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    どっちの神社が一番? 不思議な神事「座問答」

     相模国(神奈川県西部)でどちらが一番の神社か、寒川神社(寒川町)と川勾(かわわ)神社(二宮町)が順位を争った故事を今に伝えるという神奈川県大磯町の無言劇「()問答(もんどう)」。仲裁役の比々多(ひびた)神社(伊勢原市)が最後に発する一声で円満解決する、不思議な神事です。(地方部・池田創)

    「来年まで持ち越しましょう」で争い終了

    • 相模国成立の際、一番の神社を決める論争を模した神事「座問答」大磯町提供)
      相模国成立の際、一番の神社を決める論争を模した神事「座問答」大磯町提供)

     座問答はかつての相模国の神社6社が集まり、国家安泰と五穀豊穣(ほうじょう)を祈る「国府祭(こうのまち)」の中で行われる神事。全国に地方行政組織が設置された大化の改新(645年)の頃から始まったともいわれ、1000年以上の歴史を持つ。祭りは総社である六所神社を中心に開催され、各神社からみこしが出される。座問答は六所神社近くの神揃山(かみそろいやま)という小高い丘で挙行される。

     大磯町史などによると、相模国はかつて、東は相武(さがむ)、西は磯長(しなが)という二つの国に分かれており、大化の改新で合併して成立したとされる。座問答の起源には諸説あるが、合併の際に相武側の寒川神社と磯長側の川勾神社の間で「どちらが一番大きな神社か」を争った模様が儀式化されたという説が有力だ。

     儀式では権威の象徴として虎の皮が用いられる。それぞれの神社の社人が神前に虎の皮を無言で差し出し、「こちらが国一番の神社だ」ということを示す。寒川神社と川勾神社は互いに譲らず、虎の皮を差し出す動作は3回繰り返される。見かねた仲裁役の比々多神社の宮司が「いずれ明年まで」と初めて声を発し、儀式は終了する。

    • 儀式では寒川神社と川勾神社の社人が虎の皮を神前に交互にすすめる(大磯町提供)
      儀式では寒川神社と川勾神社の社人が虎の皮を神前に交互にすすめる(大磯町提供)
    • 最後に比々多神社の宮司が「いずれ明年まで」と声を発し、円満解決する(大磯町提供)
      最後に比々多神社の宮司が「いずれ明年まで」と声を発し、円満解決する(大磯町提供)

     「いずれ明年まで」は「来年まで持ち越しましょう」という意味。論争を明くる年まで先送りする形が1000年以上続いていると考えると、不思議な面白さがこみ上げてくる。勝ち負けを決めずに争いごとを収めようというわけだ。

     座問答を含めた国府祭は1978年に県無形民俗文化財に指定された。近年、地元では国指定に推し進める声が上がり、大磯町は2016年度から祭りの成り立ちや変遷を調べる聞き取り調査を開始。調査結果は18年度末までにまとめられ、国に提出される予定だ。特に座問答に関しては、いつ頃から虎の皮を用いるようになったのかなど謎も多く、起源も諸説ある。調査にあたる大磯町郷土資料館の佐川和裕さん(56)は「今回の調査で儀式の成り立ちを裏付ける新資料が発見されれば」と期待している。

    発するのは「いずれ明年まで」のたった一言

    • 40歳代の頃の永井さん。32歳で宮司に就任し、女性宮司の先駆けだった(本人提供)
      40歳代の頃の永井さん。32歳で宮司に就任し、女性宮司の先駆けだった(本人提供)
    • 座問答当日は多くの観客が訪れ、厳かな雰囲気が会場を包む(永井さん提供)
      座問答当日は多くの観客が訪れ、厳かな雰囲気が会場を包む(永井さん提供)

     仲裁役を務める比々多神社65代目宮司、永井治子さん(72)は、父の後を継ぎ、座問答の仲裁役を務めて約40年になる。国府祭以外の例大祭や行事のとりまとめ役も務め、多忙な日々を送るが、70歳代になっても気力十分。「暗いことは考えずに、いつでも前向きなのが元気の源なのかもしれないわね」と白い歯を見せる。

     宮司だった父・参治さんの背中を見て育ち、「ご先祖様の残した神社を後世に残したい」と考えるようになった。国学院大で神道を学んだ後、実家に戻って神職として働き始めた。女性の神職は当時としては珍しく、時には「女のくせにできるのか」と言われたこともあったが、批判を糧に頑張った。32歳の時に宮司に就任。その頃から座問答の仲裁役も務めるようになった。

     儀式で発する言葉は「いずれ明年まで」のたった一言。多くの観客が固唾(かたず)をのんで見守るため、最初の頃は緊張したという。体つきの良かった参治さんは声の通りがよく、父に負けないようにと腹の底から声を出すように心がけた。今でも緊張感を保ちつつ、国家安泰を祈る気持ちを忘れずに儀式に臨んでいる。

     参治さんが他界した後、神社の境内前で雅楽の演奏などを行う「まが玉祭」を自ら企画、今年で30回目を迎える。近く、宮司はめいの夫に継いでもらう予定だが、座問答の仲裁役はしばらく続けるつもりだ。「座問答を多くの人に見てもらい、争いを言葉で円満解決する尊さを感じてもらいたい」とにっこり笑った。

    • 先代宮司の父・参治さんも長年、座問答の仲裁役を務めた(永井さん提供)
      先代宮司の父・参治さんも長年、座問答の仲裁役を務めた(永井さん提供)
    • 「『いずれ明年まで』のたった一言だけど、争いのない円満解決の大切さを感じてほしい」と語る永井さん
      「『いずれ明年まで』のたった一言だけど、争いのない円満解決の大切さを感じてほしい」と語る永井さん

    • 参治さんが神社脇に建てた郷土博物館。周辺で出土した縄文時代の土器や祭りで用いた器などを公開している
      参治さんが神社脇に建てた郷土博物館。周辺で出土した縄文時代の土器や祭りで用いた器などを公開している
    • 永井治子さんが地域振興のために始めた「まが玉祭」(2014年5月17日撮影)
      永井治子さんが地域振興のために始めた「まが玉祭」(2014年5月17日撮影)

     ◆今年の座問答は5月5日 座問答は5月5日正午、神揃山の祭場で。総社の六所神社で道案内あり。神揃山まで徒歩で20分。当日は交通規制が行われるため、公共交通機関の利用を推奨。交通は、JR二宮駅から六所神社までタクシーで10分。バスだと神奈川中央交通バス「国府新宿」で下車し、六所神社まで徒歩5分。 問い合わせは六所神社(0463・71・3737)。

    2017年04月27日 09時59分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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