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    <3>「ハルヒ」ファン 街に活気

    • 「聖地10周年」を祝うファンに、アニメにも登場した裏メニューのメロンクリームソーダを手渡す細海さん(中央、西宮市で)
      「聖地10周年」を祝うファンに、アニメにも登場した裏メニューのメロンクリームソーダを手渡す細海さん(中央、西宮市で)

     ◇「珈琲屋ドリーム」オーナー 細海章子さん

     扉を開くときたてのコーヒーの芳醇ほうじゅんな香りが漂う。壁にシンプルな抽象画が掛かり、静かな時が流れる喫茶店。年配の常連客に交じって若者の姿も見える。

     阪急西宮北口駅のすぐ近くにある「珈琲コーヒー屋ドリーム」。アニメに登場する街や店をファンが訪ねる「聖地巡礼」の草分けとして知られる店は、「涼宮すずみやハルヒの憂鬱ゆううつ」で描かれた。

     2006年にアニメが放送されてから10年。オーナーの細海章子さん(59)は、全国から訪れるファンを今日も穏やかに迎えている。

     「映像化のため、店内を撮らせてもらえませんか」

     ライトノベルを手に訪れた男性から依頼されたのは10年ほど前。いつも決まって、コーヒーとホットドッグを注文し、黙々とノートに向かう姿を覚えていた。「涼宮ハルヒの憂鬱」の作者、谷川ながるさんだった。

     06年4月に放送が始まったアニメは大ヒット。主人公たちが立ち寄る喫茶店のモデルとなったドリームは、カウンターやテーブルなどの内装から看板まで、そのままに描かれていた。

     間もなく、若者の姿が目立つようになった。「こんな昔ながらの店にどうして中高生が?」。聞けば、「ハルヒのファン」という。アニメで店の場所は明かされなかったが、ネットで情報が広がったらしい。

     放送終了後も訪れる人は絶えず、ファンの要望で入り口の本棚を開放。作品と店への思いを書き込む「ハルヒ雑記帳」や本、フィギュアが並べられた。

     「聖地だから」と、やってきたファンが、店や街に魅了され、愛着を持つようにもなった。

     例えば、14年に復活した、駅前の時計。地域のシンボルだったが、再開発のため、09年に西宮市が撤去した。その後、ファンが「市内のスクラップ工場に残っている」。熱意が市を動かした。

     13年にドリームで焙煎ばいせんを一手に担っていた、細海さんの夫、研一さんが急死した時、一緒に悼んでくれたのもファンだった。「私たちにはここが必要」の声が、閉店に傾きかけた気持ちを奮い立たせてくれた。

     「いつも温かく受け入れてくれる店があるから、街まで好きになった」。6年前から毎月、店に通い、地域を流れる津門川の清掃にも参加する大阪府枚方市の男性(36)はいう。

     「10周年おめでとう!」

     昨年12月17日、「涼宮ハルヒの憂鬱」を愛する若者ら約50人が店に集った。アニメに登場する街並みを、アングルもそのままに撮影した写真を見せ合い、好きなキャラクターの魅力を熱っぽく語り合う。そんな様子を細海さんは、カウンター越しに優しく見守っていた。

     「ママさん」と親しまれるが、一つだけ、守り続けていることがある。それはファンの話に加わらないこと。「つかず離れずの心地よい関係を保ち、アニメに描かれたレトロな雰囲気も残していきたい」

     変わらないことが、恩返しだと思っている。(藤本幸大)

     ◇聖地巡礼歓迎 自治体が知恵

     2000年代に入り、特定の地域を舞台としたり、現実の建物を背景にしたりするアニメが多く制作されるようになった。こうして「聖地巡礼」が生まれ、以前は目立った観光地ではなかった場所にも、多くの人が集まるようになった。

     自治体もそれを街づくりに生かそうと知恵を絞る。県内では、西宮市が16年にテレビ放送された「坂本ですが?」で登場した場所を紹介するマップを作成。尼崎市も、同年放送の「響け!ユーフォニアム2」に登場した市総合文化センターを、市のフェイスブックでPRしている。

     ◇涼宮ハルヒの憂鬱

     西宮市ゆかりの作家・谷川流さんのライトノベルが原作のテレビアニメ。特殊な能力を持った高校生らが、時空を超えた不思議な出来事に遭遇するストーリーで、海外でも人気だ。この中で同市の風景が描かれ、原作にも、市内の地名を思わせる表記が出てくる。2010年には同じシリーズを原作にした劇場版「涼宮ハルヒの消失」が公開された。

    2017年01月04日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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