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    「学んだ美術 復興の力に」

    • 大学の卒業式に臨み「ふるさとのために学んだことを役立てたい」と話す阿部さん(20日、山形市上桜田の東北芸術工科大で)
      大学の卒業式に臨み「ふるさとのために学んだことを役立てたい」と話す阿部さん(20日、山形市上桜田の東北芸術工科大で)

    ◇津波から救助 阿部さん芸工大卒業

     東日本大震災の津波で宮城県石巻市の自宅ごと流され、9日後に救助された当時高校1年生の男性(22)が20日、進学した東北芸術工科大(山形市)を卒業した。4月に地元・石巻のまちづくり会社に就職する予定で、「学んだ美術の知識を生かして生まれ育った街を元気にし、少しでも復興の力になりたい」と意気込んでいる。

     男性は、阿部じんさん。仙台市の高校に通っていたが、期末テストを終えて石巻の実家に帰省していたとき、激しい揺れに襲われた。

     両親は外出中で、祖母・寿美すみさん(86)と2人きり。家は海から約700メートル離れた場所にあったが、地震から約1時間後に真っ黒な水の塊が家にどっと流れ込んできた。畳が次々と浮かび上がり、2人で2階に逃れたものの、そこにも津波が押し寄せてきた。

     家中の家財がなぎ倒され、至るところで壁や柱が折れる音がした。最後に逃げ込んだのは台所。阿部さんは流し台、寿美さんはテーブルに上って、迫り来る津波の恐怖と闘った。後で分かったことだが、自宅は内陸へ100メートルほど流されていた。

     そばに倒れていた冷蔵庫にあったわずかなヨーグルトや、ビスケットなどを食べて命をつないだ。屋根の亀裂から雪が吹き込み、室内につららができるほど冷え込みも厳しかったが、「きっと助けが来るよ」と励まし合った。だが、約1週間がたつ頃、がれきでけがをした阿部さんの足に激痛が走り、寿美さんの意識ももうろうとし始めた。「もう限界だ」。意を決して素手でがれきをかき分け、外に出ると屋根の上だった。「助けてください」と、力を振り絞って叫んだ。救助されたのは震災発生から217時間後のことだった。

                         ◇

     阿部さんの両足は凍傷で切断寸前だった。その後、リハビリに励み、美術に興味があったことから芸工大に進学。木や石、粘土を使って彫刻の基礎を学び、美術の教員免許も取得するなど、充実した大学生活を過ごした。

     2月の卒業展示では、1年かけて制作した作品「Breath of souls」を披露。廃材のネジや歯車などを組み合わせ、羽化したチョウに見立てた。「廃材でも組み合わせれば芸術作品になる。『生命の息吹』を表現した」という。

     卒業後は、石巻の第3セクター「街づくりまんぼう」に就職する。「仮面ライダー」などを手がけた漫画家・石ノ森章太郎の作品を展示する石ノ森萬画館の運営や仮設商店街のイベント企画などで震災復興に関わっているまちづくり会社だ。

     卒業式に出席した父・明さん(63)は「地元の復興の力になってくれるのはうれしい。苦労した時期もあったので、温かく見守っていきたい」とほほ笑んだ。

     津波で流された実家周辺は、国などが整備して復興祈念公園になるという。阿部さんは「震災の経験があったからこそ、何事もポジティブに考えられるようになった」とこの6年を振り返りつつ、「復興の展望が見えてきたふるさとのために、学んだことを生かしたい」と前を見据えた。

    ※「石ノ森」の「ノ」は小さい「ノ」

    2017年03月21日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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