文字サイズ
    計1万8000人を超す死者・行方不明者を出した東日本大震災。発生から5年を迎える被災地で復興に情熱を傾ける人々の姿、再生に向けた足取り、災害の教訓を生かす取り組みをお伝えします。
    現場から

    生徒が未来を決める…阪神から東北へ「防災科」高校のエール


     東日本大震災から5年が経過する春となる2016年4月、被災地の宮城県にある県立多賀城高校に「災害科学科」が誕生する。目的は、大震災の教訓を次世代に伝え、将来の災害から多くの命と暮らしを守る人材を育成することだ。1995年の阪神・淡路大震災を契機に設立された兵庫県立舞子高校の「環境防災科」に次ぐ、国内の高校では2番目の防災専門学科となる。2002年スタートの舞子高校環境防災科はすべての授業内容を一から考え、手探りながら一定の評価を得て、卒業生を送り出してきた。環境防災科の初代科長を12年間務めた諏訪清二教諭(現・兵庫県立松陽高校教諭)に、その奮闘ぶりと多賀城高校への思いを寄稿してもらった。

    兵庫県立松陽高校教諭 諏訪清二

    多賀城は多賀城らしく、先例にとらわれないで

    • 諏訪教諭(2014年4月、兵庫県高砂市の県立松陽高校で。読売新聞撮影)
      諏訪教諭(2014年4月、兵庫県高砂市の県立松陽高校で。読売新聞撮影)

     宮城県多賀城高等学校が「災害科学科」を設置するという話を初めて聞いた時、「先生方は大変だなあ」とため息が出ました。

     一から学科をつくっていく大変さもさることながら、未曽有の被害が出た地域でスタートするプレッシャーは相当なものだと思います。私は、ことあるごとに「東日本大震災の被災地に防災専門学科を設置すべきだ」と主張してきましたので、設置の決定は大歓迎ですが、まずは先生方の心配をしてしまいました。それから、周囲が過度な、しかも的外れな期待を先生方に押し付けて、災害科学科を潰してしまってはダメだという危機感を持つようになりました。

     「多賀城高校災害科学科に何を期待しますか」。そんな質問を、私はたくさん受けました。防災専門学科の先例は舞子高校にしかありません。だから、マスコミや防災関係者は、どうしても舞子高校の実践を引き合いに出して、多賀城高校災害科学科の未来を予想しようとするのでしょう。

     私は、舞子高校との単純な比較は、多賀城高校災害科学科のチャレンジへの正しい理解につながらないと考えています。だから、上の質問に真正面から答えたことがありません。

     多賀城の新学科設立にあたり、私も宮城県庁や教育委員会、多賀城高校の先生と何度か話をしたり、舞子高校の資料を送付したりしましたが、本格的な準備に関わったわけではありません。

    異なる災害、地域の様相

    • 舞子高校では全校生が心肺蘇生法を、さらに環境防災科生徒と部活動の生徒がAED(自動体外式除細動器)の操作を学ぶ(諏訪教諭提供)
      舞子高校では全校生が心肺蘇生法を、さらに環境防災科生徒と部活動の生徒がAED(自動体外式除細動器)の操作を学ぶ(諏訪教諭提供)

     災害では、引き金となる自然現象の種類や大きさ、発生する地域が持つさまざまな社会的要因によって被害の様相やその後の回復の状況が違ってきます。阪神・淡路大震災と東日本大震災では、被害を引き起こした自然現象に違いがあります。関西と東北といった風土の違いもあります。

     防災教育の題材やカリキュラムの内容は、こういった様々な条件を反映しなければなりません。学習者の興味や学習への動機、すでに獲得している知識や技術の質と量、生徒たちの理解力や判断力、表現力といった要素も違います。両者の単純な比較は意味がありません。

     もちろん、災害には共通する部分もあります。手に例えると、手のひらの部分がどんな災害にも共通する課題で、指は災害の固有の部分と考えると理解しやすいでしょう。地震固有の課題が親指で、人さし指は津波、洪水なら中指という具合です。共通する部分は、防災教育の先進事例から学べばいいでしょう(ここでいう先進事例とは、舞子高校だけではなく、優れた防災教育を実践してきた全国の多くの学校のことです)。

     しかし、現段階では、多賀城高校が背負ったのは未曽有の被害を出した東日本大震災であり、東北地方を繰り返し襲ってくる津波災害です。舞子高校が背負った1000年に1度の地震とは違います。

     多賀城高校は舞子高校の先例にそんなに縛られる必要はありません。手のひらの部分は学びながらも、自分たちの地域にある固有の課題には、自分たち独自の方法で取り組めばいいのです。

     私たち外野にいるものは、あれこれと期待を並べ、実践に口を挟み、手を出し、中にいる教師を疲弊させることだけは避けなければなりません。教師がやりたいようにできる雰囲気をつくり、必要とされれば支援するという姿勢が大切です。

     「多賀城高校の災害科学科に何を期待しますか」への私の答えは、「何も期待してはならない」です。

    2016年03月02日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP
    PR
    今週のPICK UP