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    <8>非正規労働者増加と対応策

    識者2氏インタビュー

     非正規労働者が急増する背景にはどのような事情があり、その影響は社会にどのような対応を迫っているのか。群馬労働局の小玉剛局長(53)と高崎経済大の永田瞬准教授(33)に、非正規労働者の置かれる現状や今後の雇用のあり方を聞いた。

    ■能力開発・育成を強化

    小玉 剛 群馬労働局長  

     こだま・つよし 1959年生まれ。早稲田大政治経済学部卒。83年、旧労働省入省。2008年、厚生労働省賃金福祉統計課長。12年、労働者健康福祉機構産業保健・賃金援護部長。同9月から現職。

     ――県内の非正規労働者の現状は。

     「2010年の国勢調査によると、県内の労働者のうち35・1%が非正規労働者だ。県が09年に行った事業所への聞き取り調査でも、正規・非正規の割合は7対3。この数字は全国と大きく変わらない。目立った地域差もないが、製造業の集積地や旅館・ホテルの多い地域、収穫期に一時的な人手が必要になる農業の盛んな地域では、非正規の割合が多少大きい傾向にある」

    • 小玉剛・群馬労働局長
      小玉剛・群馬労働局長

     ――非正規労働者が増えることの弊害は。

     「非正規労働者は能力開発の機会が乏しく、キャリア形成も不十分になりやすい。一度非正規になると長期化しやすい傾向もある」

     「社会全体でみても、賃金上昇の少ない非正規労働者は経済的自立が困難で世帯を持つことが難しく、少子化の要因となる。低所得者層が増えることで内需が低迷し、消費が減り、物価も下がる。企業はさらにコスト削減を迫られる。デフレスパイラルの大きな原因で、社会の活力を奪っている」

     ――対策は。

     「若年層はなるべく正社員になってもらう。ある程度年齢の高い人たちも正社員化が理想だが、企業側に期間の定めをなくすなどの処遇改善をしてもらったり、能力開発してもらったりする必要がある。能力開発は、公的な機関などで訓練をしっかりやって再就職に導く方法のほか、非正規労働者に能力育成の機会を与えるよう企業に促すやり方も有効だ」

     ――政府や労働局の取り組みは。

     「今年度から中小企業と連携した支援を始める。中小企業に『若者応援企業』として登録してもらい、若者向けに情報を積極的に公開し採用に結びつけていく。中小企業は、正社員を採用しようとしても若者が来てくれない。一方で学生たちも中小企業の情報が入りづらく、不信感を持っている場合がある」

     「35歳未満で正社員として雇用することを前提に、企業に助成金を出して訓練をしてもらう取り組みも強化する」

     ――政府は、多様な形での正社員化を模索している。

     「非正規労働者の不安は、雇用期間が限られている点にある。勤務地、職種が一定であるとか、勤務時間が短いなどの条件で期間の定めなく雇用されることは、現実的な対応として非常に効果的だ。新しい制度の導入は難しいが、各企業には先行企業の例を参考に最適な方法を探してもらいたい」

     ――今後の雇用形態についての考えは。

     「非正規が長く続く人たちは能力開発の機会に恵まれていない。単純に労働移動を促進することが雇用につながるとは思えない。非正規労働者には十分な能力開発が必要で、ある程度時間がかかる。非正規の割合がこれ以上増えることは望ましくない。行政や企業だけでなく学校、家庭を含めた社会全体で取り組む必要がある」

    ■中小企業軸に雇用創出

    永田 瞬 高崎経済大准教授

     ながた・しゅん 1980年生まれ。2009年、一橋大大学院経済学研究科博士課程修了、同大経済学研究科特任講師。10年、福岡県立大人間社会学部専任講師。13年から現職。専門は労働経済論。

     ――非正規労働者が増えている。

     「全国で非正規労働者の占める割合は1988年の18・3%から2010年には34・4%に増えた。正社員数がほとんど変わらない一方、非正規労働者は約1000万人増加した。正規の労働者が非正規に置き換わっている形だ」

    • 永田瞬・高崎経済大准教授
      永田瞬・高崎経済大准教授

     「背景にはグローバル競争で大企業を中心に海外生産を進め、国内工場を減らしたことがある。進出先が消費市場として見込まれることも海外進出を促している。また、製品が日本に入るグローバル化も進む。繊維産業では、1990年に5割程度だった衣類の輸入比率が2009年には95%に上った。うち9割が中国製。安い人件費で製造された海外の商品に人気が集まり、国内企業の経営を苦しめている」

     ――非正規労働者の増加による社会への影響は。

     「これまで安定的な就職先を見つけていた学生が1990年代中頃から、大企業を中心に正社員ではなく派遣、アルバイトに切り替えられている。見逃せないのは、非正規雇用が増えただけでなく、それで生計を立てている生活自立型の人が増えているという質的な変化だ。90年代までの非正規雇用は、同じ世帯にメーンの稼ぎ手が別にいる家計補助型が主だった」

     「今までの日本型雇用には、最初の賃金は安いが徐々に昇給し、その過程で技能も習得するという『青年から大人になるプロセス』が組み込まれていたが、非正規労働者は賃金上昇や技能形成の機会が乏しい。結婚、子育ても難しくなる」

     ――非正規労働者の割合を減らすためにはどうすべきか。

     「研究開発や日本にしかない技術、アイデアを生かすなど、付加価値の高いものづくりの形を目指すべきだ。長期的な研究開発は短期契約の非正規労働者ではなく、安定した長期雇用を必要とするからだ。発想の転換が必要だ」

     「地域に基盤のある中小企業を軸に雇用を創出していくのもいい。千葉県野田市では、地域の雇用を維持するために、公共施設の競争入札で価格だけでなく、応札企業が雇用を維持できるか、賃金をしっかり払っているかをチェックする公契約条例を設けている」

     ――非正規労働者への支援策は。

     「若年層が生活の安定を図るためには、居場所を確保することが重要だ。非正規労働者は、職場でロッカーが割り当てられないなど、会社の中で自分の果たす役割を確認できない。横断型の組織でつながりを深め、トラブルに直面した時は一人で悩むのではなく、企業側と交渉もするネットワーク型組織が有効だ」

     ――今後の雇用はどうあるべきか。

     「当面は子育てなどの費用も賃金に含まれる日本型正社員の雇用形態にできるだけ多くの人を取り込む努力が必要だ。だが、長期的には、被雇用者の賃金上昇は緩やかにはなるが、国が所得を再分配して個々の生活基盤を下支えする欧州のような福祉国家を目指すべきだ。雇用の形は今、大きな曲がり角にある」

     

    2013年05月18日 14時54分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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