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    <7>被爆描く夫を支え

    • 「カフェでは絵を見てひと息ついてほしい」と話すマリアさん(右)と憲一さん(福山市で)
      「カフェでは絵を見てひと息ついてほしい」と話すマリアさん(右)と憲一さん(福山市で)

     ◇福山でギャラリーカフェを営む 小川マリア・イネスさん(アルゼンチン)

     夫が画家であることは、出会ってすぐに聞いていた。だが、原爆や空襲などを題材にしていることは絵を見て知った。「アルゼンチンにいた頃、広島と長崎に原爆が落とされたという知識はあったが、これほど、ひどいものだったのか」

     アルゼンチン・ミシオネス州出身の日系2世、小川マリア・イネスさん(59)は、おびただしい数の焼けただれた人が描かれたキャンバスを初めて目にしたときの衝撃を、そう振り返った。

          ◇

     両親は日本人で、鹿児島からの移民だ。19歳のとき、ブエノスアイレスでのクリスマスパーティーで知り合った夫の憲一さん(68)と結婚。夫の帰国に合わせ、1980年、日本への移住を決めた。「行ったことはなかったが、両親が生まれ育った国には興味があった」

     夫の出身地・京都市で10年ほど生活した後、いったん母国へ戻り、92年に再び来日。「京都市にはなかった海が見える所で暮らしたい」という夫の希望で、知人に紹介された福山市へ移り住んだ。

          ◇

     高校の修学旅行で訪れた広島平和記念資料館(広島市中区)で、原爆の犠牲者と被害に苦しむ人たちの存在を知った憲一さん。「戦争の悲惨さを伝えたい」と描き始めた。油絵、水彩画、水墨画などを手がける。

     マリアさんは当初、原爆関係の絵を直視できなかった。「自分や子供が同じような被害に遭うと考えたら、怖かった」からだ。だが、次第に作品を受け入れることができるように。夫が全国で個展を開催する際には、作品を積んだ車のハンドルを握って会場まで運搬するなどサポートしてきた。

     瀬戸内海のそばに建つ築約100年の醤油しょうゆ蔵にたどり着いたのは絵が増え、収納場所を探していた2013年6月。福山市・田島で見つけた。「絵を見ながら、ひと息つける場所にしよう」

     敷地内の古民家を改装。約4か月後、ギャラリーを兼ねたカフェ「絵とお茶テレレ」を開店した。テレレは故郷の冷たいマテ茶を意味する。水を求めていた被爆者に「飲ませてあげたい」との思いを込めている。

          ◇

     店内には、アルゼンチンや京都の風景画などを飾り、故郷の菓子やコーヒーなどを味わってもらう。一方、蔵には、原爆関連の絵を50点ほど展示。絵を見てショックを受ける人もいる。

     だが、マリアさんから話しかけることはない。相手が話す感想に耳を傾けるだけ。「絵を目にして感じたことを、そのまま伝えてほしい」と考えるからだ。

     営業は土曜から月曜までの3日間。客は1日平均10人だ。それでも、店を閉めるつもりはない。「一人でも多くの人に夫の絵を見てもらうことが、原爆の悲惨さを知ってもらうことにつながるから」。そんな思いに突き動かされている。(萩原大輔)

     ◇どんなとこ?

     アルゼンチン北東部に位置する州で、ブラジル、パラグアイと接しています。ブラジルとの国境にある世界三大瀑布(ばくふ)の一つ、「イグアスの滝」が有名です。大小様々な滝があり、轟音(ごうおん)とともに水煙を上げて水が落ちる光景には圧倒されます。一帯の「イグアス国立公園」は、世界遺産に登録されています。

    2016年01月11日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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