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    <1>絵の道 背を見て学ぶ

    • 「間之町の家」の前に並ぶ上村松園、淳之、松篁(左から、1937、38年頃)。美の系譜が受け継がれてきた=松伯美術館提供
      「間之町の家」の前に並ぶ上村松園、淳之、松篁(左から、1937、38年頃)。美の系譜が受け継がれてきた=松伯美術館提供

     生まれ育った中京区間之町あいのまち通竹屋町の自宅を、淳之あつしは「間之町の家」と呼ぶ。

     中庭を挟んで向かい合う別棟に、松園しょうえん松篁しょうこうの画室があった。

     松園は家人が仕事場に入るのを許さず、一日の大半をそこで過ごした。ただ、夏場に限って「上は暑いわ」と、階下で制作に取り組んだ。淳之にとって、祖母の仕事ぶりを目の当たりにできる特別な季節だった。

     「緊張感が漂うほど集中してはった」と淳之は回顧する。松園が描写に時間をかけたのは女性の髪、とりわけ生え際だった。筆に水を含み、湿り具合を唇で確かめ、塗ってはぼかし、を繰り返す。まげを結ぶ髪飾り「かのこ」の色彩、質感も丹念に描いた。

     この、ひたすら根気強い業が清澄な美人画を生み出した。「なんと辛気くさい仕事やろ」。小学生の淳之には、わからなかった。

     庭に堀池があって蚊にさされた。たたく音がすると緊張の糸が切れる。こらえきれなくなると廊下の端まですり足で移り、「ようやくたたいたもんや」。

     今、改めて作品の細部を見る。髪もかのこも、「細やかに大切に表してはる」のがよく分かる。

     祖母からも父からも、何かを教えられたことはなかった。歌舞伎のように「型」を受け継ぐ世界ではない。

     絵の道を極め、画家の心を自得する。「祖母と父の背を見て自然に学んでいた」と思っている。

    2017年05月12日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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