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    あん冷凍で遠距離販売 預かった豆で代行製造も

    • 音声ガイドつきパソコンで仕事をする石川社長
      音声ガイドつきパソコンで仕事をする石川社長
    • イチゴあんやユズあんなどの加工あんも製造する
      イチゴあんやユズあんなどの加工あんも製造する
    • 新工場は空調設備が整い、清潔で結露もない
      新工場は空調設備が整い、清潔で結露もない

    石川 孝一社長 67 トチアン

     コンビニで手軽にケーキやシュークリームが買える時代。和菓子店で大福やおはぎを買うことは減りつつある。栃木市で和菓子に使う生あんを製造する「トチアン」は、そんな中でも、取引先を増やし続けている。率いるのは、病気で視力を失った石川孝一社長(67)。ハンデを乗り越え、顧客との信頼関係を築いてきた石川社長の創意工夫と情熱に迫った。(聞き手・都梅真梨子)

     

    ◆板状にパック

     ――15年ほど前、他社に先駆けて、冷凍生あんの販売を始めた。

     「砂糖を加える前の生あんは、半日で傷んでしまいます。そのため、戦前は発注があれば夜中に作り始め、朝に自転車で運んでいたと聞きます。戦後、車で運べるようになっても、せいぜい10~20キロ先まで。採算が合わず、製あん所はどんどん減っていきました。そうすると、自分であんを作れない和菓子店は廃業せざるを得ない。どうにかならないかと考えていた時に出会ったのが、低温で荷物を運ぶサービスです。冷凍したまま運べるようになる。これは使うしかないと思いました」

     「できたての生あんはとても熱い。効率よく冷凍するにはどうしたらいいのか、和菓子店が使いやすいパック詰めの仕様はどのようなものか、試行錯誤しました。生あんは、煮豆の皮を取り、水でなめらかにしてからプレス機で水分をぬいたものです。この水を氷にし、一気に温度を下げました。さらに、解凍時間を短縮するため、厚さ5センチくらいの薄い板状にパック詰めするようにしました。遠くまで運べるようになったことで取引先が京都や九州まで広がり、現在の売り上げは県外が95%を占めています」

     ――豆の加工を請け負うサービスを行っている。

     「有名和菓子店ほどあんにこだわっています。ただ、自家製あんを自社工場で作ろうと思うと、機械の維持費や人件費がばかになりません。そこで思いついたのが、原料の豆を預かり、あんの製造を代行するサービスです。そうすることで、和菓子メーカーは自社工場を持たなくても、独自のあんを使うことができます」

    ◆目見えずとも 

     ――目の病気を抱えている。

     「盲目ということで信用されないなど、悔しい思いもたくさんしました。でも、営業先では『目が見えない』と最初に説明します。熱意と技術を一生懸命伝えた上でうまくいかなかったなら、相性が悪かったと諦めればいい。相手の顔色は気になりますけどね」

     「目が見えないぶん、私をフォローしようと社員が自主的に考えて行動してくれることがありがたいですね。私は最終的な判断をし、何かトラブルがあったときに責任をとればいい。入社面接も現場の社員にしてもらっています。『一緒に働きたいかどうか』が一番大切な基準ですから」

     「相棒は音声ガイド付きのパソコンです。インターネットやメールの文面、新聞、雑誌を音声で読み上げてくれるソフトが入っているので、あらゆる情報を収集できます。電話を受けるときは受話器に録音機をかざし、メモがわりにしています」

     ――今後の事業展開は。

     「社員には、『いいものを作っていれば品物が営業してくれる』と話しています。ただ、生あんづくりは単純作業で、付加価値を出しにくい。そこで、加糖あんに工夫をこらしています。砂糖ではなく、血糖値の上下がゆるやかになるテンサイ糖を入れる試みもしています」

    ◆本社に売店を 

     ――一般の人が製品に直接触れる機会は少ない。

     「実際に食べてもらえる商品がないと、新しい製品の開発や事業のPRもしにくい。そこで、今年度中に本社敷地内に売店を建てる計画です。うちの生あんを使った和菓子や、軽食を出せるようにすることを考えています。また、高齢で工場勤務が大変になる社員もいますから、そこで新たなやりがいをみつけてくれればと思っています」

     

    ◎和菓子離れ背景に行事の変化 

     総務省統計局によると、おはぎやどら焼き、桜餅など和生菓子の年間購入額は、年齢層が上がるにつれて増える。ただし、ここ10年、ほとんどの年齢層で購入額が1000~2000円減っている。

     シュークリームやタルト、ワッフルなど洋生菓子の年間購入額は、40~49歳をピークに、年齢層が上がるにつれて減少する。近年は、29歳までの若者が40~49歳に迫る勢いで伸びている。さらに、ここ10年で、どの年齢層も購入額が1500~3500円増えている。

     「和菓子離れ」の背景には、年中行事や祝い事の形態が変化したことがある。かつては桃の節句に桜餅、端午の節句に柏餅が用意されたが、現在は洋生菓子が出されたり、クリスマスなど洋生菓子が好まれる行事が増えたりしている。

     

     ◎会社概要 石川社長の祖父が、1920年に生あんの製造会社「栃木製餡所」を栃木市河合町で創業。戦時中に一時休業したが、53年に再開。2004年に栃木市城内町に新工場を建て、本社機能も同所に移した。10年に株式会社化し、社名を「トチアン」に変更。14年6月期の売上高は2億3000万円。従業員15人。

     

     いしかわ・こういち 栃木市出身、栃木商業高校卒。大阪の製あん所で2年間修業した後、20歳で栃木製餡所の社員に。47歳で社長に就いたが、徐々に視界が狭くなる難病にかかり、治療やリハビリのために一時社長を退いたが、55歳で復帰した。ほとんど視力がないが、音声システム入りのパソコンを駆使する。「あるがままに生きる」がモットー。

    2015年05月21日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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