若い女性に人気「文通」の新しいカタチ
メールやライン、ツイッターなどで手っ取り早く用件や情報を伝える時代。わざわざ手紙をやりとりする文通なんて、「とっくに遺物」と思っていたら、いま風にスタイルを変え、若者にも人気だという。意外。でもなぜ? (地方部 松崎美保)
手紙を仲立ちする会社
「あ、3通来てる。うれしい」。北関東で夫と2人暮らしのコハルさん(28)が、自宅の郵便受けから笑顔で封書を取り出した。趣味は文通。10人以上の文通仲間を持つ。
手紙を開封すると、「好きな真田丸の話に熱が入っている」。コハルさんもさっそく真田丸や直虎の話題を返信に書いた。
「コハル」は手紙の上でのペンネーム。仲間も「ねこさん」などと、それぞれのペンネームを名乗る。
互いに本名も、配達に不可欠なはずの住所も知らない。有料で文通の仲立ちをする会社「文通村」(保科直樹社長)を通じて、手紙を交換しているのだ。
「匿名」でトラブル防止
入会すると、まず会報に自己紹介文を掲載する。会員はそれを読み、「この人となら」と思う相手に手紙を書き、同社に送る。
同社は届いた手紙を宛先の会員ごとに振り分け、月2回、まとめて転送する。受け取った会員が同社経由で返信して文通開始。互いに望めばやり取りは続く。コハルさんは「カラオケや歴史が好き」と自己紹介し、すぐに歴史ファン同士の文通を始めた。
同社は手紙の中継はするが、開封はしない。個人情報の悪用によるトラブル防止のため、本名や住所などの交換を禁じ、匿名(ペンネーム)でのやりとりをルールにしている。
“1対1の対話”に安心感
匿名の良さは他にもある。保科さんは「匿名だから介護など周囲に打ち明けにくい悩みや、心の奥底にたまった思いでも素直に言葉にできます」と説明する。
コハルさんは「男女関係なく気軽に手紙の交換ができます」と喜ぶ。手紙は1対1の対話なので、インターネットの世界のように、知らない人から心ない言葉を浴びせられる心配もない。
そんな安心感が支持され、2009年5月の会社設立以来、会員は増加を続け、全国で約900人を抱える。9割が女性、半分が20~30歳代だという。
伝わる真心 にじみ出る人柄
保科さんが文通村を設立したのは祖母の死がきっかけだった。保科さんはおばあちゃん子だったのに、成人後は疎遠に。よく話もしないまま、祖母を送ってしまった。
保科さんは悔やんだ。「高齢者が取り残されず、使いやすいコミュニケーションはないものか」。思案の末に得た答えが、高校時代に旅先の人と交わした文通。その仲介サービスでの起業へと道が開けていった。
ペンを手にゆっくり文章を書くだけで自分の心も整理され、落ち着く。手紙をもらえば、一生懸命自分のために書いてくれた相手の真心が伝わってくる。
「そんな癒やしと文面ににじみ出る人の温かさこそ、手紙や文通の魅力」。保科さんの言葉に、遠い友達に久しぶりに手紙を出そうと思い立った。
文通…発祥は「郵便友の会」
1949年に名古屋市で始まった中・高校生のための「郵便友の会」が、未知の相手同士を結ぶいわゆる「文通」の起源とされる。今も日本郵便が「青少年ペンフレンドクラブ」(PFC)の看板で運営し、会費無料で通している。
毎月発行の会報に氏名と年齢、自己紹介を掲載。こちらも文通したい人がいたらPFC事務局に手紙を出し、事務局が転送する。その後は会員同士で手紙を交換する。
以前は会報に住所も載せ、最初から事務局の仲介無く、直接手紙をやりとりしていた。だが、2003年の個人情報保護法の施行後は今のやり方に変えた。
かつては数万人を誇った会員数は一時約5000人まで落ち込んだ。しかし、最近は入会希望が増え、8000人超まで回復した。10代の学生が多いという。
グッズへのこだわりも楽しみ
「文房具屋さんではつい私の好みにあったレターセットを2、3種類買ってしまいます。マスキングテープなど飾り付けのグッズも増えました」。コハルさんは苦笑いする。
手紙の飾り付けも文通の楽しみ。便箋や封筒にもこだわりたいもの。
そこで老舗文房具店「銀座・伊東屋」を訪ねると、「レターセットは一般的なA4サイズより一回り小さくて、今なら桜の模様入りなど季節を先取りしたものの売り上げが好調」(同店広報室)。好みの紙で封筒を手作りしたり、自分のイニシャルや好きなマークの封ろうをオーダーメイドしたりする人もいるという。
こんな手紙ならではの創意工夫も相手への思いやり。文通村の保科さんも「装飾で自分らしい手紙を作って送り合うことも、文通の魅力です」と話している。
・最低限のマナーを守る
手紙文の定型を気にして堅苦しくなるより、気楽な手紙のやりとりを楽しむべきですが、あいさつは欠かさず、安易に呼び捨てにしないなど、礼儀は守りましょう。
・相手の話に興味を持つ
相手の話に興味を持ち、聞き上手になること。相手もうれしいですし、会話も深まって自分の世界も広がります。
・積極的に自分を話す
聞いてばかりでもダメ。照れずに自分の興味や悩みも書くと、相手に自分のことをわかってもらえ、より親密になります。
・最初の手紙を出してみる
気になった人には臆せず、勇気を持って自分から最初の1通を出してみましょう。新しい友情が生まれるかもしれません。
◆「文通村」や、その他の主な匿名・会員制文通サービス◆
・文通村(千葉県成田市)https://www.fumibito.com/
会員数約900人。18歳~80代の男女。手紙は事務局の仲介で毎月2回発送。会費は3か月で2100円~。
・Letter Village(レタービレッジ、福岡県糸島市)http://www.lettervillage.net/
個人経営。会員数約100人。18歳~80代の男女。手紙は事務局の仲介で毎週発送。会費は月1200円。
・葉小舟(はこぶね、さいたま市)http://hakobune-buntsu.com/
個人経営。会員数約150人。18歳~80代の男女。手紙は事務局の仲介で毎月3回発送。会費は4か月で2700円~。