPでは、次のように記載されています。

     「尊厳死は、延命措置を断って自然死を迎えることです。これに対し、安楽死は、医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めることです。どちらも『不治で末期』『本人の意思による』という共通項はありますが、『命を積極的に絶つ行為』の有無が決定的に違います」

     いずれも本人の意思による死の迎え方ですが、安楽死は、薬物などによって人為的に死をもたらすものであるのに対して、尊厳死は「人間の尊厳を保って自然に死にたい」という患者の希望をかなえることを目的として、人工的な延命措置を行うのをやめ、その結果として自然な死を迎えるというものということだと思います。

     ではなぜ、新聞各社が、ブリタニーさんの死を「尊厳死」として報じたのか、それは日米の法制度の違いに依拠します。アメリカでは、オレゴン州、ワシントン州、バーモント州、モンタナ州、ニューメキシコ州、カリフォルニア州の6州において、不治の病で終末期にある患者に、医師によって処方された死に至る薬を自分自身で服用して、自ら命を絶つことを認める法律、いわゆる「Death with Dignity Act」(DWDA)が制定されています(カリフォルニア州では、ブリタニーさんの事例のときには法律が制定されていなかったのですが、当該事例が契機となり、昨年9月に同法案が可決され、今年1月1日から施行されたばかりです)。

     この「Death with Dignity」を直訳すれば、「尊厳死」ということになりますから、ブリタニーさんの死を報じる日本の新聞でも、そのように記載されていたわけです。しかし、それは、日本でいう「尊厳死」とは異なるものと考えられているということです。当時、日本尊厳死協会の担当者は、尊厳死と安楽死の区別が十分に理解されていないなど、終末医療について議論することがタブー視されている日本の現状について、読売新聞紙上でコメントしていました。

     ちなみに、日本では「尊厳死」と言われている不治で末期に至った患者が、本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすだけの延命措置を断り、尊厳を保って死に至ることなどは、アメリカでは「尊厳死」ではなく、「Natural Death」=「自然死」とされています。1976年カリフォルニア州で植物状態に陥った終末期において、生命維持装置を使用しない、または取り外すことを医師に要請する文書「リビング・ウィル(Living Will)」を、判断能力があるときに証人を立てて作成する権利を住民に保障する、世界初の法律が制定されましたが、この法律の名称は「Natural Death Act」=「自然死法」といいます。その後、他の州でも同様の法律が制定され、現在では、リビング・ウィルの要件・効果を定める法律がほとんどの州で制定されているとのことです。

     以下、まず日本における「尊厳死」の現状について説明した上で、「安楽死」の問題(上記ブリタニーさんのようなケース)にも言及してみたいと思います。

    2016年02月10日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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