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「名簿屋」がネット犯罪を助長している![]() イラスト=成田明也
「アダルトビデオ購入者のリスト」「高級化粧品購入者リスト」「プレゼント応募者名簿」こんなデータが、公然とインターネットで販売されている。いわゆる「名簿屋」と呼ばれる業者が、ウェブサイトで名簿やリストを売っているのだ。あなたの個人情報が勝手に売買され、ネット犯罪の足がかりとしても利用されているのだ。(テクニカルライター・三上洋) ネット懸賞、無料サイト登録が罠名簿屋は、古くからある商売だ。社員名簿、学校の連絡名簿、各種会員リストなどを集め、それを通販業者やダイレクトメール業者に転売している。通販やダイレクトメールの業界では、商売に不可欠のツールとして利用されてきた。 名簿屋のビジネスは、パソコンとネットの普及によって拡大している。まず名簿をデータベース化することで、業者側が利用しやすくなった。年齢層を絞ったり、特殊な環境にある人だけを検索したりして探し出すことも可能。データをパソコンで検索できるようになったため、名簿やリストの価値が大きく高まり、ビジネスとして拡大した。 もう一つ、ネットの普及により、データの入手先が爆発的に増えたことも名簿屋のビジネスを拡大させている。インターネット懸賞の応募者リスト、無料サイトの登録者リストなどの流出で、名簿屋の扱うデータ量が増えてきた。 加えて異なる名簿やリストからのクロス集計もできるようになった。クロス集計とは、住所や電話番号から同一の人間のデータを集める方法で、「クレンジング(データの洗い出し)」とも呼ばれている。極端な例を挙げれば「○○大学を1990年卒業のAさん。その妻・Bさんは美容サロンに通い、子供のCさんはアダルトサイトに申し込んだ」などのように、家族全体のプロフィルまでわかってしまうことがある。単に名簿を売買するだけでなく、個人や家族の全体像まで見えてしまうのだから恐ろしい。 同窓会名簿からプレゼント応募者リストまででは名簿屋ではどんなデータがいくらぐらいで販売されているのだろうか。ある名簿販売サイトの一覧を見てみよう。 ●一般的な名簿 「大学・短大・専門学校の現役名簿」「民間企業の社員名簿」「大学OB会名簿」「県人会名簿」「公務関係職員録名簿」「老人クラブ名簿」など。 これらの名簿では、恐ろしいことに全国の大学・高校のリストがズラッと並んでおり、「昭和40年〜平成15年」のように、毎年のリストがあることが明記されている。1件当たり10円から30円程度で販売されているようだ。 ●特殊名簿(契約者や利用者の名簿) 「恋愛官能小説購入者」「成人向け有料放送契約者」「在宅ワーク希望者」「パチンコ攻略法購入者」「別荘所有者」「流通系クレジットカード会員」「テレクラを利用した事のある方」「アダルトコンテンツ会員」 こちらは特定のサービスや商品を購入したユーザーのリスト。「特殊名簿」と呼ばれており、特定のジャンルに絞ったユーザーの住所、電話番号、メールアドレス、属性データなどが書かれている。利用価値が高いためか、1件50円程度で販売している業者があった。 ●特殊名簿(アンケートなどによるもの) 「フリーペーパープレゼント応募者」「ダイエット食品キャンペーン応募者」「英会話アンケート回答者」 次はプレゼントやアンケートデータの流出データだ。扱っているデータは膨大で、あらゆるアンケートやプレゼントのリストが出ている。メールアドレスも含めた詳細な個人データが書かれている。上記の特殊名簿とほぼ同じか、安い価格で販売されていた。 アダルトや内職系では詐欺に利用される?これらの名簿の多くは、ダイレクトメール業者や通販業者が利用している。例えばエステサロンなら「美容アンケートの応募者リスト」を買って、商品広告のダイレクトメールを送る、といった方法だ。道義的には問題があろうが、これはまだ実害の少ない方である。 ![]() イラスト=成田明也
深刻なのは名簿が犯罪に利用されることだ。例えば「アダルトサイトの申込者名簿」「アダルトビデオの購入者リスト」は、架空請求メールに悪用されている。アダルト系の架空請求メールでは、身に覚えのある人が狙われる。一度でもアダルトサイトを使ったことがある人に架空請求を送れば、被害者は「もしかして、あの時の?」と勘違いして払ってしまう。だからこそ架空請求の詐欺業者は、アダルト系の利用者名簿を欲しがるのである。 また内職系やネットワークビジネスの名簿も詐欺に悪用される。例えば「在宅ビジネス資料請求者リスト」を詐欺業者が入手してメールを送る。「誰でも簡単にできる在宅のお仕事です」と称して、入会金をダマし取る詐欺のメールである。内職系やネットワークビジネスに関心のある人は、詐欺にダマされやすい人として狙われているのだ。このように名簿・リストは、詐欺のターゲットとして悪用される可能性が高い。 では名簿屋は、個人情報保護法に違反していないのだろうか。個人情報保護法では、個人情報を扱う企業に対しての制限が盛り込まれている。しかし個人情報を売買することに対する制限はない。売買を禁止しているわけではなく「適正な利用に限る」としているだけ。名簿やリストを売買すること自体を禁止すべきなのに、個人情報保護法ではそのような制限はないのである。 名簿屋のウェブサイトには「本人からの申し出があればリストから削除します(いわゆるオプトアウト)」「購入時には利用目的をお書きください(適正な利用に限るため)」と書かれている。あくまでも個人情報保護法の範囲内である、と自称しているわけだ。名簿の流出元を特定できれば個人情報保護法違反に問えるが、入手ルートを追うことは事実上不可能なので、名簿屋の責任を問うのは難しい。名簿屋は、限りなく黒に近いグレーと言えるだろう。 ただし名簿屋が個人情報保護法を守っているとうたうのは、あくまでもポーズ。法律の本来の目的である「消費者の個人情報を守ること」から外れていることは明らかだ。 安易にアンケート、プレゼントに応募しない名簿屋への対策はあるのだろうか。残念ながら一度流出したデータから、自分の名前を削除するのは不可能に近い。個人情報保護法では、本人の申し出があれば削除できるオプトアウトという仕組みがあるが、多数ある名簿屋すべてにそんな作業をするのは無理。実際問題として「おれの名前をリストから削除しろ」と要求しても、名簿屋が受け付けるかどうか怪しいものだ。頭にくる話ではあるが、流出してしまったデータはあきらめるしかない。 それよりも大切なのは、流出を未然に防ぐことである。まずアンケートやプレゼント応募に慎重になること。「アンケートで商品券がもらえます」「全員にプレゼント」などとして個人データを書かせるものには、できるだけ申し込まない。 商品券やプレゼントはタダでもらえるものではない。あなたの個人情報を、業者に売ることへの対価なのである。自分の個人情報を売ってもいい、と考えるなら構わないが、そうでなければアンケートやプレゼント応募はやめるべきだろう。また無料アダルトサイトへの申し込み、内職系やネットワークビジネスの資料請求もするべきではない。詐欺のターゲットとして狙われる可能性が高いからだ。 残念ながら法律はあなたの個人データを守ってくれない。流出を未然に防ぐ自衛策が必要である。 (2007年7月2日 読売新聞)
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