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ネット戦国時代

ウィニーの利用者増加で相次ぐ個人情報流出

捜査・防衛機密、患者情報…ネット漂流

 ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」を介した国家情報、個人情報の大規模流出が相次いでいる。警察の捜査情報、刑務所の受刑者情報、病院の患者情報などに加え、海上自衛隊の護衛艦からは防衛上の秘密文書がネット上に流出するなど、事態は深刻だ。なぜ情報流出はここまで拡大したのか。被害を食い止めることは出来ないのか。(情報流出問題取材班)

■止まらぬ流出

 2月に発覚した海上自衛隊の護衛艦「あさゆき」からの情報流出は防衛庁に衝撃を与えた。流出した情報の中には、自衛艦のコールサインなど「秘」文書も含まれ、海自は乱数表などの変更を余儀なくされた。

 本来ならネット犯罪などを取り締まる立場にある警察からも、捜査情報の流出が相次いだ。

 このほか2月以降、▽刑務所の受刑者情報▽東京地裁の引き継ぎ文書▽愛媛県警の捜査情報▽富山市内の病院の患者情報――などの流出が次々と発覚した。

 被害拡大の背景にあるのは、ウィニー利用者の多さと、暴露ウイルスの蔓延(まんえん)だ。ウイルス対策ソフト会社「トレンドマイクロ」社によると、ウィニーの利用者は推計30〜60万人。駆除済みのものを含むと、約30万台のパソコンが暴露ウイルスに感染したと見られるという。

 ウィニーはどういう目的で使われているのか。同社は「ほとんどが、著作権法に抵触する疑いのある映画や音楽などの収集や、わいせつ画像などの入手」と話す。

 2004年5月、ウィニー開発者の元東大助手が京都府警により著作権法違反ほう助容疑で逮捕(公判中)され、ウィニーの公式配布は中止された。だが現在も書店には、ウィニーの入手法や使用法を詳しく説明する解説書が何種類も並ぶ。

■決め手なし

 相次ぐ情報流出に政府は危機感を強めている。

 海自の流出判明後の2月24日、内閣官房副長官補名で情報管理の徹底を求める注意文書を各省庁に配布。27日には二橋官房副長官が次官会議で情報管理の徹底を指示。さらに今月9日にも安倍官房長官が同会議で異例の指示を繰り返すなど、約半月の間に3度の注意を行った。

 政府は昨年12月、政府機関が保有する情報の管理を徹底する最低限の基準として「政府機関統一基準」を策定。にもかかわらず流出が相次いでいることに、内閣官房幹部は、「システムや制度の問題というよりも、個人個人の情報管理に対する意識が低いからだ」と指摘する。

 一方、警察庁によると、現在の法体系では、ウィニーによる情報流出の取り締まりは事実上、不可能だという。ウイルスで業務用コンピューターを破壊するなど大きな障害を与えた場合などは、刑法の器物損壊罪、電子計算機損壊等業務妨害罪などが適用できる可能性がある。だが個人パソコンから情報を流出させただけでは難しい。また窃盗罪や横領罪も対象をモノに限定しており、形のない「情報」は対象外だ。コンピューターへの不正侵入を規制する不正アクセス禁止法も、個人のパソコンなどへの侵入は想定していない。

 ウィニー使用に対する新たな法規制も難しい。「ファイル交換ソフトは合法的な使い方も可能なので、ソフト自体を規制するのは無理」(政府筋)という。

 情報流出防止策は、ウィニーを使わないことに尽きる。知らないうちに家族がパソコンでウィニーを使用した結果、情報流出が起きたケースもあり、家族にも使わせないことが必要だ。

情報回収は不可能

 ネット上で音楽ファイルなどを交換するファイル交換ソフトは1990年代後半に登場。99年に米国で登場した「ナップスター」は、音楽ファイルを無料で入手でき、米国の大学生らの間で爆発的に流行した。

 国内でまず普及したのは、画像ファイルも交換できる「WinMX(ウィン・エム・エックス)」だが、2001年には、WinMXを通じ高価な画像編集ソフトを配布した利用者2人が著作権法違反で逮捕されるなど、社会問題化した。

 この事件後、利用者を特定しにくい交換ソフトとして登場したのがウィニーだ。後に逮捕された元東大助手が02年5月、WinMXの後継という形で発表し、ネット上で配布した。

 ナップスターやWinMXは、ファイルを検索するため、ホストとなる中央コンピューターが必要で、そこに利用者の記録が残った。一方、ウィニーは、無数のパソコン間をバケツリレーのように情報を転送し合う仕組みで、中央コンピューターは不要。発信者を特定しにくい上、通信内容やファイルも暗号化される。

 暴露ウイルス感染で流出した情報も、この仕組みでネット上を漂い続け、回収は事実上、不可能とされている。

暴露ウイルス
 ファイル交換ソフトに感染、パソコン内の情報をネットを通じて流出させるプログラム。ウィニーに感染するアンティニーが有名。ウィニーでやり取りされているファイルに潜んでいることが多いが、メールで送りつけられる新種もある。

ウィニーを巡る情報流出などの経緯
2002年5月ウィニー評価版の公開
12月ウィニー正式版の公開
03年8月ウィニーを介して感染する初のウイルスが出現
11月京都府警が、ウィニーで米映画、ゲームソフトなどを公開した男性ら2人を著作権法違反容疑で逮捕
04年3月京都府警の捜査情報などの流出発覚
5月京都府警がウィニー開発者を著作権法違反ほう助容疑で逮捕
05年7月経産省原子力安全・保安院の原発関連情報流出が発覚
12月日航副操縦士のパソコンから空港制限区域に入るパスワードなどの流出が発覚
06年2月刑務所などの受刑者情報流出が発覚
宮崎地検の引き継ぎ文書流出が発覚
海上自衛隊の護衛艦の秘密文書流出が発覚
東京地裁の民事執行関連文書の流出が発覚
3月岡山県警の捜査資料の流出が発覚
愛媛県警の捜査資料流出が発覚
住友生命保険の取引先担当者らの個人情報流出が発覚
NTT西日本の顧客情報などの流出が発覚

2006年3月13日  読売新聞)
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