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    <6>信頼の絆結んで挑む

    • 東京パラリンピック出場を目指す井内さん(左)。賀茂川パートナーズのメンバーとともに練習に励む(左京区で)
      東京パラリンピック出場を目指す井内さん(左)。賀茂川パートナーズのメンバーとともに練習に励む(左京区で)

     ◇京都×視覚障害者マラソン

     ◇伴走者と二人三脚

     北山の山並みを望む左京区の賀茂川河川敷。昨年末のよく晴れた朝、視覚障害者と健常者のランナーが軽快に駆け抜けた。

     京都市を拠点とする視覚障害者チーム「賀茂川パートナーズ」。離れないようにロープで作った一つの輪をともに握り、伴走する健常者が「足元にわだちがあります」「あと100メートル!」と情報を伝えてサポートする。メンバーは月2回、川沿いを北上して力を磨く。

     パラリンピックの正式種目「視覚障害者マラソン」は、ランナーと伴走者の連携が大切だ。伴走者には相手の脚運び、腕の振りに呼吸を合わせて走る力が求められる。二人三脚のような一体感、パートナーへの思いやりも欠かせない。

     伏見区の会社員、長谷川智亨さん(35)はこの日、伴走者として初めて参加した。視覚障害者と一緒に練習し、「サポートの必要な人が走る機会が増えれば」と汗をぬぐった。

     駅伝発祥地の京都市では、視覚障害者が走る環境もまた、全国に先駆けて整えられてきた。

     「視覚障害者京都マラソン」が初開催されたのは、1983年。障害者が参加できるロードレースが少なく、「公道で走りたい」という声を受けて、府視覚障害者協会などが始めた。

     コースは左京区の府立大周辺や北山通を走る1、3、10キロで、99年に右京区の西京極陸上競技場周辺に移った。2016年に終了したが、昨年からは別の大会として続く。マラソンを初開催した当時を知る同協会の担当者は「駅伝が盛んなこともあり、大会を開く上で市民の理解を得やすかった」。大会ができたことで、視覚障害者の間に「高いレベルを目指したい」という声が高まった。

     1991年、賀茂川パートナーズの前身となる団体が誕生した。その後、運動不足解消など様々な理由で走りたい人を受け入れ、現在のメンバーは約50人に上る。パラリンピックのロンドン、リオデジャネイロ両大会に出場した和田伸也さん(40)も賀茂川パートナーズの一員だ。

     メンバーの中に、東京パラリンピックを目指す女性がいる。宇治市の井内菜津美さん(28)。2015年から賀茂川パートナーズで練習するうちに少しずつ力を伸ばし、和田さんの勧めでフルマラソンに挑戦した。リオ大会で別の選手の伴走者を務めた立命館大4年、日野未奈子さん(22)と組み、西京極などで走り込む。

     日野さんはリオ大会後、女子長距離の強豪として知られる同大学陸上部を退部し、伴走者の道を究める覚悟を決めた。「自分一人の心と体ではない。伴走者として頼れる存在になりたい」と日野さんは力を込める。

     東京大会のマラソンが行われる予定の20年9月6日は、井内さんの31歳の誕生日。「その日を東京のスタートラインで迎えられたら」。井内さんは夢を紡ぐ。

    (川崎陽子)

     ◆視覚障害者マラソン

     パラリンピックのマラソンは健常者と同じ42・195キロで、障害の内容や程度、運動機能などによってクラス分けされている。視覚障害の部門は、「弱視」「全盲」といった視力の程度が異なる3クラスで実施。全盲クラスの選手は、長さ1メートル以下のロープで伴走者と手または腕をつないだ状態で走る。伴走者が先にゴールすると失格となる。

     ◇仲間増やしたい

     ◇賀茂川パートナーズ会長 斉藤浩史さん 51

    • 賀茂川パートナーズの活動や今後の課題を語る斉藤さん(上京区で)
      賀茂川パートナーズの活動や今後の課題を語る斉藤さん(上京区で)

     「目指しているのは競技者の団体ではなく、あくまで障害者と健常者が楽しく走れる草ランニングチーム」という。自身も視覚に障害があり、「一人ではジョギングさえできない視覚障害者にとって、足を運べば走る仲間がいる、そんな場でありたい」と力を込める。

     視覚障害者には月2回の練習日までに参加の意思を知らせてもらい、伴走者を確保する仕組みだ。「伴走できる人が少なく、1人で障害者数人をサポートした時期や、活動が自然消滅しかけたこともあった。その時々のメンバーが、『このままではいかん』と立ち上がってきた」と話す。

     もっと走る時間を増やしたいと願う視覚障害者は多いが、伴走者がいなければ実現できない。「チームの存在を広く知ってもらい、伴走者を増やすことが課題。健常者のサポートを受けながら走れる場が、さらに増えてほしい」と強調する。

     視覚障害者マラソンは個人競技ではなく、まさに二人三脚で取り組むスポーツだ。「苦しい時、障害者は支えてくれる伴走者を思うと踏ん張りがきくが、伴走者もランナーが努力する姿に励まされ、刺激を受けることが多い」という。

     「伴走者には、それほど走力は必要ない。『一緒に走ってみよう』という気持ちさえあれば、誰でもできる。難しく考えず、たくさんの人に挑戦してもらいたい」と呼びかけている。

    2018年01月07日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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