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    <5>富士重「城下町」太田を歩く

    非正規「活況」届かず 製造業雇用なお慎重

    • 車体にエンジンを取り付ける富士重工業矢島工場の従業員(太田市で)
      車体にエンジンを取り付ける富士重工業矢島工場の従業員(太田市で)

     経済のグローバル化や不況で、国内の非正規雇用は労働者全体の3分の1にまで増えた。非正規雇用の増加は消費低迷や少子化、格差拡大など社会不安を招き、対策が急務だ。一方、安倍政権の経済政策「アベノミクス」への期待で、企業業績には明るい兆しが見え始めた。雇用情勢は改善するのか。実態を探るため、今期最高益を更新した富士重工業の「城下町」太田市で関係者の声を聞いた。

     従業員3人が無駄のない動きでボルトを次々に締めていく。4月中旬、富士重工業の主力車種「フォレスター」や「レガシィ」を作る矢島工場の製造ライン。同工場の年間生産能力は42万2000台。今夏に年間生産能力を18万台に増やす本工場とともにフル稼働状態だ。期間従業員も県内3工場で計約2400人と過去最多となった。

     同社は5月8日、2013年3月期連結決算で税引き後利益が前期比3・1倍の1195億円だったと発表した。売上高と営業利益、税引き後利益とも過去最高を更新。北米市場での販売好調や最近の円安が業績を押し上げた。

     ただ、増産や設備投資が活発化して国内の雇用が増えるという展開にはならないようだ。群馬製作所の笠井雅博所長(58)は、国内工場の生産能力は「投資の壁にぶちあたっている」と指摘する。更なる増産には塗装部門の設備投資が必要だが、「為替変動リスクを考えると(投資先は)米国になる」と語った。

    ■財布のひも

     

     アベノミクスの影響は、市内の消費動向に表れ始めている。

     「客の少なさを嘆く同業者が少なくなった」。同市西本町で30年以上ラーメン店を経営する石田昭雄さん(66)は言う。石田さんは08年のリーマン・ショック後に急減した客足を増やすため、赤字覚悟でアイスクリームや果物を無料で出し、最近は売り上げが回復した。

     とはいえ、徒歩3分の場所に昨年3月開設した富士重工業の寮に住む期間従業員はほとんど足を運んでくれないとこぼす。

     「景気回復を実感していないから財布のひもが固いのか。昔の期間従業員はもっと派手に金を使った」

     太田商工会議所の岡島誠事務局長(56)は、駅前の繁華街ににぎわいが戻っていると証言するが、雇用増には時間がかかると予測する。製造業の集積する同市では、08年以降に輸出向け製品の受注が減り、従業員を切らざるを得なかった企業が少なくないからだ。岡島さんは「企業側も苦しい思いは繰り返したくないから、雇用には慎重だ」と明かした。

     「終わり」と言われない仕事に

    ■求人倍率 

    太田市を管轄するハローワーク太田の有効求人倍率は3月現在で0・82倍。前月比で0・02ポイント減、前年同月比では0・18ポイント減だった。0・97倍(季節調整値変更後)の県平均を大きく下回る背景には製造業の雇用情勢の低迷がある。

     5月10日昼過ぎ、太田市飯田町の同ハローワークは、22ブースある求職窓口がほぼ埋まっていた。混雑時には10人が窓口の空きを待つ。それでも、リーマン・ショック直後の30人待ちに比べると大きく減ったという。

     「不況なので仕事のある人たちは転職したくても我慢している」。根岸誠所長(54)は指摘した。

     雇用の低迷で根岸所長が心配するのは若者の就職だ。「非正規雇用の状態が続くと自分に自信がなくなる。責任を求められる正社員になるのを恐れる人も出てくる」。若者が正社員になることを促すため、この1年間に中学から高校、大学まで計7校で職業講話を行い、自分の強みを磨き、コミュニケーション能力を高めるよう呼びかけてきた。「企業は『これだ』というものを持っていないと採用しない。『いい人』なだけでは駄目だ」

     同市内の人材派遣会社を経営する男性(69)によると、飲食店やコンビニからの求人は増えている。男性は「働き手だった学生が外で遊ばなくなり、遊興費目的のバイトをしなくなったからだ」と語った。

     一方、市中心部にある派遣会社の男性社長(65)は、人材を取引先に派遣すると、取引先がその人材を直接雇用に切り替えるため、派遣料で稼げないと憤る。企業が3年を超えて働く派遣社員に直接雇用を申し出るよう規定した労働者派遣法に違反しないための動きだという。男性社長は「直接雇用されても多くの場合は契約社員の立場だから、雇用不安は変わらない。政府は派遣業者を悪者扱いするだけで実態を知らない」と吐き捨てた。

    ■ハローワーク 

     一方、労働者は雇用の先行きを悲観する人が多いようだ。

     ハローワーク太田で仕事を探していた市内の男性(24)は、景気の好転を全く感じられないという。大学卒業時には仕事が見つからず、専門学校で簿記とパソコンの資格を取った。3か月前、6か月間働いた食品メーカーを契約満了で退社。週2回ハローワークを訪れ、資格を生かせる正社員の仕事を探している。

     「事務職希望だが、このご時世なので職種にはこだわれない。『ここまでで終わり』と言われない仕事に就きたい」

    2013年05月15日 23時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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