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    熊本地震

    熊本地震2年 学生“宮大工”奮闘

    建て直せ、地域の「魂」

     熊本地震の本震から4月16日で2年。4万人近くの住民が今も仮設住宅などで避難生活を送り、地震の爪痕は被災地に大きな影を落としている。険しい復興途上にある中、日本の伝統建築を学ぶ地元の若者たちが「住民の活気を取り戻したい」と、地域のお宮さん再建に汗を流した。      (地方部 江藤 一)

     ◆白い息吐き、金づち振るう◆

    • 神楽社で新たな本殿の屋根の部材を、くぎで打ち付ける専攻科の生徒たち
      神楽社で新たな本殿の屋根の部材を、くぎで打ち付ける専攻科の生徒たち

     「トン、トン、トン」。1月下旬、田畑や住宅が周囲に広がる熊本県益城町広崎の神社「神楽社(かくらしゃ)」。8人が白い息を吐きながら真剣な表情で金づちを振るい、くぎを打っていた。伝統建築を現場実習で学ぶ県立球磨(くま)工業高校伝統建築専攻科(人吉市)の1、2年生(いずれも19~20歳)だ。

     熊本市の東隣に位置する益城町は、「震度7」に2度見舞われ、県内でも被害が甚大だった。現在も町人口約3万3000人の2割に相当する約6500人が町内外で避難生活を送っている。

     特に、400年以上の歴史を持つ神楽社は本殿、拝殿、鳥居が壊滅的な被害を受けた。真っ二つに割れた「神楽社」の額が更地になった現地に残っていた。

     ◆神社倒壊、再建は悲願◆

     住民にとって、毎年秋に雨ごいの太鼓や子供みこしがにぎやかに行われた神楽社は「地域のシンボル」。再建は住民の悲願だ。

     生徒が取り組んでいたのは、新たな本殿を移築する作業だ。4年前、同県八代(やつしろ)市内の八代城代の子孫から「高齢なので管理が難しい。教育に活用して」と同校に寄贈された本殿(高さ、幅とも4・5メートル)を搬入した。サクラやカエデを部材に使い、江戸末期の作とみられる本殿だ。本殿の中心部分がクレーン車で土台に据えられると、8人は素早く足場を組み、部材組み立てにかかった。

     ◆現地4泊5日、差し入れも◆

    • 屋根の部材の位置にずれがないか点検する専攻科の生徒
      屋根の部材の位置にずれがないか点検する専攻科の生徒

     移築する本殿の傷みが激しかったため、8人は搬入前に板や柱を差し替え、柿渋を使った塗料を塗り、彫刻の部材も一つ一つ彫り出すなど修理を施した。現場作業中にも一部で微妙なズレが生じ、カンナなどで調整しながら一つ一つ組み立てた。本殿は鮮やかに蘇った。

     同校から益城町までは北へ約80キロ離れており、8人は近くの公民館で寝泊まりしながら5日間作業を行った。住民から肉まんや手作りケーキなど差し入れも数多く届けられた。

     2年の本多倫大(ともひろ)さん(20)は「多くの住民が作業を見に来てくれて励みになった。神社への愛着の強さを実感した」と話した。

     ◆「復興に弾み」住民感激◆

    • 被災した神楽社。解体には専攻科の職員が参加した(2017年、球磨工業高提供)
      被災した神楽社。解体には専攻科の職員が参加した(2017年、球磨工業高提供)

     今回を含め5件の復興作業を指導した専攻科主任の松葉英星(えいせい)さん(59)は「地震を体験し、作業に一層熱がこもっていた」と振り返る。

     神楽社再建の地元世話役を務めた菅野義昭さん(76)は本震で自宅が全壊した日に神楽社に駆けつけ、惨状を目撃。ずっと心を痛めてきた。「若い人の力で立派な本殿が移築されてうれしい。復興に弾みをつけたい」と感激している。公民館に置かれていたご神体も新本殿に戻した。本殿移築が実現したのは、ある氏子から、同校に寄贈された本殿の話を聞き、同校に働きかけたのがきっかけという。

     ◆集大成の作業、地域に貢献◆

    • 移築を終えた本殿と球磨工業高伝統建築専攻科の生徒と教職員、地元関係者
      移築を終えた本殿と球磨工業高伝統建築専攻科の生徒と教職員、地元関係者

     専攻科卒業となった2年生4人にとっても、移築作業は、学んだ知識や技術を実践する「集大成」の舞台だ。「地域貢献につながり、よい卒業記念になった」と喜ぶ声も。

     移築作業を視察した県教育委員会の牛田卓也教育指導局長(前高校教育課長)は「日頃の学習成果を存分に発揮し、被災地支援に励む生徒は心強い存在。誇りに思う」と話した。

     専攻科の8人が切り開いた神楽社再建。本殿屋根の仕上げや、拝殿、鳥居の設置は今年度内にも行う見通し。2年生になった4人は今夏、同県阿蘇市内の神社再建にも取り組むという。作業終了後、生徒8人と菅野さんら地元住民は新しい本殿前に並び、さわやかな笑みで記念写真に収まった。

    【熊本県立球磨工業高校伝統建築専攻科】

    • 球磨工業高の管理棟〔人吉市城本町で)
      球磨工業高の管理棟〔人吉市城本町で)
    • 甲斐神社での鳥居設置工事(2017年、球磨工業高提供)
      甲斐神社での鳥居設置工事(2017年、球磨工業高提供)

     高校卒業後の2年間で伝統建築の専門的な技術や知識を習得する2年課程。2004年に設立、定員は1、2年生各10人。地元の林業振興や宮大工養成を図る同校建築科伝統建築コース(1989年設置)の卒業生らが進学する。現場実習に重点を置き、木造建築技術・技能の専門家として即戦力となる人材育成を図るのが特長。卒業生は60人以上。宮大工だけでなく、文化財保護の専門家も輩出している。地域に密着した実習として、県内の各市町村などの依頼に応じて、寺社など伝統建築の解体や修復を行う。おみこしや神社に奉納される球磨焼酎の棚なども製作した。東日本大震災の被災地・福島県南相馬市で、社や鳥居を設置した実績もある。

    (リンク先)http://sh.higo.ed.jp/kuma-ths/dentokenchiku_senkoka/

    ■伝統建築を学ぶ若者が神社本殿移築に情熱を傾けました(動画)

    2018年04月13日 16時42分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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