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    <年金不正受給>「性善説」確認に限界

    • 「年金受給権者現況届」の書式。本人記載を確認できる方法がなく、現況届を悪用しての不正が横行している
      「年金受給権者現況届」の書式。本人記載を確認できる方法がなく、現況届を悪用しての不正が横行している

     ◇情報不一致なら死亡追えず

     死亡した母親の年金約154万円を不正受給したとして、詐欺罪に問われた無職・遠部智恵美被告(61)(尾道市)の初公判が11日、地裁福山支部であり、遠部被告は起訴事実を認めた。母親の死亡届は提出されていたにもかかわらず、日本年金機構は、その情報を把握できず、年金を支給していた。背景を探った。(松浦彩)

     ■偽装12年

     検察側の冒頭陳述などによると、母親は2003年1月に死亡。だが、年金の振り込みは続き、同3月に日本年金機構の前身・社会保険庁から「年金受給権者現況届」(はがき)が届いた。遠部被告は「返信しないと年金が止まる」と考え、母親が生きているように装って現況届を送り、年金を受け取っていたという。

     以降、約12年にわたり、不正に受給し、その総額は約1900万円に上るとみられる。年金は生活費などに充てていたという。

     ■住基ネットの活用

     社会保険庁は06年から、受給者の死亡確認に住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を活用。住民データを管理する団体から月1回、受給者の死亡に関する情報の提供を受けている。

     住基ネットによる死亡情報を受けるため、現在の日本年金機構は、受給開始手続きで把握した住所、氏名、生年月日、性別を、住民データを管理する団体に照会。全項目で一致すると、同一人物と判断し、住民票コード(11桁)の確認が可能となり、同団体から死亡情報を受け取れるという。

     機構によると、14年度現在、住基ネットから死亡を把握できる受給者は全体の99・6%に上る。

     ■把握困難

     住基ネット活用時に、住民票の住所(住基ネット登録の住所)と異なる居住場所で年金を申請していた受給者で、その後も住民票コードを機構に伝えていない人は、住基ネットの情報と一致しないため、住民データを管理する団体から機構に死亡情報の提供は行われない。

     こうした場合、機構は、年金受給権者現況届を提出してもらうことで、生存を確認している。遠部被告の母親も、そうだった。

     しかし、現況届の提出は年に一度で、受給者の生存を証明する書類の添付は必要ない。「記入は原則、本人としているものの、確認の手段がない」(機構担当者)ため、不正を働きやすい。

     全受給者の死亡情報を住基ネットで把握できるようにしようと、機構は現況届に住民票コードの記入欄を設けているが、記入は任意のため、進まないという。

     ■生死調査

     機構は14年2月から、現況届で申請する受給者のうち、介護保険を利用している可能性が高い75歳以上で、年金から介護保険料が徴収されていない人物を対象に生死などを調査。自治体にも死亡届提出の有無などを確認している。遠部被告の不正も、こうした調査で発覚したという。

     厚生労働省によると、不正受給として、12年4月~15年3月に、全国の警察に被害届を出したのは45件で、被害総額は約8600万円。ただ、同省は「調査対象者以外による不正受給もあると思われ、実質の被害額はもっと大きい」とみている。

     住基ネットで死亡を把握できない残り約14万人(全体の0・4%)に関する状況の確認と、防止策の早期確立が求められる。機構広報室は「性善説に立った制度で、不正が横行している。抜本的な対策を検討中」としている。

    2015年12月12日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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