<速報> 千葉知事選、森田健作氏の3選が確実に
    文字サイズ
    住まいと暮らしに関わるニュースを掲載します。

    「あ、安部礼司」が大ヒット ラジオドラマの魅力とは

    「お気楽サラリーマン」に共感 放送12年目へ

    • 「あ、安部礼司」番組新ロゴ(TOKYO  FM提供)
      「あ、安部礼司」番組新ロゴ(TOKYO  FM提供)

     「お気楽サラリーマン」の成長物語が多くのリスナーの心をつかみ、ラジオドラマとしては近年異例のヒットとなった。「NISSAN あ、安部礼司 ~BEYOND THE AVERAGE~」(TOKYO FMはじめ系列37局で日曜午後5時~5時55分放送)(*注1)が4月で放送開始から丸11年を迎える。その根強い人気の秘密と、ラジオドラマというジャンルの可能性を探った。(配信部 横田博行)

    頑張り過ぎない主人公

     総合演出のディレクター勝島康一さん(55)は「5年は続けたい、と始まったのですが、こんなに人気が出るとは誰も全く思っていませんでした」と感慨深げだ。

    • TOKYO FMでの番組収録風景
      TOKYO FMでの番組収録風景

     主人公・安部礼司は、「アベレージ」(平均)の名の通り、普通を絵に描いたようなサラリーマン。放送開始の2006年からほぼ毎週聞いているという会社員中村淳司さん(32)(東京都練馬区)は、「自然体で頑張りすぎないキャラクターが良い。『肩の力を抜いて月曜日を迎えよう』と、気持ちを楽にしてもらえる」と話す。

     同僚である中村さんに勧められて聞き始めた会社員北川瀬里さん(34)(東京都練馬区)が魅力に挙げるのは、劇中の音楽(*注2)だ。安部礼司と同世代のリスナーが青春時代を過ごした1980年代、90年代の歌謡曲、J-POPが、ストーリーに合わせて次々とかかる。

    (注1) 「あ、安部礼司」  東京・神保町の中堅企業・大日本ジェネラルに勤務する安部礼司(1971年、静岡市生まれ)が、時代の荒波にもまれながらも、家族や同僚らと絆を深め合い、明るく前向きに生きる姿をコミカルに描く。会社の同僚で10歳年下の妻・優(旧姓・倉橋)と結婚、長男・永太(8)、長女・蘭(2)の2児をもうける。他に友人で「あ~っはっはっ」と高らかな笑いが特徴のIT系エリート・サラリーマン刈谷勇(44)、心優しくも猪突猛進な熱血漢の一面もある後輩・飯野平太(37)ら、安部とは対照的に強烈な個性の持ち主たちが、脇を固める(※2017年3月12日現在)。

    (注2) 劇中の音楽  聞きながら、思い出に浸ったり、気持ちを奮い立たせたりと、いわば心のツボ(急所)を今さらながら刺激する選曲、という意味を込めて、「今さらツボなセレクション」、略して「今ツボ」などと呼ばれている。

    リスナーと共に年齢重ねる

     登場人物は、現実世界に合わせて、リスナーと共に年齢を重ねる。放送開始時に34歳だった安部礼司は、いま45歳。この間、さまざまな出会いや別れを経て、同じ職場の女性と結婚し、2児をもうけた。

     最新のニュースや流行、話題、実在の店などをストーリーにどんどん取り込んでいく今日性も、番組の大きな特徴だ。東日本大震災や熊本地震に際しては、被災地で公開収録を行ったり、緊急生放送に切り替えてリスナーの応援メッセージを紹介したりして、大きな反響を呼んだ。

     出演者も、アニメで鳴らした人気声優らではなく、自然な感じを出せる役者をオーディションで選んだという。車の中でよく放送を聞くというIT関連会社員高田美恵さん(36)(東京都世田谷区)は、「夫婦の会話など、女性の立場から聞いても現実味があって、『ああ、わかる』と共感する」と話す。

    武道館イベントに8000人

    • 日本武道館でのイベントでステージに集合した出演者ら(2015年10月2日)=TOKYO  FM提供
      日本武道館でのイベントでステージに集合した出演者ら(2015年10月2日)=TOKYO  FM提供

     番組の人気ぶりは、関連イベントの動員数からもわかる。1月22日には、主人公・安部礼司の職場の後輩が結婚するというストーリー展開に合わせ、実際に結婚式を横浜市で行い、その模様を生放送。TOKYO FMによると、全国からのべ約2万4000人のファンが詰めかけた。放送開始10年目の2015年には、日本武道館でのライブイベントに約8000人が集まったという。地方での公開収録も積極的に行っている。

    「チョイ老けヤング」へのエール

    • 総合演出の勝島さん
      総合演出の勝島さん

     スタート時、主たるターゲットに想定したのは、若さの盛りを過ぎて、流行にも少し疎くなり始めた30代半ばのリスナー。「チョイ老けヤング、と呼んでいました」(勝島さん)。番組は、いわばそういう世代へのエールとして始まった。今やファン層は50代、60代にも広がる。

    • 番組プロデューサーの砂井さん
      番組プロデューサーの砂井さん

     プロデューサーの砂井博文さん(48)が狙いを説明する。「日曜の夕方の、あしたからまた仕事か……と思うような時間帯に、笑えて、たまに泣けたりもする番組を聞いて、元気になってもらいたいと考えました」

    ラジオドラマの既成概念破る

    • 脚本の村上さん
      脚本の村上さん
    • 脚本の北阪さん
      脚本の北阪さん

     脚本は、村上大樹さん(43)、北阪昌人さん(54)の2人が交互に担当。もともと演劇を中心に活躍してきた村上さんは、「真面目に聞かなきゃいけない、というラジオドラマの既成概念を壊してやろうというつもりでいました。こんなバカなことをやって青春時代を過ごした、というノリを皆で共有できたらと思います」と話す。ラジオドラマの名作を数多く手がけてきた北阪さんは、「フィクションなのに、あたかもそこに人がいるように聞かせるにはどうしたらいいか、この番組で初めてちゃんと考えました」と語り、「テレビと違い、それぞれのリスナーの中に全然違う安部礼司がいる。自分でそうやって紡いだ“映像”は忘れない。ラジオドラマの可能性はそこにあると思います」と力を込めた。

    ラジオドラマ 楽しさとヒットの鍵は? 「ギャラクシー賞」選考委員にきく

     NPO法人放送批評懇談会で、優れた番組を表彰するギャラクシー賞のラジオ部門選考に携わる同部門委員長の橋本隆さん(75)(元TBSネットワーク局長)、委員の三原治さん(59)(放送作家、日大芸術学部非常勤講師)は、ラジオを取り巻く状況は厳しく「あ、安部礼司」のヒットは最近ではとても珍しいケースだが、ラジオドラマにこうした人気番組が今後も生まれる可能性はあるとみる。

    ◆意欲あるディレクターに期待 ~橋本さん~

    • 橋本さん
      橋本さん

     「ラジオドラマは、トーク番組などに比べ手間やお金が何倍もかかるが、作りたいという情熱を持っているディレクターは各局にいる。ある地方局では社長がドラマ好きで、自分で台本を書いて演出までやったりしているほどで、『作り続ける』と言っている。ラジオドラマは、そこに込められたメッセージを想像しながら集中して聞くところに楽しさがある。それだけに、今の若者たちに聞かせるのは難しいが、『あ、安部礼司』はイベントや地方回りまでやって、若いリスナーを大切にすることで成功した。ディレクターのこういった努力は必要だが、ラジオドラマはこれからもなくならないだろう」

    ◆今の若者こそ攻めどころ ~三原さん~

    • 三原さん
      三原さん

     「ラジオドラマは、映像がない分、言葉の重み、深さがある。作品の世界にいったん入り込んだら、次どうなるの、と想像力がかき立てられる。そこが強みだ。しかも、壮大なスケールのものが作れる。死後の世界、宇宙の果て……映像でやろうとしたら安っぽくなってしまうようなものでも、制約なく作れる。ラジオは今は受信機がなくてもスマートフォンのアプリで聞くことができ、若者に近いメディアだ。いまの若者は、自分だけの世界で自分が欲しい情報だけを取り、知り合いに送って楽しんでいる。そこがラジオの攻めどころではないか。『あ、安部礼司』は切り方が上手で、10分、5分で場面が切り替わり、それほど集中して聞かなくても楽しめるようになっている。ラジオドラマは、まだいくらでも可能性を追求できると思う」

    草分けのNHK 90年の歴史

    • 「あ、安部礼司」主要登場人物シルエット(TOKYO  FM提供)
      「あ、安部礼司」主要登場人物シルエット(TOKYO  FM提供)

     ラジオドラマといえば、国内ではNHKが草分けだ。開局した1925年以来、90年余りの歴史がある。「君の名は」「鐘の鳴る丘」など、放送史に残る数々の名作を生んできた。音響による創作であることを意識して「オーディオドラマ」とも呼び、基本的に毎日、何らかの番組を放送。文学性、芸術性を追求した長尺の作品も多い。

    ◆「音のみ」だからこその臨場感

    • NHKドラマ番組部チーフ・プロデューサーの藤井さん
      NHKドラマ番組部チーフ・プロデューサーの藤井さん

     ドラマ番組部チーフ・プロデューサーで、「オーディオドラマ」の制作にあたる藤井靖さん(48)は「映像がないことは、臨場感という点でむしろプラスに働く」と強調する。「人は視覚が封じられると、聴覚に訴えてくるものを、『聞こう』と思って能動的に聞く。すると、自分の中のリアルな記憶と結びついて、まるでその場にいるような、登場人物のいる世界を共有しているような感覚が生まれてきます。そこが強みです」

     靴音やきぬずれなどの効果音は、もちろん膨大なストックがあるが、番組ごとに一から作ることも多いという。「スマートフォンの描写が難しい。操作時に音がほとんど出ないので……」と藤井さんは苦笑する。

    ◆“余白”を残し、いかに想像してもらうか

     最も苦心するのは、音ですべてを説明しつくさず、いかに“余白”を残してリスナーに想像してもらうか、という点だ。「すべてに説明的な音を付けてはつまらないものになってしまう。とはいえ、ひとりよがりでわからないものでもダメ。そのせめぎあいが悩ましく、面白いところでもあります」

     「今のネット時代は、楽しみ方がパーソナル(一人ひとり)だという点で、ラジオドラマと親和性があると思う」と藤井さん。「これからもいろいろなスタイルの作品を作っていくので、ぜひ聞いていただきたい」

    放送中の主なラジオドラマ

    「あ、安部礼司」のほかにも魅力的な番組がいろいろ。首都圏のラジオ局が現在レギュラーで放送している番組をいくつか紹介します。(2017年3月12日現在)

    「青春アドベンチャー」NHK FM月~金曜午後10時45分
    国内外の人気小説や劇画などを原作にしたスピーディーでスリリングな展開の連続もの、あるいは気鋭の脚本家によるオリジナル脚本により、音声ドラマならではの面白さを凝縮。

    「FMシアター」NHK FM 土曜午後10時
    時代の抱える切実な問題をテーマに、21世紀に生きる日本人の心に響くドラマ制作を主眼としている。独創性に富むオリジナル作品と共に、ベストセラー小説などのドラマ化も。

    「新日曜名作座」NHK ラジオ第1 日曜午後7時20分
    西田敏行さん、竹下景子さんの2人による語りで、人気作家の作品、国内外の歴史的文芸作品を中心に、安心して楽しめる名作を脚色してドラマ化。1話完結の短編シリーズや、スケール感あふれる長編シリーズなど多彩。

    「AKB48の“私たちの物語”」NHK FM 隔週金曜午後10時
    リスナーから募集したプロットをもとに、ラジオドラマを作成。そのドラマをAKB48のメンバーが演じていく。

    「ラジオシアター~文学の扉」TBSラジオ 日曜午後9時
    小説の名作のなかの1シーンをラジオドラマ化し、女優・中嶋朋子さんとゲストが演じる。

    「青山二丁目劇場」 文化放送 月曜午後8時30分
    人気声優・ナレーターらが、オリジナル書き下ろし脚本や文学作品などを演じる。「劇場支配人」として、「うる星やつら」の諸星あたるなどを演じた声優の古川登志夫さんが毎週出演。

    「le Salon~美術ミステリードラマ~」「地獄保険」「奥の細道」など FMヨコハマ 日曜午後7時30分「YOKOHAMA SYA⇔REE」番組内コーナー
    映画監督・脚本家・音楽プロデューサー等の肩書を持つ知性派の超マルチタレント杉崎智介さんが手掛けるラジオドラマを毎週2本ずつ放送。

    「かもめラジオの世界」 bayfm 火曜深夜1時30分「MOZAIKU NIGHT」番組内コーナー
    「眠りについた街を起こそうとラジオを通じて奮闘する4人。でも、その世界は……」。
    心の闇との葛藤を繰り広げる青春SFファンタジー。

    2017年03月16日 15時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

    ×

    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    読売ホームガイド×SUUMO