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    <15>女性の視点で起業続々

    無理なく好きな仕事

     家庭と仕事との両立を図るため、働く場所や時間を調整できる起業という道を選ぶ女性もいる。中でも女性の視点を生かした事業は、地域社会の活力の源となっている。

     「手の動きは大きくゆっくりやりましょう」

     4月19日、富岡市ののどかな住宅地にあるアパートの1室で、吉沢未樹さん(30)が赤ちゃんと母親のペア3組を前に、長女めいちゃん(1)に手の動きで意思を伝えるやり方を実演した。吉沢さんは、手の動きや表情などで赤ちゃんと意思疎通し、母親の育児ストレスを軽減するという「ファーストサイン」の教室「タンタンベイビー」の経営者だ。

     吉沢さんは結婚を機に保育士の仕事を辞め、2010年1月に長男陽太ちゃん(3)を出産。まだ言葉を話せない子と家で2人きりの時間が長く、「社会から取り残された気分になった」時、ロイヤルセラピスト協会(東京都)が講師資格を発行するファーストサインを知った。

     学んでみると、「おっぱいがほしい」など陽太ちゃんの気持ちが推測できるようになり、陽太ちゃんの泣く回数が減った。「たくさんのママに知ってもらいたい。自分も子どもと一緒にいながら働ける」と10年11月、協会指定スクールを開く資格を取得した。

     ブログなどで宣伝すると、学びたい母親や資格取得希望者が多く訪れた。4月は週3回ほど働いて売り上げは約40万円。「好きな仕事で頑張った分だけ報われる」と起業の魅力を話す。

     同協会によると、県内の指定スクール数は5月中旬で51か所と、昨年同月からほぼ倍増したという。

     自分のペースで働きたい女性が支え合って起業するケースも増えている。働く人が共同出資し、経営する事業体「ワーカーズ・コレクティブ」だ。

     「このお肉は評判良かったですね」。4月下旬、元専業主婦の女性3人が、高崎市のカフェ「沙羅の木」で食材の仕入れ先について話し合っていた。カフェは、昨年8月に主婦ら5人が出資した事業体が、代表の斎藤典子さん(57)の自宅を改装して11月にオープンした。

    • 食材について話し合う斉藤さん(右)ら(4月25日、高崎市の「沙羅の木」で)
      食材について話し合う斉藤さん(右)ら(4月25日、高崎市の「沙羅の木」で)

     斎藤さんは、結婚して県内から東京に移ったのを機に専業主婦になった。PTA活動などを通して「実行力があり、料理や文章が得意で優秀な女性が多いのに、仕事をしていないのはもったいない」と感じていた。

     県内に戻り、子育ても落ち着くと、「生協の食材を使い、安心して食べられるカフェを開きたい。一人の力は少しでも、みんなで集まればできる」と思い立った。主婦の潜在能力を生かすため、生協の組合員らに出資を呼び掛けた。

     カフェのランチは食材を無駄にしないため予約制。出資金は「主婦にも出せる金額」の5万円からに設定。持っていた食器類などを活用し、借金もせず、無理のない経営を展開する。

     主婦が多いからこその悩みもある。各家庭の事情で平日は週3日、土曜は月2回の営業で、売り上げは決して多くない。それでも、5~12歳の3人を育てる高崎市の井上綾子さん(39)は「企業ならパートでも働く曜日や時間が決められてしまう。このカフェなら子どもの予定に合わせて働ける」と話す。

     県内の事業体は、昨年2団体、今年1団体設立され、現在は6団体。昨年9月には共同で「ワーカーズ・コレクティブ ネットワークぐんま」を設立し、共同仕入れや勉強会による経営面の強化に乗り出した。事務担当の剣持裕子さん(62)は「講演会などを開いてもっと仲間を増やしたい」と意気込む。

    • 焼き立てのパンを並べる五十嵐さん(4月17日、前橋市のパン工房SYATOAで)
      焼き立てのパンを並べる五十嵐さん(4月17日、前橋市のパン工房SYATOAで)

     12年版中小企業白書によると、起業家の年間所得は、女性の約7割、男性の約3割が100万円未満。県内で女性起業家を支援している中小企業診断士の茂木三枝さん(42)は「女性は男性より小規模で収入は少ないが、好きな仕事で無理なく働く場合が多い」と指摘する。

     女性起業家は、社会貢献に関心が強い特徴もある。11年版の同白書によると、起業分野の選択理由として「社会に貢献できる」を挙げた女性は42・6%と男性の33・7%を上回った。

     息子3人を女手一つで育て上げた五十嵐明子さん(58)は3年ほど前、前橋市の中心市街地に「パン工房SYATOA」を開いた。年齢や経験から正社員での就職は難しいと考え、「仕事がないなら自分で作ろう」と開業を目指し、パン屋で経験を積んできた。「子育てでお世話になった地域に恩返ししたい」と考え、活気が消えた街中で開業した。食材は県産にこだわり、小麦アレルギーの子どもが食べられるパンも作る。

     まだ生活が苦しかった20年ほど前、笑うことを忘れていた。そんな時、小学生の次男が「にこにこや」という飲食店の看板を見てつぶやいた一言にはっとさせられた。

     「にこにこを売ってくれればいいのに」

     五十嵐さんは日々、「にこにこやさん」を目指して客の声に耳を傾ける。子育てを乗り越えた母親のエネルギーは、地域社会にも活力を与えている。(おわり)

          ◇

     この連載は、槙野健、田中ひろみが担当しました。

    2013年06月01日 00時51分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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