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    古里戻れぬ悔しさ歌に 被災者自作曲で語り部

    • 全国各地から集まった学生を前に歌を披露する森さん(9日、山元町で)
      全国各地から集まった学生を前に歌を披露する森さん(9日、山元町で)

     東日本大震災の被災者の思いを多くの人に伝えたいと、亘理町の仮設住宅で暮らす森加奈恵さん(50)が自作の曲で語り部をしている。同居の家族3人は無事だったが、海から約200メートルの同町荒浜地区にあった自宅は津波に流された。古里に戻れなくなった悔しさを曲に込め、人々の心に震災の記憶を刻む。

     ――あの日突然 僕らの暮らしが消えた

     ――もう一度 ここでって思うのは 我が儘わままなのでしょう

     9日夜、山元町の普門寺で、やさしくせつない曲調に乗せた森さんの歌声が響いた。ボランティアの学生約160人が静かに耳を傾けた。

     初作品の「思い出の跡」を作ったのは震災翌年の夏。自宅周辺が災害危険区域となり、住み慣れた土地に帰れないことが決まったのを知った日だ。いつか荒浜に戻れると信じていただけに、プレハブ仮設の狭い風呂にこもり、悔しくて泣いた。幼い頃からギターが趣味だった。震災後の思いを走り書きした詞にメロディーをつけた。

     2012年秋、その曲が、友人を介して地元の臨時災害ラジオ局に知られた。冬からは町内のイベントやボランティアの学生の前で曲を披露するようになった。亘理町内で営む飲食店の仕事の合間を縫ってこれまでに約20回、人前で歌ってきた。

     活動を続けるべきか、迷ったこともある。歌詞を聞いて震災当時の恐怖を思い出し、体調を崩した女性がいた。同じ「被災者」でも事情は様々だった。不快だという人もいた。それでも、「歌ってくれてありがとう」という声に背中を押される。

     今月4、5日には、広島県で開かれた復興支援のライブに急きょ出演した。震災の風化を肌で感じたからだ。「共感してもらえなくてもいい。歌をきっかけに、災害に備える気持ちを持ってくれたら」。森さんは語る。

     家があるのに戻れない福島の人たちの悔しさを歌った「今も…」、毎年訪れてくれるボランティアに感謝を込めた「おかえり!」……。作った5曲すべてに込めたのは「震災を忘れないで」という願い。「いつかミニアルバムにして、多くの人に届けたい」。ささやかな夢だ。

    2017年03月21日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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