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アイチューンズストアが「DRM」解除背景にレコード産業の構造転換世界最大のデジタル・コンテンツ小売りサービス、「iTunes Store」が今年1月、販売する楽曲全体の約8割からDRM(Digital Rights Management)を解除した。 3月末までに全楽曲へと拡大する予定。この結果、ユーザーは購入した音楽を、CDやHDD、あるいは様々な携帯音楽プレーヤーに自由にコピーできる。ただし日本は今のところ例外。EMIを除く主要レコード会社の音楽は、まだ当面DRMが施される。 DRMとは、音楽などデジタルコンテンツの著作権管理技術。最大の問題は、方式が業界内で統一されていないことだ。これが原因で、アップルのアイチューンズストアで購入した音楽が、ソニーなど他メーカー製の携帯音楽プレーヤーで再生できないなど、消費者に著しい不便を強いてきた。 それはまた、音楽レコード業界やオンライン小売業者自身の首を絞める結果にもつながった。DRMが課す様々な拘束のため、音楽配信の売り上げが伸び悩んだのだ。一昨年まで急成長してきたアイチューンズストアでさえ、2008年には成長が大きく鈍化した。ただでさえCD売り上げの低迷に悩む音楽業界にすれば、新規ビジネスのオンライン配信まで頭打ちになるのは、是が非でも避けたい。そこで最大手のアイチューンズも含め、すべての音楽からDRMを解除することにしたのだ。 音楽は小売りからライセンス事業へしかし、こうした動きの背後では、もっと大きな変化が生まれている。国際音楽レコード産業連盟(IFPI)によれば、世界全体に出回るデジタル音楽の95%は、ファイル交換などによる違法コピー。したがって残り5%の合法的配信を、今後ともDRMで固守しても、焼け石に水だ。 もちろんオンライン配信の売り上げは今後とも増加するが、それはCDを中心とする音楽レコード市場全体の縮小を補うほどではない。結局、今のままではジリ貧に陥る。そこで欧米の音楽レコード業界は、ビジネスモデルの根本的な転換に乗り出した。それは「小売りからライセンス(使用権)ビジネスへの移行」だ。 その一例は、世界最大の携帯電話機メーカー「ノキア」が昨年秋に英国で開始した「Comes With Music」というサービス。ここではノキア製の端末を買った人は、主要レコード会社の楽曲500万曲から好きなものを1年間無制限で無料でダウンロードできる。しかし本当は携帯電話の価格の中に、あらかじめ音楽料金も含まれている。一方、レコード会社から見れば、自社の音楽カタログのライセンスをノキアに提供し、端末売り上げの一部を受け取る形だ。 ノキアは今年、このサービスを世界全体に広げる予定だが、実は同様の動きは端末メーカーのみならず、SNS業者も含めたIT業界全体で多々見られる。つまりレコード会社が提供する音楽ライセンスの上に、IT企業が新たなビジネスを構築し、両者で利益を分け合う格好だ。 結局、欧米の音楽業界がDRM解除に乗り出したのは、ファイル交換や動画共有などが普及した今、「音楽がコピーされるのはもはや仕方がない」と事実上、容認したことを意味する。音楽が自由にコピーできる時代に、それをコツコツと小売りするビジネスは難しくなる。もちろん小売事業が完全に消滅するわけではない。しかし今後ライセンス事業へと、業界の重心がシフトしていくことは確かだ。アイチューンズストアがDRMを解除したことで、そうした業界の構造転換が加速する。それは、いずれ日本にも波及するだろう。(KDDI総研・リサーチフェロー=小林雅一/2009年2月24日発売「YOMIURI PC」4月号から) (2009年3月12日 YOMIURI PC)
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