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    <10>.68歳運転手さん「充実」「70歳まで働ける」タクシー会社

    労働力人口減少高齢者雇用は「必然」

    • 会社の同僚と談笑する金谷佐一郎さん(中央)(太田市の矢島タクシーで)
      会社の同僚と談笑する金谷佐一郎さん(中央)(太田市の矢島タクシーで)
    • 社員の横に座って面談する矢島壮一郎常務(左)
      社員の横に座って面談する矢島壮一郎常務(左)

     厚生労働省所管の独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が毎年作成している事例集「70歳いきいき企業100選」。2012年版では「70歳まで働ける企業」の先進事例として県内で唯一、太田市のタクシー会社「矢島タクシー」が選ばれた。同社は、高齢者の就労意欲と経験を生かした職場作りに取り組み、優秀な人材の長期定着を図っている。

     矢島タクシーのバス運転手金谷佐一郎さん(68)の朝は午前4時半に始まる。市内の大手メーカー工場で働く従業員をバスで送迎するのが金谷さんの仕事だ。隣町の寮から工場まで送り届け、午前7時前には同市細谷町の自宅に帰る。従業員を工場から寮に送り届ける午後3時から約3時間の仕事が始まるまでは自宅で休憩だ。

     「日中は畑仕事や家事の手伝い。自分の時間を存分に使える勤務だ」。金谷さんは満足そうに話した。

     47歳の時に県内メーカーから転職し、タクシー運転手として同社で働いてきた金谷さん。バス運転手になったのは60歳の時だった。会社幹部との定期面談で、大型二種免許を取得してバス運転手に転向することにした。

     「一番のポイントは年金。勤務時間の調整が難しいタクシー運転手では、働き過ぎて年金を減額される恐れがある」

     同社常務の矢島壮一郎さん(41)が転向の理由を説明する。

     バス運転手になった後、母親の介護などで2年ほど職場を離れたが、2年前に復帰した。金谷さんは「仕事を離れたら社会と隔離されているようなさみしさを覚えた。今は世の中に貢献できる充実感を感じる」と打ち明けた。

     同社は矢島さんの祖父が1954年に創業した。現在は父の正弘さん(72)が社長を務める。タクシーのほか路線バス、観光バス、スクールバス事業などを展開する。非正規従業員を含む社員106人の平均年齢は57歳。最高齢者は71歳だ。高齢・障害・求職者雇用支援機構の事例集は、同社が「幅広い分野に進出し定時制乗務、短時間乗務に高年齢者を積極的に雇用」していると評価する。

     同社が定年を60歳から65歳に引き上げたのは約20年前。地元密着型の経営で客から指名を受ける運転手も多いことから、定年を引き上げることで優秀な人材に長期間働いてもらう環境を作った。

     経営の多角化も人材確保と密接に関わっている。路線バスや高齢者・障害者用の福祉目的限定タクシーなど新しい分野を開拓する多角化には、高齢になった社内の運転手の働く場を確保する狙いもある。

     「長く働くための受け皿を広げた方が、社員も安心して働ける。良い人材も集まりやすくなる」と矢島さんは語る。

     高齢者雇用で同社が最も気を使うのが、収入額が一定を超えると年金が減額される在職老齢年金制度との関係だ。

     社員のほぼ全員が転職者。過去の年金の加入状況は社員一人ひとりで異なる。そのため、専門知識を持つ地元の金融機関や社会保険労務士の協力を得ながら、同制度で年金が減額されないよう社員の加入期間を把握し、個別の勤務体系で社員の「無駄働き」をなくしている。

     社員の健康管理や働く意欲への配慮も大事だ。同社は健康診断のほか、毎年2~3回の面談で勤務状況や本人の希望を調査。高年齢の社員の実情に合わせてフルタイム勤務だけでなく、短時間、短日数、昼間だけの勤務など柔軟に対応している。社員の率直な意見を聞くため、面談はリラックスできるよう矢島さんが横に座って雑談するような形で行っているという。

     同社が高齢者の働きやすい職場作りに取り組む背景には、若い人材が集まりにくい業界事情もある。

     タクシー業界は2002年の規制緩和で増車が許可制から届け出制に変わった。競争を促進して需要を増やし、利用者の利便性を向上させ事業を拡大させる狙いがあったが、景気低迷で利用者は増えず、燃料費の高騰や過当競争もあって運転手の収入は減っている。厚生労働省によると、県内の男性タクシー運転手の平均年収は01年の282万円から12年には268万円に落ち込んだ。政府は08年から再規制に踏み切り、タクシーの台数削減を進めているが、業界の売り上げは低迷したままだ。正弘社長は「ドライバーの年齢だけが上がっていく業界になっている」と説明する。

     これからの高齢化社会を企業はどのように生き抜くべきか。不況の影響を真正面から受けるタクシー業界で、積極的な高齢者雇用によって生き残りを図る同社の取り組みに学ぶべき点は少なくない。

     正弘社長は「労働力人口の減少は避けられない。経験豊富な高年齢者の雇用は必然となる」と強調する。矢島さんは「お年寄りのお客様には同世代の運転手の方が話しやすくて快適だという方が多い。酒に酔った客への対処法も上手だ」と高齢者ならではの強みを指摘する。

    2013年05月23日 00時35分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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