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    <2>清酒文化 欧州に根付け

    • 生家の酒蔵でタンクに手を触れる橋本さん。「幼い頃は遊んでは叱られて。でも、子ども心にも『自分も酒を造るんだ』と信じてました」(高槻市で)
      生家の酒蔵でタンクに手を触れる橋本さん。「幼い頃は遊んでは叱られて。でも、子ども心にも『自分も酒を造るんだ』と信じてました」(高槻市で)

     ◇技術者育成 イギリスに酒蔵建設

     ◇「堂島麦酒醸造所」社長 橋本良英さん 66

     ロンドンから北へ約100キロ。草原や農地の広がるケンブリッジシャー州フォーダムに今夏、清酒の酒蔵が完成する。手がけるのは、橋本良英さん(66)(大阪市阿倍野区)が営む「堂島麦酒醸造所」。高槻市の造り酒屋で育った橋本さんが、海外に打って出ながら道半ばで帰国した亡き父の思いをくみ、胸に抱き続けたプロジェクトだ。SAKEの魅力を大阪から世界にと、夢を描く。

     昨年10月28日、フォーダムの田園地帯に祝詞を上げる声が響いた。「DOJIMA SAKE BREWERY」の地鎮祭。参列したイギリスの官僚や地元の住民たちが、日本から来た神職に促され、こうべを垂れた。

     「いよいよやな」。橋本さんの胸に熱いものがこみ上げた。35ヘクタールの敷地に清酒の醸造所や和食レストランなどを設ける。酒を造り、売るだけではない。清酒造りの技術者を育てるのが目的だ。この地を選んだのも、名門・ケンブリッジ大に近く、探求心旺盛な若者が多いだろうとの考えがあった。

     夢は大きい。ヨーロッパ一円から集った若者に、日本の杜氏とうじが技を教え、各地で清酒造りにあたってもらう。「日本酒文化をヨーロッパに根付かせたいんですわ」

     ◇

     約200年続く造り酒屋に生まれた。幼い頃はこうじの香り漂う酒蔵が格好の遊び場だった。

     22歳から46歳まで清酒造りに携わり、1996年に独立して全国的なブームとなった地ビールを手がける会社・堂島麦酒醸造所を設立。醸造するプラント開発も行い、国内外に売り歩いた。

     事業は順調だったが、「また清酒を造りたい」との思いはくすぶり続けた。そんな時、思い出したのが、独立の5年前に79歳で亡くなった父、栄作さんの姿だった。

     ◇

     父は戦前、中国・青島に進出し、清酒を造った。軍人や役人ら多くの日本人がいた時代。栄作さんの清酒は売れた。しかし、日本を取り巻く戦況は日に日に悪化。敗戦後、中国の拠点を手放し、帰国した。

     高槻の酒蔵を守っていたため、酒造りを続けることができた。ただ、晩年になって当時の思い出を口にする栄作さんの顔には、悔しさがにじんで見えた。

     「これは、わしに『日本を出ろ』ということやろう」と橋本さんは感じた。自社で清酒を造れば、実家の酒造会社と競合しかねない。「ならば、海外でやるしかない」という思いもあった。

     プラントの売り込みで外国に渡る度、清酒市場を調べて回った。すると、米国やアジアは他の会社が進出していたが、ヨーロッパ、特にイギリスでは「手つかず」と映った。イギリスは洋酒の本場にして、清酒の認知度は高くない。他社が二の足を踏む理由も承知のうえで、「どうせやるなら、最初がええ」と意を決した。

     ◇

     異国の地での清酒造りには多くのハードルが横たわる。清酒造りでは水に含まれるマグネシウムなどの含有量が味わいを左右するが、現地の水は日本に比べて多く、酒造りに適さないという。また、肝心の酒米も栽培されていない。

     含有量を減らす装置を用い、酒米は日本や米国から運ぶことで、一応は解決できる。だが、コストはかかる。また、地元住民への説明会では清酒を「ウォッカの親戚か?」と尋ねる人もいた。現地では清酒をたしなむ人が増えているとはいえ、まだ少数派だ。

     日本の事業も続けながらの試み。それでも橋本さんの表情は明るい。「イギリス人らと一緒に造ることで、地元で受け入れられる酒も生まれるはず。未開の市場だからこそ、チャンスもやりがいもあるんです」。高槻での経験をもとに清酒の伝道師へ。66歳の挑戦が始まる。(沢本浩二)

     ◇ウイスキー 深い縁

     大阪とイギリスを結ぶアルコールの縁は深い。大阪の酒造会社にいた竹鶴政孝が、英スコットランドに渡ったのが1918年。ウイスキーの本場から持ち帰ったノウハウを基に、大阪の寿屋(現サントリー)が、島本町の蒸留所で国産ウイスキーの生産に乗り出した。これらの物語は、NHKの連続テレビ小説「マッサン」のモデルともなった。

     大阪に伝わり、大きく花咲かせた国産ウイスキーは輸出も右肩上がりで、財務省によると、2015年の輸出額は約103億円と、5年間で6倍にアップした。

    2017年01月03日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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