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    <4>おもろい街 見つめて11年

     ◇盛者必衰 つぶさに発信

    • 「ぽんタブ」(手前)を発行する楠瀬航(中央)。ぽんタブは周辺の約90店舗に置かれている
      「ぽんタブ」(手前)を発行する楠瀬航(中央)。ぽんタブは周辺の約90店舗に置かれている

     新旧の店が入り乱れ、しのぎを削る大阪・日本橋。その今を発信するフリーペーパーがある。日本橋で発行されるタブロイド紙だからその名も「ぽんタブ」。1月に出た最新号には、こんな見出しが躍った。

     『店舗数は現状維持』

     記事は、2013年の街全体の店舗数が、前年と変わらなかったことを伝えていた。

     「でもこれ数字のマジックなんですよね。街のボリュームは確実に小さくなってますよ」

     「ぽんタブ」の発行責任者で、商業コンサルタント事務所「デシリットル・ファクトリー」(中央区)を経営する楠瀬航(わたる)(42)が言う。この街の移ろいを見て11年目。「日本橋の定点観測人」と呼ばれている。

     楠瀬は「日本橋の動きには基本パターンがある」という。

     大型店が抜け、その跡に小さな店が入るケースだ。例えば5階建ての元電器店。その跡に1~3階にゲームセンター、4、5階にカラオケ店が入ると、店舗数は1から2になる。メーンストリートの堺筋でさえ、空き店舗やマンションが目立っているのに、全体の数に変化がないのは、そんな事情があった。

     変化の兆しは、街の主流が家電からパソコンに移る頃。パソコン愛好家と層が重なるアニメファンを当て込み、漫画やフィギュアを扱う小さな店が増え出した。今や街の顔となり、国を挙げて「クールジャパン」ともてはやされるオタク文化の進出だ。だが、楠瀬はオタク系店舗にも、シビアな目を向ける。

     「経営者が楽観的に考えていると、衰退した家電と同じ道をたどるかもしれない。欲しいものは何でもインターネットで買える時代。物販の限界なんです」

     楠瀬は高槻市生まれ。31歳で商業コンサルタント会社を脱サラし、知人に頼まれ、電器街を案内するホームページの作成を任された。電器店の撤退が続いていた頃。何のノウハウもないまま始めたエリアマップづくりでは、とぼとぼと路地を歩いて店じまいや、開店の動きを地図に落とし込んだ。

     「貧乏くじを引いたと思いましたよ。この街に特段の思い入れもなかったんで」

     ところが、調査結果をインターネットで流すと、びっくりするほど反響があった。「次はあそこが閉店や」「あの会社の従業員に解雇通知が出た」

     せめぎ合いを続ける商売人が、この街の行く末を興味深く見つめていた。「期待されている」。重みを感じた楠瀬は、「間違ったら大変や。確実な情報だけを流そう」と、街を歩く地道な作業を続けた。

     「誰かが、このおもろい街の記録を残す仕事をしないかん」

     今は、そんな使命感に背中を押される自分を感じている。

     楠瀬に尋ねた。

     ――日本橋がこれからも輝き続ける道はありますか。

     即座に答えが返ってきた。

     「目利きの世界で勝負することです。大型店に負けません」

     独特の言い回しで続ける。

     「例えばパソコンの部品は肉や生鮮食品と同じですよ。色々なものが次々開発され、前日に新しかったものが、今日はもう古くなっているんですから」

     毎日、大量の製品を扱っていると難しいが、守備範囲が狭く、深く長く特定分野にかかわるスタッフがいる店は強いという。

     「巨大資本に負けない『小商(こあきな)い』の強みですよ。客のかゆいところに手が届きます」

     確かに長く生き残る店にはスペシャリストがいた。オーディオ専門店ではベテラン店員が「低音にこだわるお客さんなら、こっちの品ですよ」と先回りして、客を納得させていた。

     外国人を驚かせるキュートなメイド、中年男を奮い立たせる地下アイドルもいる日本橋。そんな役者らが力を合わせると、すごいことができそうな気がする。そのパワーが伝わる年1回のイベントがある。(敬称略、上田友也)

    2014年02月22日 23時36分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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