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    計1万8000人を超す死者・行方不明者を出した東日本大震災。発生から5年を迎える被災地で復興に情熱を傾ける人々の姿、再生に向けた足取り、災害の教訓を生かす取り組みをお伝えします。
    現場から

    分断乗り越える共同体を~福島を忘れないで

    日本国際ボランティアセンター震災支援担当 白川徹


     福島県は原発事故後、放射性物質の状況によって何度も避難区域が設定し直された。こうした線引きだけでない。住民は、放射能の健康影響についての考え方や、地元にとどまるべきかどうか、さまざまな意見の違いによって、何重にも分断されてきた。分断を乗り越え、地域社会の絆をつなぎとめるためには何が必要なのか。2011年から南相馬市で活動する日本国際ボランティアセンター(JVC)の白川徹氏に寄稿してもらった。

    日本国際ボランティアセンター震災支援担当 白川徹

    林立する見えない壁

    • 除染された汚染土砂が積み上げられる仮置き場(南相馬市小高区で)
      除染された汚染土砂が積み上げられる仮置き場(南相馬市小高区で)

     南相馬市は太平洋沿いの「浜通り」に位置し、2006年に鹿島町、原町市、小高町が合併して誕生した比較的新しい市だ。原発事故後、市の南側3分の2は立ち入り禁止の警戒区域と緊急時避難準備区域に指定され、人口は7万2000人から1万人に激減した。店は軒並み閉まり、家々からも人の気配が消えた。郵便も届かず、マスコミすら取材に来ない。従来の広報が機能しなくなったため、11年4月に市役所は臨時災害放送局(災害FM)を立ち上げ、JVCに協力を要請した。

     私はもともとフリーランスの記者として活動していたが、東日本大震災と原発事故の被害の大きさに、伝えるだけでなく実際に現場で支援することを志し、JVCに入った。11年5月から、最初は主に放送局の運営支援、その後は仮設住宅での孤独死防止を主な目的に、南相馬市に通い続けている。

     震災と原発事故から5年を経て、南相馬市の人口は約5万7000人にまで回復した。店もずいぶん増え、人々の生活は戻りつつあるように見える。旧警戒区域(原発から20キロメートル以内)で居住制限が続く市南部の小高区も今年4月、避難指示が解除され、住民の帰還が始まる予定だ。

     南相馬市が順調に復興しているかというと、そうは言い切れない。地域には、さまざまな形で地域を分断する見えない壁が立ちはだかってきたし、それは今も残っている。

    生きるのに必要な「踏ん切り」

    • 津波被害を受け、破壊された家々の残骸はすべて片付けられ、土台だけが残る(南相馬市小高区)
      津波被害を受け、破壊された家々の残骸はすべて片付けられ、土台だけが残る(南相馬市小高区)

     南相馬市は福島第一原発事故の際、警戒区域以外では避難するかしないかが市民の自主判断に委ねられた。

     放射性物質の人体への影響をどう考えるかは、非常に難しい問題だ。何ミリシーベルトを安全の目安とすべきか権威ある学者同士でも意見が割れた。戻るか戻らないかの判断は住民自身が行わなければいけない。自分や家族の健康に直結する問題だ。「何ミリシーベルト以下なら安全」と国に言われても、そう簡単に信じられなかった。

     南相馬市のNPO法人で働く竹花和子さん(56)は、娘の結婚式をどこで挙げるかで悩みぬいた。市外に避難していた娘は南相馬での挙式を望んだが、友人たちに南相馬市までに来てもらってよいのか、という思いもあった。何度も2人で話しあった結果、市内で結婚式を行ったが、今も政府への不信感は消えていないという。

     「夫と市内で暮らしていますが、なるべく福島産の野菜は食べないようにしています。この年になってなんで、と言われるかもしれませんが、あと何十年かはある人生です。政府や市の言う『安全だ」という言葉は簡単には信じられません」

     別の考えを持つ人もいる。同じく南相馬市のNPO法人で働く藤和子さん(55)は、一度、飯舘村に避難して、その後、南相馬市の仮設住宅に移った。「最初は放射能の被害が怖く、家の中にずっと閉じこもっていました。でも、閉じこもっているとだんだん気分もおかしくなってきます。翌年の2月から仮設の住民をケアする仕事を始めたのですが、あるとき、もう放射能のことは気にしないことにしました。無理にでも自分を納得させないと、ここで暮らしていくことはできないと思います」

     私は南相馬の多くの人が藤さんと同じような意見だと感じる。日々、目に見えない放射性物質の恐怖に(おび)えていては、暮らしていくことは不可能だ。放射性物質に対する知識がないということではない。そのリスクを分かった上で踏ん切りをつけなければならないほど追い込まれているのだ。

    2016年03月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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