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    住まいに関する特集コーナーです。

    片付け 生き方と関連づけ

    • 整理収納法について講義する飯田さん(中央、東京都北区で)
      整理収納法について講義する飯田さん(中央、東京都北区で)

     片づけ方を学ぶ講座や本が花盛りだ。家に物があふれ、片づけは教えてもらう時代となったようだ。

     最近は、「部屋も気分もスッキリし、いい人生につながる」などと生き方と関連づけて語られることも多い。片づけブームの背景を探った。

    講座で学ぶ捨てる覚悟

     食卓に乱雑に積まれた文房具やうちわなどで、食事をできるスペースはごくわずか。片づけをしたら大皿料理も並べられる食卓に変身――。東京都内で5月末、収納カウンセラー飯田久恵さんの講座が開かれ、片づけに成功した女性の事例が紹介された。片づけ前後の写真が映し出され、受講生12人は見入っていた。

     「普段使わない服や、食器、本を捨てられない人が多い。サイズが合わない服は『やせられるか』を基準に手放すなど、ルールを決めて取りかかれば物は減ります」と飯田さん。2年前、飯田さんに相談し、自宅を片づけた東京都内の女性(65)は、「要る、要らないの判断がつかなかった。タンスにしまい込んでいた洋服など、トラック1台分の物を処分できた」と話す。

     飯田さんの片づけのポイントは、
    〈1〉物の量を収納スペースに入る量まで減らす
    〈2〉物の置き場を「指定席」と名づけて決める
    〈3〉物を使ったら必ず指定席に戻す
    ――を繰り返すことだ。

     インターネット通販、100円ショップ、割安の衣料品店の増加など物が増えがちな環境が続く。一方で「もったいない」「いつか使うかも」と物はなかなか整理されない。片づけの悩みは深く、関心は高い。

     明治安田生命の調査(2014年、約1500人が回答)では、妻に対する夫の不満の1位は「整理整頓できない」。妻から夫への不満でも2位だった。03年に発足した「ハウスキーピング協会」(東京)の「整理収納アドバイザー」資格取得者は約6万人に上る。カルチャーセンターの片づけ講座も盛況だ。4月には、米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」に、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんが選ばれ、話題となった。

     最近は、片づけが生き方と結びつけて語られるのが特徴だ。「片づけで、物に振り回されなくなれば、人生が変わるほど大きな効果がある」(ハウスキーピング協会)、「人生の転機で片づけを」(日本ライフオーガナイザー協会)――。

     経済アナリストの森永卓郎さんは、「講座で習うのは片づけ方というより、捨てるつらさと戦う技。心豊かに暮らす知恵として捉えられている」とみる。

     大妻女子大専任講師(社会学)の牧野智和さんは、明治期以降の片づけに関する出版物などを調べ、「日常に侵入する自己啓発」(勁草書房)を4月に出版した。

     「1970年代以降の整理術は『いかに物を捨てずに再利用するか』だったが、90年代に『捨てる』ことが称賛されるようになった」と指摘。「『捨てる!』技術」(2000年、辰巳渚著)はこの流れにある。「物から解き放たれる快楽もあるのでは」と牧野さん。最近は「人生がときめく片づけの魔法」(11年、近藤麻理恵著)など、片づけで人生が好転すると強調する本が目立つ。

     牧野さんは、「バブル崩壊後に物への信仰が失われ、物を減らす方向へ向かったのかもしれない。身軽になりたいという願望が、物を捨てることによる自己啓発という考えにつながっているのでは」と話す。

     片づけはダイエットに例えられる。「捨てすぎ」「リバウンド」の悩みもある。自分に合う方法で無理なく続けるべき点も共通しているようだ。

    「自分とは何か」の探求

    東京大学教授(社会経済学)松原隆一郎さんの話

     増えすぎた物をいかに排除するかが暮らしの技術だ。逆に物をいかに浸透させるかが企業の販売戦略。その攻防が行われているのだろう。

     人の選択能力には限界がある。迷う物は全部捨てるという考え方は、選択能力を超えているから余計なことを考えないというもの。だが、捨てるのをためらう自分がいる。そこで「物への執着を捨てる」という「断捨離」が登場した。

     近藤麻理恵さんの「ときめくかどうか」で残すかを決めるのは、その最新版だ。取捨選択を議論しているようで、「自分とは何か」を探求する点で、世界中から支持を受けているのだろう。

    五つの鉄則

     ハウスキーピング協会は、整理・収納に関する五つの鉄則を提唱している。アイロンは霧吹きなどと一緒にしてカゴに。バッグや帽子は棚にラベルを貼り、定位置を作る。

    基準定めて整理したい

     取材を終えて 今春、引っ越しにあたり、段ボール3箱の荷物を捨てた。片づけの本を読み込んだ妻に「整理」を迫られて。妻は喜んだ。

     ぴかぴかの革靴は「この10年履いてないでしょ」。資料類は、「もはや情報価値が古い」と判断した。

     それでも決心がつかず、5箱は残った。「捨てる基準」を定め、整理に踏み切ろうと考えている。(住友堅一)

    2015年06月09日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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