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    農業の未来 耕したい

     ◇有機野菜販売会社 「坂ノ途中」社長 小野邦彦さん33
     南区のオフィスを兼ねた出荷作業所に、ニンジンや玉ネギ、小松菜が運び込まれてきた。農薬、化学肥料を使わず育てられた、作り手のこだわりが込められた野菜たち。「どこの農家さん?」「おいしそうだなぁ」とスタッフとの会話が弾む。

    • 出荷前の野菜を手に取る小野さん(左)。作り手の思いを感じ取り、自然と笑みがこぼれる(南区で)
      出荷前の野菜を手に取る小野さん(左)。作り手の思いを感じ取り、自然と笑みがこぼれる(南区で)

     関西を中心に、信頼を置く取引農家120軒から野菜を仕入れ、家庭や飲食・小売店に販売する。企業理念は明快かつ壮大だ。「100年先も続く、農業を」――。農薬や化学肥料に大きく依存すれば楽に育てられるが、農地は少しずつ痩せて、やがて荒廃する。そうしてできた農作物の消費は、将来世代への負担と捉え、「未来からの前借り、やめましょう」と警鐘を鳴らす。

     家庭向け定期宅配の契約数は1000件に達した。亀岡市の自社農場には、自然に即した野菜づくりを目指す人たちが、経験を積もうと訪れる。

     起業から8年。共感が、少しずつ広がり始めた。

     社会に出るのが嫌で進学した京都大では、授業に身が入らず、当初は「時間をドブに捨てる」日々を過ごした。唯一、自分の意思でやりたかったのがバックパッカー。4年生で休学して半年間、中国からトルコまでを横断する旅に出た。

     立ち寄ったチベットで目にしたのは、遊牧民の暮らし。ヤクのフンから燃料を作り、搾った乳を温める。厳しい自然環境で、限られた資源を循環させる営みを「美しい」と感じた。

     人間と自然。双方の力で育む農業こそ、「人と環境の結び目」と考えた。

     大学を卒業後、東京の外資系金融機関に2年勤めて退職。京都に戻り、農家を訪ねるうち、高品質でも収穫量が少なかったり、形や大きさが違ったりすると市場やスーパーで扱ってもらえない現状に疑問を持った。

     2009年7月、友人2人とともに「坂ノ途中」を設立。社名には、農家とともに坂道を上る意思を込めた。脱サラして就農後、まもなく取引を始めた左京区の山本克也さん(42)は「量が作れないと販売先を見つけるのは難しい。そんな新規就農者に寄り添ってくれる存在」と話す。

     とはいえ、農業は天候の影響を受けるもの。驚くほどおいしく仕上がる時も、雨続きで水っぽくなることもある。「そんなブレを買い手に理解してもらうのは、なかなか難しい」と思う。一定の手応えがある反面、壁も感じる。「だから、もっと会社を成長させたい」

     今年1月、有機農家の情報を検索できるウェブサイト「farmO(ファーモ)」を作った。全国の作り手と買い手を結びつける新たな試みだ。消費者の理解を促そうと、農業関連映画の上映会や試食会の開催にも力を注ぐ。「いつまでも、躍動感のある会社でありたい」。思い描く未来の実現に向け、そう誓う。(升田祥太朗)





     おの・くにひこ 1983年、奈良県生まれ。京都大総合人間学部卒業。2009年に「坂ノ途中」を設立。16年、社会的課題の解決に取り組む京都市の「これからの1000年を紡ぐ企業認定」第1回認定企業に選ばれた。社員は約40人。仕入れた野菜は、ネットのほかに南区の直営店「坂ノ途中soil」(070・5347・0831)でも販売している。

    2017年07月10日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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