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    小説や映画、詩や歌に残された作家たちの名言。その舞台となった土地をたずね、言葉が生まれた物語や背景、今を生きる人々の記憶を紹介します。

    人は侍といえば剣というが…映画「十三人の刺客」

    「新しい時代劇」を宣言

    人は侍といえば剣というが、今の世に
    真剣で戦った侍なぞはおらんのだ(映画「十三人の刺客」より)

    • 鳥の声が響く中山道の落合の石畳。外国人カップルが通り過ぎて行った(岐阜県中津川市で)
      鳥の声が響く中山道の落合の石畳。外国人カップルが通り過ぎて行った(岐阜県中津川市で)

     日本映画の全盛期は、時代劇の全盛期でもあった。映画の年間観客動員が10億人を超えた1950年代後半、東映が量産する勧善懲悪のチャンバラが絶大な人気を誇った。が、その勢いは長く続かず、映画人口も63年には約5億人へと半減する。

     そんな苦境を打開しようと、東映が取り組んだ新しい時代劇の代表格が、「十三人の刺客」だった。

     江戸時代、暴虐の限りを尽くす明石藩主・松平斉韶なりつぐの暗殺を老中から命じられた島田新左衛門(片岡千恵蔵)は、腕の立つ侍を集める。参謀格の倉永(嵐寛寿郎)は彼らに語りかける。

     「人は侍といえば剣というが、今の世に真剣で戦った侍なぞはおらんのだ」

     スター俳優が華麗な殺陣で悪人を斬りまくる従来の時代劇とは違うのだ、と宣言しているようでもある。

     参勤交代で明石に向かう斉韶を、新左衛門らは中山道の落合宿(現在の岐阜県中津川市)で待ち受け、53人対13人の壮絶な戦いが始まる。息つく暇もない展開、見る者に痛みを感じさせる泥臭い殺陣。

    • 動画は写真をクリック
      動画は写真をクリック

     「決戦の撮影は約2週間、皆ヘトヘトでした」。出演者のひとり、里見浩太朗さん(80)は回想する。「リアルを追求する工藤栄一監督の覚悟をくんで、俳優たちも違う自分を見せなくては、と取り組んだ」

     作品は高く評価された。続けて工藤監督が撮った一連の「集団抗争時代劇」について、映画史研究家の伊藤彰彦さん(56)は「安保闘争後の時代の殺気が込められている」と語る。

     しかし、まもなく東映は任侠にんきょう路線に転換し、時代劇の主舞台はテレビに移った。

     長く活況だったテレビ時代劇も、近年は制作本数が激減した。高齢化したスタッフは徐々に去り、衣装や殺陣など時代劇特有の技術が失われる危機も指摘される。伊藤さんは言う。「今や現場自体が『真剣で戦った侍なぞはおらん』という状況。でも、それを逆手に取れば、新しいものが生まれる可能性もあるはず」

     かつての危機には、人々が知恵と熱を結集し、「十三人の刺客」を生んだ。今度はどうだろうか。(文・片山一弘 写真・岩佐譲)

    十三人の刺客
     1963年に東映が製作した時代劇映画。工藤栄一監督、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、里見浩太朗、西村晃、内田良平らが出演。脚本は池上金男(後の作家・池宮彰一郎)。要塞化された落合宿で繰り広げられるラスト30分のリアルな集団戦闘シーンは、京都の自衛隊長池演習場に作られたオープンセットで撮影された。本作に続けて工藤監督が撮った「大殺陣」「十一人の侍」などの作品は後に「集団抗争時代劇」と呼ばれた。2010年に三池崇史監督、役所広司主演でリメイクされた。

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    2017年07月31日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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