文字サイズ

    タクシーに格差生む

    • 駅前で客待ちをするタクシーの後ろに並ぶ「おでかけ号」(5日午後1時過ぎ、下野市のJR石橋駅前で)=清武悠樹撮影
      駅前で客待ちをするタクシーの後ろに並ぶ「おでかけ号」(5日午後1時過ぎ、下野市のJR石橋駅前で)=清武悠樹撮影

     路線バスとタクシーの中間的な存在として始まったデマンド交通。しかし、現場のタクシー業者からは「客を奪われている」と悲鳴が上がる。運行を担うタクシー会社と、そうでない会社との格差も生まれつつある。既存の交通とは、どう共存していくべきか。

     「1回300円の安さでタクシーと同じことをされたら、とてもデマンド交通には対抗できない」。下野市のタクシー会社「石橋タクシー」の荒川弘幸社長は、デマンドとタクシーが競合している現状を嘆く。

     デマンドが始まってから、売り上げは1割程度減った。市内には6社あるが、運行が1社で行われていることにも疑問を抱いている。

     下野市は2011年11月、市全域を走るデマンド「おでかけ号」を始めた。市内を合併前の旧町ごとに3エリアに分け、特定の場所で乗り継げば市内全域に行くことができる。当初は6社で運行する案もあったが、最終的に宇都宮市に本社がある1社による運行が決まった。他市町で、デマンドの運行経験があることなどが理由だった。

     デマンドの運行では、タクシー会社が自治体から一定額を人件費や車両借り上げ代として受け取る契約を結ぶことが多い。下野市も同様だ。

     景気低迷で出費が絞られている影響もあり、タクシー利用者の増加は見込みにくい。それだけに、デマンドの安定収入は、通常のタクシーの利用が減る可能性があるとしても、魅力だ。ただ、委託されないと、定収入を得られない上に客が流れる「ダブルパンチ」を受ける恐れがある。

     市はデマンドの運行開始と同時に、80歳以上の高齢者に配布していたタクシー券(年間36枚)の配布を取りやめた。初乗り分を市が負担する券で、タクシーの利用促進に果たす役割は大きかった。

     荒川社長は「券があるから使ってくれる人は多かった。デマンド運行後、うち以外の会社も売り上げが減っているはずだ」と明かす。

         ◇

     しかし、おでかけ号が好調なわけではない。むしろ、「目的地に着くのが遅い」などの理由から、利用者数は目標の50%に満たないほどだ。10人乗りのワゴン車で運行しているが、乗車人数は1台3人あるかないか。

     使い勝手をよくしようと、今年4月からは乗り継ぎ料金の200円を無料にしたが、利用数は伸び悩む。荒川社長は「好調ならどうなっていたか。(不調で)助かったという気持ちもあるが、デマンドが評価されていないのは残念だ」と複雑そうに語る。

     荒川社長は、運行している1社とそれ以外の5社にこれ以上の「格差」が生まれないよう「将来的には地元の会社で公平に事業を分担したい」と望み、「知恵を出し合ってよい乗り物にすることにもつながると思う」と話している。

     ◇協会悩みつつ協力 「高齢化社会に貢献」

     県タクシー協会も、デマンド交通の影響や、委託の有無による会社間の格差に頭を悩ませている。

     協会に加盟する98社のうち、デマンドを受託しているのは43社。10月にはさらに6社増える。鉢村敏雄専務理事は「どこの自治体も事前によく調整してくれるが、どうしてもタクシーと競合する。委託を受けられればまだいいが、そうでないときつい」と漏らす。

     デマンドは時間が読みにくいため、「行きはデマンド、帰りは何時になるかわからないからタクシー」という利用者もいる。もともとタクシーに乗る習慣がないデマンド利用者が、帰りにタクシーを使うようになればそれは新規客となる。デマンドの普及がタクシーの顧客開拓につながる側面もある。

     しかし、「往復ともタクシー利用」から「往復ともデマンド利用」に切り替える人の方が圧倒的に多いという。

     デマンドに影響を受けながらも、鉢村専務理事は、拡大に協力する必要性も強調する。「人口減少、高齢化と変わっていく社会に、交通業者として貢献していくのも大事な役割だと思っています。デマンドは、タクシーあっての交通だから」

    • 栃木市役所前では、デマンド「蔵タク」と一般タクシーの乗降所が並ぶ
      栃木市役所前では、デマンド「蔵タク」と一般タクシーの乗降所が並ぶ

     ◇既存交通とすみ分け模索

     利用者の立場になって利便性を追求するか、ほかの交通との協調を優先するか――。自治体が運行するバスや民間交通と、デマンド交通をどう両立させていくか、各地で模索が続いている。

     栃木市には東西を貫く形でJR両毛線、南北に東武日光線が走る。さらに、乗り継げば市内全域に行けるデマンド「蔵タク」と、鉄道の各駅を中心とする市バス「ふれあいバス」もある。デマンドとバスの運行区域も重複しているため、県は既存交通の活用や競合解消、デマンドの運行範囲の再検討を促している。

     ただ、市は「乗り換えは高齢者に不便だし、現状ではデマンドもバスも好評」とし、見直しに慎重な姿勢だ。デマンドは市内のタクシー会社のうち希望する10社で運行している。「デマンドは高齢者向けの福祉的な位置づけ、バスは通勤・通学向けとしてあまり重複はない」とし、現状では運行区域や利用方法を変える考えはないという。

     一方、真岡市では、中心部は主にバス、周辺部はデマンドのみと地域をすみ分けている。デマンドの行き先は100か所の指定場所で、利用は自宅と目的地の往復のみだ。土日祝日は休み。

     市は「運行日や便数を増やしてほしいという希望があるが、そうするとタクシーを圧迫する」として現状に落ち着いている。担当者は「デマンドはすごく大事な施策。ただ、どこまで『官』がやっていいのかは正直迷う。市がほかにやるべき施策はたくさんあるし……」と、迷いをみせる。

    2014年09月18日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    PR
    今週のPICK UP

    理想の新築一戸建て