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    計1万8000人を超す死者・行方不明者を出した東日本大震災。発生から5年を迎える被災地で復興に情熱を傾ける人々の姿、再生に向けた足取り、災害の教訓を生かす取り組みをお伝えします。
    現場から

    集落の存続かけた高台移転~気仙沼・浦島地区からの報告

    日本国際ボランティアセンター気仙沼事務所 岩田健一郎


     静かな海で養殖を生業に暮らす小さな集落をも襲った東日本大震災から5年。宮城県気仙沼市の浦島地区では、住民の流出による集落消滅の危機と闘いながら、津波の危険がない高台への移転を目指した。苦悩する住民に寄り添ってきた日本国際ボランティアセンター(JVC)の岩田健一郎氏に、再生を目指す小さな地区の歩みを振り返ってもらった。

    日本国際ボランティアセンター気仙沼事務所 岩田健一郎

    震災で約7割の住民が離散

    • 対岸から眺めた気仙沼市の浦島地区
      対岸から眺めた気仙沼市の浦島地区

     深い木立が海岸に迫り、眼前には気仙沼湾の穏やかな水面が広がる浦島地区は、大浦(おおうら)小々汐(こごしお)梶ヶ浦(かじがうら)鶴ヶ浦(つるがうら)という4集落からなります。各集落の住民は、それぞれが強い血縁関係で結ばれています。

     この地区ではかねてより牡蠣(かき)や昆布などの養殖が生業として盛んに営まれてきました。震災前、浦島地区にはおよそ240世帯が浜ごとに軒を連ねて暮らしていましたが、約7割の住民が津波で自宅を失い離散しました。特に梶ヶ浦は、世帯数が約50世帯から5世帯余りに激減し、集落そのものの存続が危ぶまれました。

     住民がかつて暮らしていた海岸沿いの居住地は、災害危険区域の指定を受け原則として住むことができなくなりました。住み慣れた集落に戻るためには、高台に移転するしかありません。国と市町村は、被災した住民の集団での移転を後押しするため、「防災集団移転促進事業」(高台移転)を進めました。この事業は5戸以上の住民がまとまって高台への移転を希望すれば、行政がいったん土地を買い上げて造成し、宅地として賃貸または分譲するというものです。移転先の敷地は約100坪、ここに自力で住宅を再建します。

    なぜ高台移転なのか?~「根っこが奪われる」痛み

    • 海とともにある住民の暮らし
      海とともにある住民の暮らし

     高台移転の事業は安全な居住地を確保することとともに、集落のコミュニティーをできる限り維持することを企図していました。なぜそこまでしてコミュニティーを維持するのか、という疑問がわくかもしれません。都会で生まれ育った筆者もまた、気仙沼で活動を始めた当初はコミュニティーの重要性を十分に理解できずにいました。

     しかしながら、住民同士が強く結びつき、互いに支え合って生活しているのを知るにつれて、コミュニティーが住民の暮らしにとって必要不可欠であることを徐々に理解するようになりました。住民の生活再建は、コミュニティーの再生を抜きにしては語ることができません。

    • プレハブ型の応急仮設住宅。気仙沼市では、いまだ6千人以上の住民が仮の住宅での生活を余儀なくされている
      プレハブ型の応急仮設住宅。気仙沼市では、いまだ6千人以上の住民が仮の住宅での生活を余儀なくされている

     集団で移転するとしても、わざわざ沿岸の高台に移らなくてもいいではないか、津波の恐れのない、安全な内陸の土地に移り住めばいいではないかと思うかもしれません。

     この点については、何よりも住民の土地への強い愛着が理由として考えられます。住み慣れた土地から引き離されることに伴う大きな痛みの言葉を、これまで住民から度々聞かされてきました。それは「自分の根っこが奪われる」ような感覚だと言います。

     また、海岸沿いに居を構えていた住民の暮らしは、常に海とともにありました。それは必ずしも漁業を生業とする住民の場合に限ったことではありません。海と深くつながった生活習慣をもつ住民は、「海が見えないと落ち着かない」と語ります。こうした感覚をもつ住民にとって、元の集落から離れて内陸の土地に移り住むことは、容易に選択できることではありませんでした。

     一方で、高台への移転を選択し、住宅を再建するまでには、長い時間がかかります。実際に気仙沼市では、計画された高台移転事業の大半が、今年度でようやく土地の引き渡しの段階に至るという状況にあります。4年、5年という期間を仮設住宅で暮らしながら待つことは、大きな負担として特に高齢者に対して重くのしかかります。元の集落に戻るのか、集落を離れて別の土地に移り住むのか。住民は苦渋の決断を迫られることになりました。

    2016年03月10日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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