「オタク」なりきれず孤独感斎藤 環(たまき)さん 46
斎藤 環(たまき)さん 46
精神科医。青少年の引きこもり問題に取り組むほか、オタク文化にも詳しい。著書は「『負けた』教の信者たち」「『性愛』格差論」(共著)など。
――「彼女さえいれば」「不細工」など、ネットの書き込みからは、容姿や異性関係に対する加藤智大容疑者(25)のコンプレックスがうかがえる 内向的な若者に多く見られる自意識のあり方だ。最近は、自分たちのことを「非モテ」「キモメン」(気持ち悪い男)という言葉で卑下する若者も多い。彼らは実際は醜くなくても、コミュニケーション能力不足が原因で、異性経験が少なくなり、そのことだけで「負け組」と思い込む。彼らは「努力すればモテるかも」と期待を持ち続けることをつらいと感じることが多い。加藤容疑者も、努力では変えられない外見に劣等感を集約し、あえて自ら期待を断ち切ろうとしたのではないか。 ――周囲に「アニメの女性は裏切らない」と語っていた点をどう見るか いわゆる「オタク」たちがそうするように、現実の女性の代わりに空想のキャラクターに興味を示してみたのかもしれない。ただ、彼は十分オタクにはなりきれなかった気がする。私が知るオタクとは、モテなくても、キャラクター女性などでそれなりに満足できる。そんな現実を仲間同士で自虐交じりのユーモアで語り合い、居直ってみせることもできる。そうしたコミュニティーに加藤容疑者も属していれば、少しは楽になれたかもしれない。 ――なぜ、なりきれなかったのか かつてはエリートだったという意識があり、空想の世界に逃避することに心のどこかで抵抗があったのだろう。家族関係を喪失した孤独感も想像以上に大きいと思う。その空白を埋めてくれると信じていたのが、「彼女」という存在だったのではないか。 多くの引きこもりの若者を見てきて思うが、家族という居場所は嫌悪感の対象になるが、極端な行動に走らせない緩衝材にもなっている。若者を孤立させないために、今回の事件が家族のあり方を考えるきっかけになってほしい。 ◇ 事件や社会問題には様々な〈顔〉があります。新企画「アングル」では、各方面の識者に多角的な視点から分析してもらい、読者の方々に考えるヒントを提供できれば、と考えています。第一弾は、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。逮捕された加藤智大容疑者(25)の心理や事件の背景を読み解いてもらいます。 (2008年7月2日 読売新聞)
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