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(3)「快適」空間 若者の逃げ場鮮やかな夢を見ているのか。いや、俊平(仮名)はちゃんと起きている。 愛用のパソコンを置いた自室の机に向かっている。目が写し取っているのは、モニターとキーボード、そして、液晶画面に映る2次元の平面的な画像のはずだ。 「僕に見えてるのは、3D(3次元)の世界なんですよ」。俊平は、こともなげに言った。 NPO法人教育研究所(横浜市)の牟田武生所長(60)はしばらく、意味が理解できなかったという。が、分析するとこういうことだ。 日に十数時間も「ネットゲーム」に向かう俊平は、ゲームで展開される3Dの仮想世界を熟知してしまった。目はモニターの画面や樹脂製の枠など「現実世界」を見ているのに、脳は、仮想世界に広がる3Dの平原や森、人物として、視覚を再構成してしまっているのだ。 普通のモニター画面に特殊な処理を施して立体感を与え、3D画像を投影するゴーグル(眼鏡)型のモニターがあり、その力を借りれば、私たちも同じような視覚体験ができる。しかし、俊平に、ゴーグルは必要ない。 「ネットゲームにのめり込んでいる子供たちの中には、大勢いるんです」。牟田さんは言う。 ◇ インターネットを通じて世界中の愛好家が同じゲームに参加できるのが、ネットゲームだ。仮想世界で一緒に敵を倒したり、旅をしたりできる。家を建て、店を設け、“生活”を作り出すこともできる。 少年たちにとって、ネットゲームの世界はとても快適だ。一緒に遊ぶ親切な仲間がたくさんできる。共通の話題で盛り上がる。いじめもない。仮に、仲たがいしても、ほかのグループに乗り換えるだけでいい。 要するに、逃げ場だ。 朝起きた途端、パソコンを立ち上げてネットゲームに入る。トイレに行ったり、三食と、夜食用の弁当を買いに出かけたりする以外は、ずっと座ったままだ。 家に引きこもって不登校になり、学校の友人や教師と接触できなくなる。俊平のように、「現実を見ているはずなのに、仮想現実を見ている」ということにもなってしまう。 ◇ 「現実世界の経験が未熟な子供たちが、仮想世界で生き始めている。ネット上で生きられるはずもないのに。子供たちは、仮想世界にさらされた人間がどうなるのか試す、実験台になっているようなものだ」 群馬大学社会情報学部の下田博次教授(情報メディア論)(65)は、そう話す。 下田さんは「仮想世界から現実世界に戻る、『覚せい』の機会を確保しておくことが大事だ」ともいう。 しかし、四六時中ネットゲームに向かい、ゲームをしながら三食をかき込む少年たちに、自発的な覚せいのチャンスはない。 韓国や中国では、国家事業としてネットゲームへの規制が始まっている。ゲームに向かう時間をオンラインで監視し、自力で「中毒」から抜け出せないと判断された場合には、矯正施設に強制的に入所させるという思い切った施策だ。日本のネットゲーム人口は150万人とされる。牟田さんによると、ネットゲーム中毒によるとみられる不登校が、インターネットのブロードバンド化とともに、どんどん増えている。 こうした現実に向き合う勇気こそ、今の日本社会に求められている。
(2007年11月22日 読売新聞)
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