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    小説や映画、詩や歌に残された作家たちの名言。その舞台となった土地をたずね、言葉が生まれた物語や背景、今を生きる人々の記憶を紹介します。

    いまや寓話の復興が…「きまぐれ博物誌」

    「半透明の人」秘めた苦しみ

    いまや寓話ぐうわの復興が私の目標である(「きまぐれ博物誌」より)

     「半透明の人」。作家・星新一の生前の印象を、米ハワイ在住で次女の星マリナさん(53)はそう語る。

     1001編を超える短編を残し、「ショートショートの神様」と呼ばれる新一だが、自宅での存在感は薄かった。「朝11時ごろ、仕事場の2階から下りてきて、ソファでゴロゴロして、ご飯を食べて2階へ戻る。作家って楽だなあって思いました」。夜中に書斎で七転八倒し、「あと何回この苦痛を耐えなければならないかと考えると、とても正気ではいられない」と書くほどの創作の苦しみを、新一は一切、話さなかった。星製薬を巡る事件を知ったのも、世を去ってずっと後のことだった。

     ノンフィクションライターの最相葉月さいしょうはづきさん(53)が、新一の評伝を書こうと思ったのは、「作品から作家像が見えてこない」からだった。新一は、小説は人間を描くものだという常識に反し、登場人物の心情を描かず、時事風俗も扱わないと決めた。人物は名前さえなく、無色透明の「エヌ氏」となっていく。ついには「いまや寓話の復興が私の目標である」と書くに至る。一体どんな人物なのか、興味を持ったのだ。

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     取材を進めると、意外な顔が見えてきた。父親は、一代でアジア最大規模の製薬会社を作り上げた星はじめ。その御曹司として育った新一だったが、大学院在学中の1951年、父が急逝する。何も知らずに24歳で継いだ会社には膨大な借金が残されていた。混乱に乗じて会社乗っ取りをたくらむ者。信頼していた社員の裏切り。次々と売られていく土地や工場、別荘。裁判。自分の無能さを思い知らされ、絶望の中、1年半足らずで社長を辞任、58年には取締役も退任する。「寓話」を目指したのは、「あまりに人間の汚い面を見すぎたためではないか」と、最相さんは言う。

     何も話さなかったのは、話し出したら、きりがなかったからだろう。マリナさんは今になってそう思う。新一は夕方、自宅近くの戸越銀座商店街(東京都品川区)を散歩するのが日課で、よく一緒に歩いた。苦しい執筆の前のひととき、商店街を歩く半透明の父親は、幸せそうだったと記憶している。(文・小梶勝男 写真・池谷美帆)

    星新一
     1926年、東京生まれ。東京大農学部卒。57年、同人誌「宇宙塵」に発表した「セキストラ」が江戸川乱歩に認められ作家デビュー。通常の短編より短い「ショートショート」の分野を開拓し、日本を代表するSF作家の一人となった。83年、作品数1001編を達成。97年、71歳で死去。代表作に「ボッコちゃん」(新潮文庫)など。エッセー集「きまぐれ博物誌」は角川文庫。最相葉月さんの評伝「星新一 一〇〇一話をつくった人」上下巻(新潮文庫)は大佛次郎賞など様々な賞を受賞した。

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    2016年12月19日 10時40分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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