文字サイズ

    見守る 心のセコンド

    • 大井さん(左)は相談に訪れた男子学生とリングに上がり、優しい目を注いだ(宇治市で)
      大井さん(左)は相談に訪れた男子学生とリングに上がり、優しい目を注いだ(宇治市で)

     ◇不登校・引きこもり支援 NPO法人理事長 大井一毅さん 55

     経営するボクシングジムのリング脇で、大学2年の男子学生(19)と椅子に腰掛け、向き合った。5月下旬、平日の昼下がり。「少し肥えたんちゃう?」

     男子学生がジムに来たのは、正月以来。体重は7キロ増えた。心の不調で大学に通えず、ほぼ自宅にこもっている。

     「しんどい時は絶対、無理したらあかん。今は冬眠しとき」。包み込むような助言に、男子学生は次第に表情を緩め、いじめに遭った幼少期の体験を告白した。

     ジムは、近鉄小倉駅(宇治市)に近い商業ビルの3階にある。リングサイドの壁に、「NPO法人かがやきサポート」のプレート。不登校、引きこもりの生徒や家族を支えようと、2011年に設立した。「やっぱり、いじめられとったん? 実は、僕の娘もな……」。活動の原点を語り始めた。

     15年前。娘は中学に入ると、身体的特徴を周囲にののしられ、学校に行けなくなった。担任教諭からは「いじめられる方にも責任がある」と突き放され、同居する両親は「首に縄を付けてでも行かせろ」といらだった。だが、娘が自傷行為に走ることを心配した。「怠け者になっとけ」。3年間、そっと見守った。

     高校入学後、音楽好きの娘は吹奏楽部で輝きを取り戻し、部長を務めた。芸術大を卒業して中学の講師になった。

     娘と同じような子どもに救いの手を差し伸べたいと、04年、心理カウンセラーの民間資格を取った。

     初めは娘の友人の相談に乗り、1人また1人と学校に戻ると、助けを求める親子が増えていった。これまでに100組は優に超える。個人のボランティアに過ぎなかった当時も今も、寄り添う姿勢は変わらない。

     人目を気にしなくて済むよう、ジムに利用者がいない時間帯を知らせ、「遊びにおいで」と誘う。「給食の時間だけでもいいから」と車で学校に送り、そのまま待つ。精神科の診察券を預かって、朝一番に受け付けに並んだり、親族宅に身を寄せる引きこもりの子どもが気掛かりで、福岡や福井にまで足を運んだりもする。

     ボクシングは、外に出るきっかけ作りの一つ。「弱った心身が回復し、パンチを浴びせることで自信にもつながる」。そう信じている。

     「久しぶりにグローブ、着けてみる?」。男子学生に促し、繰り出されるパンチをミットで受け止める。ワンツー、ワンツー……。「重いな」。褒めることを忘れない。

     そろってリングを下りた。「つまずいたら、また相談に来て。とことん付き合うから。電話でもメールでもくれたら、いつでも行ったるし」。男子学生が「すごく楽になりました」と礼を言う。汗をかいた顔に、生気が戻っていた。(布施勇如)

     <おおい・かずき> 高校卒業後、滋賀県内と宇治市内でフィットネスジムや喫茶・洋菓子店を経営。趣味でボクシングを続け、現在はK&Tボクシングジム(宇治市小倉町)代表。NPO法人輝サポートは、火曜を除く午前10時~午後9時に相談を受け付けている。問い合わせは同法人(0774・24・8170)。

    2016年06月12日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP

    理想の新築一戸建て