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    アマ無線 透析医療ネット

    • 無線機を手にする沼崎看護師(左)と訓練の様子を見守る後藤院長(8月28日、宮古市で)
      無線機を手にする沼崎看護師(左)と訓練の様子を見守る後藤院長(8月28日、宮古市で)

     宮古市大通にある後藤泌尿器科皮膚科医院の事務室。8月下旬、看護師の沼崎康広さん(49)が無線機から流れてくる呼び掛けに、耳を澄ませていた。

     「岩手透析ネット各局。お聞きでしたら、声をかけてください」。発信元は約100キロ離れた盛岡市の医療機関。沼崎さんは「こちらは少し、雑音混じりです」と答えた。震災以降、非常時の連絡手段として週4回、無線訓練を行っている。

     後藤康文院長(77)は「『普通のことを普通にやる』と考えて防災対策をとってきたが、通信手段がなくなったのは想定外だった」と振り返る。

     ◇途絶えた通信 

     後藤院長は2006年、防災仕様の医院を建てた。震度7の揺れ、高さ20メートルの津波にも耐えられる4階建て。災害時でも透析治療を続けられるように、自家発電機、重油タンク、給水タンクも屋上に備えた。

     震災当日、立っていられないほど強く揺れた。一帯は停電したが、発電機が数分後に自動で起動し、診療を再開することができた。

     大津波警報が出ていることはテレビで知った。患者や職員、近隣住民200人が3階以上に避難した。津波に襲われた医院は、高さ2メートルまで浸水し、診療室やカルテはヘドロまみれ。1階にあった給水タンクも使えなくなった。

     透析治療には1回につき約250リットルの水が必要になる。屋上の給水タンクの水は20トンで、入院患者14人を含む人たちの1日分しかなかった。行政機関に連絡して水の補給を要請しようにも、電線が寸断され、インターネットや電話は使えなかった。後藤院長は翌日早朝、ヘドロをかき分けながら市役所に出向いた。「透析患者は週3日は透析しないと老廃物が排出できずに、いずれは死に至る。水を回してほしい」

     水は供給されるようになったが、電話やインターネット回線などが回復したのは約1か月後。通院していた患者の中には、水を確保できたことを知らず、透析に来ない人もいた。震災2日後の夜には近所で火事が起きたが、消防に通報できず、消火できないまま入院患者らを近くの小学校に避難させざるを得なかった。後藤院長は「通信手段がないことで、完全に孤立してしまった」と話す。

     ◇200人分食料備蓄 

     後藤院長は「被災したから治療できませんという言い訳は、医療機関としてはできない」と話す。震災後、医院では200人の食料2日分の備蓄も始めた。

     非常時の連絡手段として、県などは県内11か所の災害拠点病院に、複数の衛星携帯電話を置いている。ただ、開業医にまで配備するのは「費用面から現実的ではない」(県医療政策室)という。

     後藤院長は震災後、県内45か所のすべての透析医療機関にアマチュア無線を導入するよう働きかけた。日本腎臓財団の助成金で無線機が購入され、2013年11月に配備を完了。「岩手透析ネット」として県外からも注目されている。災害時は参加機関が連携し、患者の転院、治療に必要な人員の確保などを行う。

     岩手医大医学部災害医学講座の真瀬智彦教授は「安価で遠くにも届くアマチュア無線は、連絡手段として有用」と評価したうえで、「実際の患者などの移動は、消防などの行政機関に頼らざるを得ない。透析ネットだけではなく、県、医師会などと連携がとれる態勢づくりも必要だ」と指摘している。(阿部明霞)

    2014年09月05日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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