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    <2>心潤う田舎暮らし

     ◇世羅町でカフェを営む フランシスコ・カステジャロメウさん(スペイン)

    • 近所のお年寄りに料理を振る舞うフランシスコさん(右から2人目)と妻の京子さん(中央)。お年寄りたちは、自宅のようにくつろぎながら、世間話に花を咲かせる(世羅町で)=近藤誠撮影
      近所のお年寄りに料理を振る舞うフランシスコさん(右から2人目)と妻の京子さん(中央)。お年寄りたちは、自宅のようにくつろぎながら、世間話に花を咲かせる(世羅町で)=近藤誠撮影

     世羅町にある築約160年の古民家を活用した「おへそカフェ&ベーカリー」。昨年末、近所のお年寄りの女性3人が談笑していた。

     料理が運ばれると、オーナーのフランシスコ・カステジャロメウさん(34)が姿を見せ、ピザを切り分けながら尋ねた。「年末の大掃除は終わりましたか」。女性の一人が「だんなに手伝ってもらうから」と答えると、笑いに包まれた。

     店名には「つながりが生まれる場所に」との思いを込めた。お年寄りの笑顔を目にし、「ここで色々な交流が生まれている」。自然と頬が緩んだ。

              ◇

     スペインでは1日5回、食事していた。話しながら昼食に約2時間かけるスローフードだ。「ゆっくり食事でき、家族との時間を持てる場所を作りたい」。2011年5月、妻・京子さん(36)とカフェをオープン。だが、フランシスコさんにはもう一つ夢があった。

     「故郷のバレンシア県で食べた小麦と塩、水で作られたパンを知ってほしい」。来日から4か月後の10年6月、小麦栽培とパン作りを始めた。だが、簡単ではなかった。小麦は産地や乾燥方法の違いで状態が変わる。本を参考に小麦粉を配合してもうまくいかない。それでも、京子さんに励まされ、13年3月、全粒粉を使ったパンを完成させた。

     「日本移住という大きな決断をしたからか、大抵のことは苦にならない。県内外から多くの人が買いに来てくれ、リピーターもいる。自分のやっていることは間違っていなかった」

              ◇

     転機はイタリア。08年、母国で起業したが、連日の残業。「働くだけの生活に意味があるのか」と自問自答した。心身ともに疲れ果て、1年後、会社を仲間に任せ、イタリアへ渡った。

     そこで出会った京子さんとスローフードの話題などで意気投合し、交際が始まった。農作業などを手伝う代わりに宿泊場所などを提供してもらう仕組み「WWOOF(ウーフ)」を活用。京子さんも同じだった。食事や余暇に時間を費やせた。

     2か月後、帰国を控えた京子さんに「世羅も空気や水が奇麗。先祖からの土地を守りたい。一緒に日本へ来て」と誘われた。田舎暮らしが合う自分がいた。決断に時間はかからなかった。

              ◇

     カフェは有機野菜を使った料理が人気を呼び、観光客も訪れる。愛妻と働き、長男・フランシスコ碧ちゃん(2)を授かった。カフェで受け入れるウーフの利用者(ウーファー)と農作業し、住民と交流。「その一つ一つに幸せを感じる」

     ウーファーは漬物やみそ作りに感動し、茶道を喜ぶ。ここでは当たり前のことが新鮮に映る。「世羅には宝物が眠っている」とフランシスコさん。「今を大切にしながら、ここでの生活を満喫したい」(佐藤祐理)

     ◇どんなとこ

     スペイン東部に位置し、地中海に面しており、乾燥した温暖な気候で知られています。絹の取引所だった世界遺産「ラ・ロンハ」や、大聖堂(カテドラル)など石造りの歴史的建造物があり、多くの観光客が訪れます。米やオレンジ、トマトなどの栽培が盛んです。米と魚介類、肉などを専用の平鍋で炊き込んだ「パエリア」が有名で、発祥の地とされています。

    2016年01月03日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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