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    世界も注目? 個性派はんこ

     各種契約のときに自分を証明する道具として使われ、ちょっとお堅いイメージだった「はんこ」。最近はイラスト入り、顔写真入りなど「カジュアルはんこ」でファッション性や自己主張を楽しめる。はんこ文化に心酔する外国人も登場。アニメ、マンガに続く日本発のコンテンツに成長するか。(配信部 大屋敷英樹)

    イラスト入り ポップで楽しく

    • イラスト入りはんこのサンプルが並ぶ「しにものぐるい」の店頭
      イラスト入りはんこのサンプルが並ぶ「しにものぐるい」の店頭
    • 「しにものぐるい」の店頭に掲げられたイラスト入りはんこのサンプル
      「しにものぐるい」の店頭に掲げられたイラスト入りはんこのサンプル

     「これ面白いね」「イラストがかわいい」――。1月下旬、東京・谷中銀座商店街の「邪悪なハンコ屋 しにものぐるい」の店先で人々が足を止めていた。店頭ではネコやウサギ、オウムなどが入った印面サンプル約500種類が客をお出迎え。「笑いやコミュニケーションを生む道具にしてほしい」という店側のねらいが当たり、5人も入れば満杯の狭い店内はごった返していた。

     都内の男性高校教諭は「かわいいはんこなら日常的に使ってくれるのでは」。生徒5人の誕生日祝いに贈るという。他にも「営業用の名刺に添えたい」「友人への手紙に」など、さまざまな目的で客が来店する。

     おそ松さん、日産車などのアニメやイラストに名前を入れられる「痛印」はネット通販の人気商品だ。昨年は、広島東洋カープのマスコット「カープ坊や」をあしらった商品もヒットした。銀行印として使う人が多いという。発案したTOSYO(埼玉県越谷市)の中川貴文社長(29)は「昨年は約3万本売れた。好きなキャラクターに自分の名前を入れれば世界で唯一のはんこになる。周囲に見せて楽しむ芸術品という側面も出てきた」と話す。

     城山博文堂(大阪市)の「ニャン鑑」もネット通販で人気。名前の字をよく見ると、一部にネコの姿があしらわれている。「さりげなくて実用的」と注文が殺到して一時受注を中断したほど。こちらも銀行用のほか贈答にも使われているという。

    イラスト入り 銀行で利用可能

    • 日産のGT-R R33
      日産のGT-R R33
    • 文字の一部に猫があしらわれたニャン鑑
      文字の一部に猫があしらわれたニャン鑑
    • 画面で自由にはんこのデザインを指定できる「オスモ」
      画面で自由にはんこのデザインを指定できる「オスモ」
    • らせんの形が美しい「ハンコード」
      らせんの形が美しい「ハンコード」
    • 曲線の背景に特徴がある「ハンコード」の印影
      曲線の背景に特徴がある「ハンコード」の印影
    • 「篆刻は難しいけど、消しゴムなら…」と話すワークショップ参加者
      「篆刻は難しいけど、消しゴムなら…」と話すワークショップ参加者
    • 消しゴムはんこで作った思い思いの作品
      消しゴムはんこで作った思い思いの作品
    • 「月刊現代印章」真子茂編集長
      「月刊現代印章」真子茂編集長
    • ハンコードの画像を見て、思わず「欲しい!」と叫んだロマさん
      ハンコードの画像を見て、思わず「欲しい!」と叫んだロマさん

     不動産や会社の登記などに使う「実印」と違い、銀行印にはイラスト入りのはんこが利用できることが多い。大切なのは偽造防止と本人確認。大手銀行では「個別の判断になるが、字が鮮明で、木製など変形しにくい材質ならだいたい大丈夫」と説明する。

    プリクラ感覚「自動販売機」

     はんこの作製プロセスを楽しめる自動販売機も登場した。シヤチハタ(名古屋市)が昨年3月リリースした「オスモ」。販売機のタッチ画面で36種のイラストと、35種のフレーム、8種の書体からお好みを選んで名前などを入れ、店頭で購入したスタンプをセットすれば、数分でオリジナルのはんこの出来上がり。スマートフォンで撮影した写真を読み込むこともできる。まるでプリクラ感覚だ。東急ハンズ新宿店など全国約80か所に設置されているという。同店は「最近のDIY(自分でやろう)ブームを受けて導入した。その場で作れるのが好評で、実店舗で体験してもらうのがネットショップにない強み」と期待を寄せている。

    遺伝情報をデザイン化

     「究極の個人証明」をうたうはんこもお目見えした。印面に遺伝子検査の結果を模様にして刻んだチタン製の「HANCODE(ハンコード)」だ。社会性や協調性、勤勉性など5要素の遺伝子情報を各30段階に数値化して印影の模様をデザイン。ボディーは2重らせん状にしてDNAを表現した。インターネットで販売するハンコヤドットコム(大阪市)によると、遺伝子情報だけで2430万通りに上り、そこに名前を刻めば「生まれ持った個性を可視化した唯一無二のはんこになる」という。自己分析遺伝子検査キットを含め7万5384円(税込み)。

    マイはんこを作る

     手作りはんこも人気だ。消しゴムはんこ作家の津久井智子さん(36)が東京・浅草橋で開くワークショップでは、14人がカッターや彫刻刀で、パンジーの花の絵に沿って消しゴムを彫る作業に熱中していた。完成したら指先でインクを塗って紙にペタリ。多色刷りの力作も目立つ。参加者の女性フリーター(38)は「達成感や満足感が大きい。手作りで自分のアイデンティティーを表現できた」と語る。

    はんこは「ファッション」「自己表現」

     はんこのカジュアル化を専門家はどう見るか。専門誌「月刊現代印章」の真子茂編集長によると、アクセサリー業界から参入した業者が12、3年前、透明なアクリル樹脂と和紙を組み合わせたおしゃれなはんこを売り出したことがカジュアル化のきっかけ。店頭で衝動買いする人も現れ、はんこは「制度上の義務」から、スマホのケースのように「ファッション」「自己表現」へと消費者の意識が変化したという。「ビジネスのみならず、いろいろな場面で使えると気付く人が増え、楽しみを伴った自分の分身か独自性を示すアイテムと見る傾向が強まった。くまモンなどご当地ゆるキャラを使ったはんこなら中高年男性にも受け入れやすく、カジュアル化は今後も加速しそうだ」と分析する。

    ハンコ王子「芸術的。世界で受ける」

     日本のはんこにとりつかれたという在日フランス人モデル兼タレントのロマ・トニオロさん(27)。3年間で集めた私物のコレクションは約65個。自他ともに認める「ハンコ王子」だ。最近はオリジナル商品の制作に関わるなど活動の幅を広げている。「はんこの魅力を世界に広めたい」というロマさんに聞いた。

    ――なぜはんこに興味を持ったのか。

     3年半前の初来日以前から、日本の紙幣に印刷されたはんこなどに関心があった。漢字は、文字のバランスやデザインがステキで芸術的だ。

    ――最初に作ったはんこは。

     3度目に来日した際、東京・上野で伝統的な木製の手彫りはんこを買った。日本人になったような気分だったが、実は大失敗。自分の漢字名として格好よいと思った「炉真鳥」が、焼き鳥かフライドチキンのような奇異な印象だと指摘された。

     今使っている「浪漫 兎弐桜路(ロマ・トニオロ)」の漢字は念入りに調べ、日本の友人の意見も聞いて1語1語選んだ。桜は日本文化の象徴で、ウサギは私のように探求心旺盛でお気に入りだ。銀座の専門店で篆書(てんしょ)体のはんこも作った。読めないが魅力的な字体で、特に大切にしている。

    ――どんな時に使ったのか。

     日本での生活を始めた当初、電話やアパートの契約などで数多く使う機会があり、宅配荷物の受け取り時にはんこを押したら驚かれた。常に携帯し、使う機会をうかがっている。

    ――あなたにとってはんことは。

     私の分身で、自分の気持ちが込められた特別な存在。まさに恋に落ちた。

    ――はんこの一層の普及を図るアイデアは。

     石材やガラス、チタンなど素材に工夫を凝らしたり、印面に漢字だけではなく、ネコやウサギなどの動物のイラストを入れたりするなど魅力を向上させる方法はいくらでもあるのではないか。

    ――外国でも普及するだろうか。

     はんこは(独自性が高く)、他の職人は複製品を作れない。僕が来日してとりつかれたように、外国の人々も関心を持つと確信している。

    ――将来の夢は。

     「ハンコ大使」となって世界中を回り、はんこが持つ日本文化の魅力を各国の人々と共有したい。日本人にも、もっとはんこを愛してほしい。

    2017年03月02日 09時59分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

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