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(4)感性に世代間ギャップ東京大学情報理工学系研究科の廣瀬通孝(みちたか)教授(システム工学)(53)は、仮想世界を生み出す先端機器開発の陣頭にいる。体に着けて人の動きや思考を助ける「ウェアラブル(着られる)コンピューター」、こうした機器を駆使して、生涯で見聞きしたことを丸ごと記録してしまおうという「ライフログ」構想など、次々と打ち出してきた。 廣瀬教授の周りには、パソコンでしか文章を書けなくなった学生がいる。 「『手で書かなきゃいけないのは嫌だ』と学生は言う。ところが、これは、楽しみな現象でもあって、違った才能が出てきていると、とらえることもできる」 文書の構想から執筆、推敲(すいこう)までをパソコンの中だけでやってしまう学生たち。廣瀬教授は、いまだに「手書き派」の自分とは、頭の働き方が違うと感じるのだという。 ある不登校カウンセラーが「仮想世界に精通しているなら、コンピューター・シミュレーションを行う仕事に就かせてやれば、どうだろうか」と考えた。 ネットゲーム中毒の少年に、設計会社を紹介したら、これが見事にあたった。少年には、コンピューターグラフィックス(CG)の設計図をパソコンの中で操ることなど、造作もないことだ。会社からは才能を重宝がられ、引きこもりから抜け出して社会生活に戻ることにもつながった。 幼いころからゲームや仮想世界とつき合っている世代には、大人たちとは確実に違う何かがある。 ◎
ある著名なIT企業が数年前、事業の提案説明をパソコンだけでやるよう社員に命じた。「そんなことで、柔軟な議論ができるはずもない」。米マサチューセッツ工科大学メディア研究室の石井裕教授(51)は嘆く。 学生と議論をする時、石井教授は、大きな模造紙にイラストやチャート図を書き込ませる。パソコンに取って代わられた、オーバーヘッドプロジェクターも使う。対話相手が繰り出すアイデアに自らも入り込み、考えを伝える。そうすることで初めて、新たな世界を切り開く自由な発想が生まれる。コンピューターのモニター上で、それは不可能だ。そう信じている。 石井教授は「タンジブル(触(さわ)れる)ビット」という全く新しい考え方で仮想世界の分野に切り込み、注目された。キーをたたき、マウスを動かす仮想世界ではない。人間の触覚や視覚、聴覚をフルに使ってコンピューターを操作するのだ。 研究室の創設者に招かれて渡米する直前、岩手県花巻市の「宮沢賢治記念館」に一人向かった。展示されている、賢治の肉筆原稿を見たかったからだ。 原稿用紙に躍る文字を見つめ、心が震えた。何とも言えない温かさが、ガラス越しに伝わってきた。 「無味乾燥、無機質な仮想世界は、とんでもなく大切なものを人から奪っている」。石井教授の持論だ。 ◎
話題の仮想世界「セカンドライフ」を運営する米リンデンラボ社のフィリップ・ローズデール最高経営責任者(38)は15日、カリフォルニア州で開かれたIT関連の会議の際、セカンドライフの中から“出席”。本人の代わりに、CGで描かれた自身のアバター(分身)が画面上で演説し、「将来は、仮想世界で人々が会合することが、ごく一般的になる」と述べた。 次第に現実世界を侵食する仮想世界。ゲーム世代がそうであったように、人々の感性や認識も今後さらに変わっていくだろう。 廣瀬教授は言う。「コンピューターは道具に過ぎない。人間はこの道具の使い方を、まだ十分に理解しているとはいえない」。道具として使いこなす術(すべ)を得て初めて、コンピューターと人との真のセカンドライフ(次の生活)が始まるに違いない。(おわり)(この連載は、ワシントン・増満浩志、科学部・笹沢教一、増田弘治が担当しました) (2007年11月23日 読売新聞)
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