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    黒木瞳主演のWOWOWドラマでも話題となった『スケープゴート』の続篇。
    第7章 明日へ

    幸田真音『大暴落 ガラ』第7章 明日へ ♯326

    • 画 古屋智子
      画 古屋智子

    >>第7章 明日へ ♯325へ
     電話を切り、寝室のテレビをつけると、矢木沢が気合いをいれて制作したという特別番組がエンディングの場面にさしかかっていた。
     大型客船でひとまず避難生活を送っていた被災者たちが、仮の住まいを得て次々と下船している風景だった。
     両方から支えられ、杖をついて降りてくる高齢者もいる。老夫婦もいる。なかにはいたわるようにお腹に手をあてた、幸せそうな妊婦もいた。岸壁で手を振って待っている背の高い男性は、おそらく夫なのだろう。
     元の生活に戻れる安堵と喜びの顔を、朝陽が優しく照らしている。被災者たちにとっては、あの船から降りることが、まさに船出のシーンなのだ。
     場面が切り替わり、豪華客船の濃紺の船体にくっきりと白い文字で書かれた船名がアップになった。
     carpe(カルぺ) diem(ディエム)。五洋商船のあの新倉邦彰会長が名付けたものだと、すぐにわかった。
     ラテン語で、いまを楽しく生きる。今日を楽しめ。今日という日を大切に、とでも訳せばいいだろうか。新倉らしい名前のつけかただ。被災者たちの再出発にふさわしい船名である。
     場面が遠景に変わり、抜けるような夏空に、大型客船の純白と濃紺の優雅な姿が栄えている。
     さあ、出発だ。
     週が明けると、また自分も仕事が始まる。
     皓子は両手をあげ、思い切り伸びをした。総理大臣の仕事には終わりがない。やることはこのあとも山のようにある。
    「やりますよ。まだまだいくらでも」
     声に出して、皓子は言った。
     窓の外に拡がるその空の青さにも似て、皓子は晴れ晴れとした笑みを浮かべていた。

    2016年12月21日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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