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    <6>遠い故郷つなぐ味

     ◇尾道でミートパイ専門店を営む トニー・スティンソンさん(オーストラリア)

    • 尾道で生きていく覚悟を決めたトニーさん。「ミートパイのおいしさを尾道から発信したい」と意気込む(尾道市で)
      尾道で生きていく覚悟を決めたトニーさん。「ミートパイのおいしさを尾道から発信したい」と意気込む(尾道市で)

     JR尾道駅(尾道市)近くの尾道本通り商店街。西側から300メートルほど歩くと、オーストラリア国旗が見えてくる。ミートパイの専門店「ザ・フライング・パイマン」だ。

     買い物に来た女性、他の店舗を見ながら歩くカップル――。店内から眺めていたオーナーのトニー・スティンソンさん(48)がほほ笑む。「ここにいると、祭りの日のにぎわいも、平日の静けさも、その日の街の雰囲気がよくわかる。尾道の脈拍を感じられるここを、とても気に入っている」

        ◇

     妻・千由紀さん(44)と結婚するとき、「一緒にできる仕事を」と考えたのがミートパイの専門店だった。日本では店舗を見かけなかったことから、「商業チャンスがあるし、故郷とつながっていられる」と決めた。4年半前、海岸通り沿いに店を構え、2014年5月に現在の場所に移った。

     ミートパイは、生地も中身も全てトニーさんの手作り。ミートオニオン味など5~6種類をそろえる。店は土曜、日曜のみオープンし、インターネットでも販売している。

     直径約8センチ、厚さ約2センチのサイズは食べ歩きにぴったり。広島市東区の会社員・保科はるかさん(30)は「生地はサクサク。ラーメンとワッフルを食べた後だけど、この大きさなら軽くいける」と笑う。

        ◇

     尾道に移住したのは来日3度目の約8年前。愛媛県・弓削島の商船学校で英語教師として勤務。学校まで近かったため、尾道に住むことを選んだ。暮らし始めると、山と海に挟まれたコンパクトな街や、ゆったりとした雰囲気が気に入った。

     店を開き、そして、この商店街にたどり着いた。酒店や玩具店、本屋などが並び、行商の女性が所々で魚を売っている。「このメニューは英語で何と言えばいいの」と相談を受けることも。「店同士が支え合い、人と人とのつながりを感じられる」場所だ。

     故郷・シドニーの郊外では、自宅近くの新聞店やパン屋はコンビニ店や大規模商業施設に客を奪われ、閉店していった。だから、小さな店が共存するこの商店街は「すごく価値がある」と考える。

        ◇

     店舗3階で妻、長女・花ちゃん(2)と暮らす。平日は2階で英会話を教え、充実した日々を送る。85歳の母はシドニーで独り暮らし。だが、日本へ呼び寄せることは考えていない。母が手入れする大切な庭も、友人も存在しないからだ。

     自分が故郷に帰るつもりもない。「自転車で走っていると、尾道は奇麗だなと、ふと感じる。何年たっても、そんなふうに思える街に偶然住み、結婚し、店を始めた。だから、尾道にいるのは自然で当たり前のこと」

     多くの人に故郷の魅力の一つ、ミートパイを知ってほしいと思う。「母も応援してくれている」。ここで生きていく覚悟はできている。(松浦彩)

     ◇どんなとこ?

     シドニーは、豪州東南部に位置するニューサウスウェールズ州の州都です。人口は国内最大の約480万人。世界遺産に登録されているオペラハウスは、シドニーのシンボルで観光名所になっています。中心市街地から約10キロ南には、英国の探検家、ジェームズ・クック(キャプテン・クック)が1770年に上陸したボタニー湾があります。

    2016年01月08日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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