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    <8>作品に宿る森の生命力

    ■美術家 番留京子さん

     険しい山に囲まれた新宮市熊野川町大山地区。その山懐に、ひっそりとアトリエ「木楽伝(きらくでん)」が立つ。中に入ると、鮮やかな色彩の木彫や木版画であふれている。文字通り、楽しくて、次第に心が温かくなっていった。

     「日々の暮らしの中で蓄積されたものが、無意識のうちに作品に投影されているんでしょうね」。この地で美術家として20年以上、創作活動をしながら、古道の語り部も務める番留京子さん(53)が、穏やかに、そう語る。

     東京で育ち、20代半ばの頃、版画家に。海外の作品展にも出展するなど精力的に活動した。だが、30歳を過ぎ、ふと、ある思いが頭をよぎった。

     「自然の中で生活しながら、見たもの、聞こえた音、感じたことを表現したい」

     1992年、知人から熊野川町の廃校になった小学校をアトリエに利用できると聞いた。迷うことなく、活動の拠点を移した。

    ◇豊かな自然再発見

     田舎での生活は、想像していたより、忙しかった。風呂を沸かすためのまき割りは、力のいる作業。炎天下の草むしりに、大粒の汗がしたたる。畑仕事は、近所の人たちに一から教わった。今では採れた野菜をお裾分けする。「都会と比べ、人との距離感が近い。それが心地よかった」

     2004年、熊野古道が世界遺産に登録され、語り部を始めた。当初は団体客が中心だったが、ブームが一段落すると、個人や小グループのリピーターが増えた。毎回、語り部に指名してくれる常連客もできた。

     「ここに住む人にとって美しい山や、きれいな水は当たり前のように存在するもの。でも語り部の活動を通じて、そんな熊野の豊かな自然が、実はとても貴重なのだと気づかされた」

     何度も訪れる都会からの観光客を案内するたびに、新しい古道の魅力を見つけ、前に進む力を得た。「こんなすてきな場所に住めて幸せね」。観光客からそう言われることを誇りに感じる。

    • 熊野川を前に古道の魅力について話す番留さん。「訪れる人に神々が宿るパワーを感じてほしい」(新宮市で)
      熊野川を前に古道の魅力について話す番留さん。「訪れる人に神々が宿るパワーを感じてほしい」(新宮市で)

     今は世界で唯一「川の参詣道」として世界遺産登録されている熊野川の舟下りガイドや、熊野セラピストなども務める。月に10~20日間は、ガイドに出る日々だ。「木彫と語り部、どっちが本業なのか、わからなくなってきちゃった」と笑う。

    ◇神秘的な力伝えたい

     そんな日々の暮らしは、作品に新たな息吹を吹き込んだ。うっそうと茂るシダの上を飛ぶ八咫烏(やたがらす)、都会に住む子どもたちに森を届ける「デリバリーウルフ」、木も何もなくなってしまった山に花を運ぶ空想上の生き物――。アトリエに並ぶ独創的な作品は、みな熊野の景色から着想を得たという。

     東京にいた頃から、自然を題材にしてきたが、「旅先で見たものをイメージする程度で、省みれば深みがなかった」。今、生み出す作品には、森の生命が力強く現れていると実感できる。

     これまで関東を中心に個展を開いてきたが、全国を巡回するという夢を抱くようになった。より多くの人に、自分が魅せられた景色を届けたいとの思いからだ。その姿は、熊野信仰の普及のため、全国を歩いた尼僧・熊野比丘尼(びくに)と重なる。

     「大昔からたくさんの人が、ここに来れば何かが得られると、祈りに訪れた。目には見えない神秘的な力が熊野には宿っている」。これからも、その力を伝えたいと願っている。(田島武文)

    2014年01月11日 22時29分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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