■第1号は8日間で24億円
「宇宙で過ごした8日間は、人類にできる最もユニークな経験だとわかった。多くの時間を寝て過ごしたし、これほどよく眠れたこともなかった。眠るために宇宙に帰りたいぐらいだ」。史上初の宇宙観光旅行者となった米国人実業家デニス・チトー氏が2001年5月、ロシアの宇宙船「ソユーズ」で8日間の旅行を終えた後、そんな感想を語った。チトー氏は夢をかなえるためにロシア航空宇宙局に約2000万j(約24億円)という大金を支払ったが、そこまでのお金を使わなくても行ける宇宙観光旅行の時代がすぐそこまで近づいている。
■「健康なら参加OK」の時代へ
宇宙旅行などを企画する、米バージニア州のベンチャー企業「スペースアドベンチャーズ」社は、「宇宙旅行・2時間の旅」の03年から05年の実現を目指し、搭乗者を募集している。このツアーは4日間で、料金は9万8000j(約1200万円)だ。特に持病がなく、良好な健康状態ならだれでも参加できる。ツアーの内容はこうだ。最初の2日間は、簡単な宇宙についての講義と健康診断、搭乗するロケットの見学がある。3日目は、上昇と下降を繰り返す飛行機の中で瞬間的に生み出される無重力を体験する。最終日は、米国内から発射されるロケットに乗り、100km上空で約10分間の宇宙空間を楽しむ。
未来学者のアルビン・トフラー博士は「かつて軍用だったインターネットが民間で使われ花開いたように、宇宙産業も民営化されて初めて宇宙開発の将来が確実になる」と語っている。宇宙旅行がすでに産業化の一歩手前まで来ているのは確実で、米航空宇宙局(NASA)は今後数十年間に宇宙旅行産業が100億〜200億jの市場になると見積もっている。
■日本でもプランは着々
日本国内では宇宙企業関係者などで組織する「日本ロケット協会」が、米スペースシャトルのような完全再使用型の1段ロケット「観光丸」を使い、地球を周回する宇宙観光のアイデアを練っている。構想によると、観光丸は高さ22m、直径18mのずんぐり型。定員は50人だ。垂直に離着陸し、地上200kmの周回軌道まで上昇する。乗客は宇宙からの地球展望や無重力体験などができるとしている。安全性やエンジンの耐久性の確保、耐熱材料の軽量化などの課題はあるが、技術的には10年ごろの打ち上げも夢ではない。この宇宙旅行の代金だが、はじめは1人数千万円かかると見込まれているものの、50機体制で営業飛行が可能になれば、200万円程度にまで下がるのではないかという。
大手ゼネコンの清水建設は「宇宙ホテル」の建設構想を持つ。長いパイプ部分と直径約140mの環状の客室部分で構成され、客室部分の環にはカプセル型の個室64個が並ぶ。長いパイプ部分には娯楽施設や宇宙船の発着所が設けられる。地上から高度約450kmの軌道上に建設され、環状の客室部分を回転させて重力を発生させる。20〜30年ごろの完成を目標にしている。
■観光どころか火星移住も
人類を初めて月に送り込んだNASAは、火星への有人飛行だけでなく火星移住も視野に入れ研究開発を進めている。火星は地球のすぐ外側を回るお隣の惑星だが、地球から最も近い時で8000万km、太陽をはさんで反対側にある時は3億km以上も離れている。そこへの有人飛行はケタ違いに難しく、移住ともなると解決すべき課題は山積している。しかし、NASAでは「人類を火星へ」という目標に向け地道な研究を重ねている。
■リサイクル・自給自足がカギ
火星へ人を送るには時間という大きな壁が立ちはだかる。宇宙船が2つの惑星を往来する機会は26か月に1度、地球と火星が最も近づく時だけに限られるうえ、片道だけで5か月ほどもかかる長旅になる。このためには、長期間にわたって人間が生きていける環境を維持する必要がある。生命維持システムが有人飛行のカギを握っているといっても過言ではない。2年以上の飛行・滞在中に必要な酸素、水、食料などを、すべて持ち運ぶことは無理なため、宇宙船や火星基地などの限られた空間の中でリサイクルし、自給自足するシステムが不可欠となる。
このシステムの研究開発のため、NASAのジョンソン宇宙センター(米テキサス州)では、火星基地を模した実験空間「バイオ・プレックス」が建設されている。直径約4.5m、長さ約11mの円筒を横にした形の部屋が5つつながっており、生活空間と実験室がそれぞれ1部屋ずつある。さらに2部屋を使って作物を育て、残る1部屋を占める生命維持装置と結んで、空気や水の浄化、リサイクルもできるようにする。火星で数十年使える設備を目指しているが、その一部が完成する03年からは、ここで生活する実験を始める予定だ。もちろんこの施設を運用するために20種類以上の生命維持装置の試験や作物を狭い空間で育てる実験など基礎研究も怠りない。
NASAは、日米欧など16か国が参加して建設されている国際宇宙ステーションも、火星計画に向けた重要なステップと位置づけている。過酷な宇宙空間で構築物がどうなるかといったことは、建設中の国際宇宙ステーションでの経験でわかる部分も多いはずだ。
20年までには火星に人類を送り込みたいと考えるNASAは最近、2年に1度のペースで無人探査機を火星へ送り、水や燃料などの資源も調査する。21世紀半ばには、人類は火星の観光旅行に気軽に行けるかもしれないし、ひょっとして火星で地球と変わらない生活を営んでいるかもしれない。
(三島 勇)
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