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    学芸員どんな人?

    • 学芸員人生を変えたという油彩画家「清水登之」の絵を紹介する杉村さん
      学芸員人生を変えたという油彩画家「清水登之」の絵を紹介する杉村さん
    • 収集した標本を手に、オサムシ研究の魅力を語る多和田さん
      収集した標本を手に、オサムシ研究の魅力を語る多和田さん

     「学芸員」「研究員」と聞くと遠い存在に感じる人もいるかもしれない。しかし、ミュージアムを支える彼らは魅力的で、ちょっとマニアックで、とても仕事熱心。これまでに紹介した施設の2人に、こだわりや仕事の面白さを語ってもらった。

    ■見たくなるフレーズを

    県立美術館・特別研究員 杉村浩哉さん56

     就職活動中、県立美術館がデイビッド・ナッシュという彫刻家を奥日光に招待し、そこで制作されたものを展示しているのを知りました。地元の林業関係者と外国の作家の交流に感銘を受け、そんな仕事がしたいと志望しました。

     ただ、バブルがはじけるまで自分の関心に近いイギリスの古い風景画の最高傑作や、現代アートの巨匠の作品ばかりを集めていました。予算が厳しくなってやっと「県内」「地元」に目が向くようになったのです。

     学芸員人生を変えたのが、県内出身で、アメリカやフランスで評価された油彩画家・清水登之との出会い。従軍画家として戦意高揚を図る絵を多く描かされた人ですが、調査するとユニークな人物だと分かりました。

     彼は相手国の難民と親しくなり食事に招かれていました。どちらが攻めている側かわからないような逸話が日記に書かれていたのです。鉄柵だらけのキャンプ地の絵も、どこかコミカルで抽象的でした。一人の芸術家にひかれて調査を進める経験が、関谷富貴の発掘にもつながったと思います。

     ただ、どれだけ研究を積み上げても、いかに面白く楽しく伝えるかが重要です。こだわりは、企画展のキャッチフレーズを印象的にすること。「妻の遺した秘密の絵」もお気に入りの名作ですが、予想外にウケたのは、昨年1~3月の日本近代洋画展でしょう。

     その名も「栃木の春は、鮭二本」。近代洋画と言われても、お堅くて嫌になってしまう。そこで、高橋由一のサケの絵を2枚並べました。何の脈絡もありません。ただ、「なんだこれ」と気にかけてもらえます。新巻きザケの旬の時期でもあり、来場者は前年の95%増でした。

     昨夏は、小山市出身の世界的な現代アーティスト、タムラサトルさんの体験型展示に、私と同期の学芸員が「真夏の遊園地」と名付けました。遊び先として海や動物園に加えてもらいたいとの願いを込めたもの。なかなか好評だったと思います。そんな私たちの工夫にも目を向けてもらえるとうれしいです。

    ■専門は虫仕事は何でも

    那須野が原博物館・学芸員 多和田潤治さん38

     生き物と博物館が大好きで、中学生の頃から学芸員になりたいと思っていました。趣味は博物館巡り。大学生時代は1年に約70館は行きました。就職活動では三つの博物館を受け、合格したのが、前身の西那須野町郷土資料館。企業からも内定をもらっていましたが、迷いはなかったです。

     大学ではイネ科の植物の遺伝子研究が専門でしたが、植物は標本にすると劣化し、野外での感動を伝えづらいので展示には向きません。展示映えもして子供たちも好きな昆虫を研究しようと、学芸員になってから切り替えました。

     研究対象は主に「オサムシ」。種によって生息環境が細かく分かれていて、「環境指標性生物」として注目されています。那須の豊かな自然を守るため、またそこに住む生物に思いをはせてもらうため、オサムシの調査によって、植生や環境の変化を証明できればいいなと思っています。

     でも自分の専門は後回しになることが多いです。専門外の動物や化石の展示のため一から勉強し、研究者を探して指導もしてもらいます。他にも仕事はたくさん。広報担当としてホームページ更新や広報誌への原稿執筆があり、展示の際には入札にも関わります。体験講座の運営や学芸員を目指す学生の指導もしています。

     表の仕事はやはり展示です。3年前の「塩原の自然」と題した企画展は趣向を凝らしたつもりだったのですが、来館者数は伸びませんでした。見せたい、知ってもらいたいことと、お客さんが求めることが乖離かいりしていたと反省しました。

     専門性が高すぎたり、淡々としていたりするとつまらない。ただ標本を並べるのではなく、生き生きしているように見せる工夫をしたり、日本地図上に並べて分布をわかりやすくするとか、昆虫の生態や特徴が一目でわかる展示を目指しています。見栄えのする展示は来館の動機になります。来館者に寄り添って、楽しみながら学べる展示を心がけていきたいです。

    ■採用は狭き門 資格取得即採用1%未満

     日本博物館協会によると、毎年1万人の有資格者が誕生するが、すぐに学芸員になれるのは1%にも満たない。

     学芸員になるには、国家資格を取得し、自治体やミュージアムの採用試験に合格しなければならない。「学芸員養成課程」を開講する全国300の大学や短大で、実習を含む所定の単位を修得すれば資格が得られる。この課程を終えなくても、認定試験に合格すればよい。

     資格取得はさほど難しくないとされるが、問題なのは採用枠の狭さだ。文部科学省の報告書によると、2006~08年度の3年間に学芸員(非常勤を含む)を採用しなかった館は、全国で72%に上った。

     また、1館あたりで見ると、常勤の学芸員が減り、非常勤が増えている。非常勤は短期間の雇用でその後の身分保障がなく、収入も少ない。

     県内の公立博物館で非常勤として働く男性学芸員(29)は「いつ常勤になれるのか不安。長期的な研究や資料収集ができないし、非常勤でも仕事量は多い」と語る。1枠の常勤の募集に数十人が殺到することもよくあるそうだ。

     日本博物館協会の下田重敬事務局長は「教育普及はミュージアムエデュケーター、調査研究はリサーチャーと細分化された欧米と違い、日本では学芸員があらゆる仕事を一人でこなしている。制度を見直し、労働環境や就職状況を改善していきたい」と話している。

    2015年01月22日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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