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    最期の迎え方 問いかけ

    • がん医療の勉強会で映画について話す溝渕さん。「死を考えることで、より良い生き方が見える」(奈良市で)
      がん医療の勉強会で映画について話す溝渕さん。「死を考えることで、より良い生き方が見える」(奈良市で)

     ◇生駒市の映画監督 溝渕 雅幸さん 55

     無精ひげに無造作ヘア、ファッションには無頓着。しかし、徹底して現場に寄り添い、取材を積み上げる制作手法は、極めて綿密だ。

     自宅や地域で最期を迎える人たちを支える医師に密着した新作ドキュメンタリー映画「四万十しまんと~いのちの仕舞しまい~」(1時間48分)の上映が6月23日、イオンシネマ高の原(京都府木津川市)で始まる。「『死』を考えることが、より良き『生』につながる」と、思いを込める。

              ◎

     命を全て使い切ったんでしょうね。

     息を引き取った高齢の女性を囲む家族に、主人公の医師が語りかけた。医師は、高知県西部の四万十市の診療所を拠点に在宅医療に取り組む小笠原望さん(66)。四万十川沿いを車で走って往診に向かう姿や、四季の美景も捉えた。

     2014年1月に初めて会い、「医者である前に、人間味のある人」と直感し、構想が浮かんだ。約10か月間、毎月10日ほど現地入りして、診療に同行した。患者や家族と人間関係を築くのは、決して容易ではなかった。「もう撮らないで」と怒り出す人もいた。軌道修正もしながら、まとめ上げた。

     四万十川流域には「いい仕舞い」という言葉がある。食べられて、痛くなくて、みんなと話ができて、なじみの人にみとられて、最期を迎える意味だという。

     いい仕舞いを実践しようと、小笠原さんは患者とじっくり話をする。1時間以上かけることもある。

     延命のための点滴は、しないか、できるだけ少なくする。呼吸がゆっくりになってくると、家族に「今は苦しさを感じていませんよ」と語りかける。臨終を告げ、「いいお顔ですね。自然に最期まで生き抜いたから、こんな顔になるのです」と伝えるという。

     「小笠原さんは今の医療界では少数派だが、それは社会にとって望ましいことだろうか。病気を治すのはもちろん大事だが、治療が難しい時には、どうしたらいいのか」。老医師の姿を通して、問題を提起したつもりだ。

              ◎

     大学を中退し、20歳代の約4年間、大阪の夕刊紙で記者として働いた。大阪府警を担当し、多くの人の死を記事にしたはずなのに、生死を扱っている実感はあまりなかった。放送ディレクターに転身し、CMや教育映画を作った。放送局の下請けでドキュメンタリー番組も制作した。

     6400人以上が亡くなった阪神大震災から10年となるのに合わせ、語り部のインタビューを撮ったことが、転機となった。大震災が起きた1995年に全国で亡くなった人は、約92万2000人もいたことを知った。理不尽きわまる未曽有の大災害による死者の数が、1%にも満たない。はっとした。

     「普通の死が、隠れているのではないか」

     真相に近づきたいと、終末期の取材を始めた。患者に誠実に向き合う医師や宗教関係者らとの輪が次第に広がった。今作も、日本のホスピスをリードしてきた医師が、推薦の言葉を書いてくれた。

              ◎

     いつか終わる旅祈ろうか笑おうか

     映画のクライマックスには、小笠原さんの川柳が映し出される。夕日と、四万十川に架かる赤鉄橋。小笠原さんが語る。

     一日一日がぎりぎりの命。一日が終わる。一年を重ねる。四万十川は悠々と蛇行を繰り返して海に注ぎます。そんなに嘆かなくてもいい。急がなくてもいい。

     撮影中、自身も死について考える事態に直面した。昨年5月、義父を病院でみとった。入院したきっかけは命に関わるものではなかったが、誤嚥ごえんから肺炎を発症し、約3か月で亡くなったという。

     終末期を長く取材していながら、よい「みとり」ができなかったことを悔いた。「自宅で穏やかに最期を迎えることは簡単ではない。だからこそ、この映画が、みとりを考えるきっかけになれば」と願う。

     ◇京都・木津川で6月トークショー

     イオンシネマ高の原の上映時間はまだ決まっていないが、6月23日に溝渕さんとホスピスに詳しい四宮敏章・県立医大病院緩和ケアセンター長が、24日には溝渕さんと小笠原さんがトークショーをする予定。問い合わせはイオンシネマ高の原(0774・71・9545)。

     <みぞぶち・まさゆき>

     1962年、福岡県生まれ。大阪市、生駒市で育つ。滋賀県近江八幡市のホスピスを取材したドキュメンタリー「いのちがいちばん輝く日」が初の劇場用映画となり、「四万十」は劇場用2作目。3作目もホスピスを舞台にした作品を検討中。

     ◇<取材後記>多様な事情くむ必要

     戦後すぐは自宅で亡くなる人が全体の約8割を占めていたという。今は病院での死が約8割となり、完全に逆転した。経済的に豊かになり、医療が発展したからだとも言えるが、果たしてそれだけだろうか。

     国は医療費削減に向け、在宅医療の推進を叫ぶ。しかし、溝渕さんは違和感を感じているという。家に帰すだけでは、十分な医療を受けられない人が出てくる恐れがある。医療や介護は、費用対効果だけでは語れない。最期を迎える場所は、病院なのか、自宅か、介護施設がいいのか。人によって事情は千差万別だ。一人一人に寄り添うこと。それが、医療に求められていることだと思う。(辻田秀樹)

    2018年05月28日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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