文字サイズ

    <1>「ご主人さまぁ~」お出迎え

    ◇電器街、オタロードに様変わり

    • 客を楽しませるため、注文の品に応じて様々なパフォーマンスをするメイド衣装の店員。お客と大好きなアニメの話で盛り上がることも多い
      客を楽しませるため、注文の品に応じて様々なパフォーマンスをするメイド衣装の店員。お客と大好きなアニメの話で盛り上がることも多い

     初めての人は、その鼻にかかった声を聞いて、腰を抜かすかもしれない。

     「お帰りなさいませぇ。ご主人さまぁ~」

     フリルの付いたメイド服姿の女性が出迎える。大阪・日本橋のメイド喫茶「CCO(こっ)ちゃ」(浪速区)。昨年10月にオープンから丸9年を迎え、この辺りのメイド喫茶で一番の老舗になる。

     アイスコーヒーは500円。オムライスは1200円……。値段は高めだが、ちょっと風変わりなサービスが受けられる。

     「混ぜ混ぜ混ぜ混ぜ~。おいしく召し上がれますよ~に」。メイドが飲み物をかき回し、お決まりのおまじないをかけてくれる。「萌(も)え萌えパワー注入よ!」。両手で拳銃を構えるポーズを取り、「魔法」をかけるパフォーマンスもある。出てきたオムライスには、ケチャップでネコの絵を描いてもらえた。

     初期の頃は「かわいい」という意味で使われる「萌え」の感覚を味わおうと、男性アニメファンが集まった。それが今、一瞬で客を異空間に引き込む娯楽性が受け、女性やカップル、外国人観光客も訪れる。

     店にいたスペイン人の男性観光客(34)が絶賛していた。

     「とってもキュート」

     長らく電器街で知られた日本橋は姿を変えた。店頭に冷蔵庫や洗濯機が並ぶ風景は影を潜め、アニメ関連のフィギュアなどを扱う専門店、メイド喫茶に代表される飲食店が目立つ。ミナミの外れにあり、電器街の背骨となるメーンストリートの堺筋から西に入った通りは、趣味の世界に浸る「オタク」の男性らが行き交い、いつしか「オタロード」と呼ばれるようになった。アニメの世界から飛び出したような「美少女キャラ」の女性店員が客引きをする。

     「何やねん、年中、仮装大会やってるみたいやないか!」

     一帯の店が加盟する日本橋筋西通商店会の会長、木田悦次(74)はこの通りで30年、大衆食堂を営んできた。様変わりした街を、苦々しい思いで見つめていた。

     木田の脳裏には、電器街がピークだった1980年代の風景が焼き付いていた。買ったばかりの家電の段ボール箱を大事そうに抱え、満面の笑みで食堂にやってくる家族連れの姿だ。

     それが今では、通りから家族連れが消え、ネコの耳を頭につけた女性が男性に声をかけている。ぼったくりまがいの店もある、と聞いた。

     「このままではいかん」

     木田ら住民は一昨年、一帯で客引きを禁じる条例の制定を府議に要望。さらに周辺の店主らにはみ出し陳列の禁止を呼びかけた。ごみ拾いも始めた。

     「もう一度、家族が楽しめる街にしたい」。その一心だったが、活動の中で意外なことに気付いた。一緒に取り組むメンバーにメイド喫茶の経営者の姿があった。彼らはこの街の生まれでも住人でもなかったが、呼び込みを見ると「迷惑に思う人もいますから……」と、声かけを控えるよう頭を下げていた。

     「なんや、お客さんのために一生懸命なんは、わしらと一緒やないか」

     木田はそれ以来、新しく街に来た若手経営者に期待してみようと思い始めた。センスに付いていけないことはあるが、お客さんに気持ちよく来てもらおうと願う気持ちは同じだった。

     「それに街から人が消えるより、活気ある方が、ええ」(敬称略)

    2014年02月18日 23時39分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP

    理想の新築一戸建て